アラン・フィンリー探偵事務所(女×男女不問)

Danzig

第1話 アラン・フィンリー


ジェニファー:(N)ロンドン、イーストエンド

ジェニファー:(N)テムズ川が曲がりくねる、ここは、ロンドンの中でも、昔から「低所得者等(ら)が流れ着いて暮らしている」と表現される街

ジェニファー:(N)治安(ちあん)も、西側と比べれば、それほどいいとは言えない。

ジェニファー:(N)かつては、切り裂きジャックが、出没(しゅつぼつ)した場所でもある。

ジェニファー:(N)この街の、とあるビルの一室。 その部屋の前に、私は立っている


ジェニファー:まさか、「また」ここに来る事になるとはね・・・


コンコンコン(ノック音)


ジェニファー:(N)私は、木のドアに、ノックを3回した。 だが、ノックをしても返事はない


ジェニファー:(N)返事がないのは、この前と同じか・・・


ジェニファー:(N)私はドアノブを回した。 ドアにカギは、掛かっていない

ジェニファー:(N)私はドアを開けて、部屋の中に入る。

ジェニファー:(N)部屋は殺風景(さっぷうけい)だが、「小奇麗(こぎれい)に掃除されている」といった印象


ジェニファー:(N)30平米(へいべい)に、満たないオフィス。

ジェニファー:(N)部屋の電気が点(つ)いていないせいか、窓からの光だけでは、少々薄暗(うすぐら)い。

ジェニファー:(N)窓際に置いてある、少し大きめのデスクと、来客用のソファーが2つ・・そのソファーに、寝転がっている人物がいる


ジェニファー:(N)この人が男なのか、女なのかは分からない・・

ジェニファー:(N)年齢も、身長も、性別も、声も、何もかもが分からない、正体不明の人物・・今、私の目の前にある、この容姿が、この人の本当の姿などとは、思わない方がいい。

ジェニファー:(N)この人が今、起きているのか、眠っているのか、それすらも疑わしい


ジェニファー:ねぇ、アラン


アラン:ん? 誰?

アラン:あぁ・・確か「ジェニファーさん」でしたか、お久しぶりですね。 何か御用ですか?


ジェニファー:ええ、依頼よ。


アラン:そうですか・・じゃぁ、ちょっと待ってくださいね。 ふぁぁ~(あくび)

アラン:ちょっと眼ざめに、紅茶いれますから、 すみませんが、そこに座っててください


ジェニファー:ええ、分かったわ・・


ジェニファー:(N)アランは、部屋の電気をつけて、給湯室へと消えて行った。

ジェニファー:(N)彼が消えて直ぐに、給湯室から声が聞こえる


アラン:ジェニファーさんも飲みますか?


ジェニファー:いえ、私はいい。


アラン:そうですか・・


ジェニファー:(N)アランは、給湯室から戻ってくると、紅茶の入ったティーカップを一つ、ソファーの前にあるローテーブルに置いた


アラン:お待たせしました。 「アラン・フィンリー探偵事務所」へようこそ


アラン:今回の依頼はなんですか? 面倒な事は、遠慮したいんですが・・・


ジェニファー:依頼は前回と同じよ


アラン:前回って言っても、ジェニファーさんがここに来たのは、もう何年も前ですが・・


ジェニファー:ここは、そうそう来たくはない場所だから・・私がここに来る理由は、一つしかないでしょ


アラン:ほう。


ジェニファー:ある人間を殺して欲しいの


アラン:またですか?


ジェニファー:それが、あなたの仕事でしょ


アラン:ここは探偵事務所で、僕は探偵です


ジェニファー:表向きはでしょ?


アラン:いや、全面的に探偵ですよ。 ただ、あなたのような依頼の仕事も、「仕方なく」しているというだけです

アラン:そっちの方の顧客(こきゃく)は、数人しかいませんのでね、今は、殆どしてませんよ。


ジェニファー:勿体ない話ね。 由緒(ゆいしょ)正しい「殺し屋」の家系(かけい)が、しがない探偵なんて


アラン:僕は別に、殺し屋をやりたい訳じゃないんですよ。 ただ、僕の家が500年続く「殺し屋」の家系ってだけで、あなたのような人がやってくる。

アラン:だから、仕方なく仕事を受けているだけなんですよ。


アラン:まぁ、それなりのノウハウはありますので、それが探偵稼業(かぎょう)には、役立っていますがね。

アラン:もっとも、僕の素性を知る人間さえ、いなくなってくれれば、殺しなんて、しなくて済むんですけどね。


アランが、ジェニファー・コイルの方を、意味ありげにチラッとみる


ジェニファー:ちょっとちょっと、私を殺したって無駄(むだ)よ。 あなたは、既に、ロンドンの秘密情報部に認識されている。


ジェニファー:あなたが殺し屋である事を、見逃す代わりに、私達の都合で、人を殺してもらう。

ジェニファー:そういう関係が、あなたのお父さんの時から、続いてるのよ。

ジェニファー:今更、あなたの素性を知る人間を、全て消すなんて、出来ないわよ。


アラン:まぁ、そうですよね。 だから、仕方なく依頼を受けるんじゃないですか。

アラン:・・・と言っても、必要があれば、本当に、全部殺しますけどね。


ジェニファー:ええ・・・、それは分かってる。 実際に、あなたになら、それが出来る事もね。


アラン:で、今回は誰を殺すんですか?


アランに写真を見せるジェニファー


ジェニファー:この人。

ジェニファー:リミット・チャーチル、殺人鬼よ。


アラン:リミット・チャーチル?

アラン:殺人鬼という割りには、聞いた事ないですね。


ジェニファー:存在(そんざい)を、公(おおやけ)にはしていないからね。


アラン:ふーん・・・


ジェニファー:彼を殺そうとした人は、今まで全員死んだ・・・


アラン:ほう


ジェニファー:彼は念じただけで、人を殺す事が出来るようなのよ。


アラン:こんな現代社会の中で、何言ってるんですか、魔法の世界じゃあるまいし。


ジェニファー:でも、そう考えないと、説明がつかないの・・・


アラン:そうですか・・・まぁ、それはいいとして、

アラン:それじゃぁ、彼に気付かれないように、遠くから、狙撃(そげき)すれば、いいじゃないですか?

アラン:秘密情報部には、そっちの方の専門家もいるでしょう?


ジェニファー:やったわよ。


ジェニファー:300メートル先からの狙撃を試(こころ)みたわ。

ジェニファー:でも、引き金を引く瞬間に狙撃手が死んだ。


ジェニファー:500メートル先からもやってみたけど、結果は同じだったのよ。


アラン:へー

アラン:殺気を当てると、分かるんですかね?


アラン:ところで、その人は、生身の人間ですか?


ジェニファー:多分ね。


アラン:多分って、そんな適当な・・・

アラン:嫌ですよ、殺そうとしたら、人間じゃなかったとか・・・


アラン:そもそも、心臓を打ち抜いても、死なないとか、

アラン:それ、殺せませんからね。


アラン:もっとも、うちの家系では、人外(じんがい)の魔物(まもの)も殺したなんて、記録もあるようですけど、

アラン:僕は嫌ですよ。


ジェニファー:彼が、人間かどうかなんて、確かめようがないのよ。

ジェニファー:でも、人間というのは、多分間違いないと思う。


アラン:どうしてですか?


ジェニファー:彼は突然、その能力に目覚めたらしいの。

ジェニファー:彼のそれまでの経歴を、調べてみたんだけど、ごく普通の人間だったから・・・


アラン:じゃぁ、本物の、リミット・チャーチルが殺されて、別の何かが、入れ替わったという可能性は?


ジェニファー:それは・・・・ない訳では、ないけど・・・


アラン:うーん。


アラン:まぁ、それは考えても、仕方ないですね。

アラン:じゃぁ、殺気が当てられないのなら、罠でも仕掛ければいいじゃないですか。


ジェニファー:それもやったのよ。


アラン:で、どうだったんですか?


ジェニファー:失敗したわよ。

ジェニファー:だいたい、私がここに来てるんだもの、分かるでしょ。


アラン:まぁ、確かに、

アラン:そりゃ、そうですね。


ジェニファー:罠を張っても、罠が発動する直前に、

ジェニファー:罠を仕掛けた人が、死んだのよ。

ジェニファー:それと同時に、彼は罠から逃(のが)れたそうよ。


アラン:どうして、罠から逃(のが)れられたんですか?


ジェニファー:罠が発動しなかったらしいの。


アラン:へー


ジェニファー:それで、私達が出した答えが、

ジェニファー:彼を殺そうとするものは、無機物(むきぶつ)だろうと、死んでしまうってね。


アラン:「無機物が死ぬ」って、何言ってるのか、分かってるんですか?


ジェニファー:勿論、分かってるわよ。

ジェニファー:でも、それしか説明がつかないの。


アラン:で、罠って、どんな罠だったんですか?


ジェニファー:センサーによって、銃が発砲するような仕組みだったらしいわ。


アラン:それって、単なる不発だったんじゃないんですか?


ジェニファー:プロが仕掛けた罠よ、

ジェニファー:そんな時に、不発になるとは思えないのよ。

ジェニファー:しかも、同時に5カ所から、発射される仕掛けだったらしいけど、

ジェニファー:その5カ所とも、発動しなかったそうよ。


アラン:そうですか・・・

アラン:じゃぁ、僕にも、無理じゃないですか。


ジェニファー:もう、あなたに頼るしかないのよ。

ジェニファー:あなたなら、何とかなるかもってね。


アラン:じゃぁ、どうしてもっと早く、僕の所へ来なかったんですか?


ジェニファー:いや、あなたの手段が・・・その・・・

ジェニファー:あと、あなたの依頼料は、少々法外だから・・


アラン:依頼料が法外だとかいいますが、

アラン:そもそも、殺しの依頼自体が法外でしょ。


ジェニファー:まぁ、そうなんだけど・・・


アラン:ところで、このリミット・チャーチルの写真・・・

アラン:どうやって撮ったんですか?

アラン:ひょっとして、この写真を撮った人も、死んだんですか?


ジェニファー:いえ、写真を撮るときは、死を覚悟したようだけど、死ななかったわよ。

ジェニファー:彼を殺すつもりじゃなかったからかも。


アラン:ふーん・・・


暫く考えるアラン


アラン:分かりました。 一旦、お引き受けいたしましょう。

アラン:ただし条件があります。


ジェニファー:そう、やってくれるの! で、その条件ってのは?


アラン:まず一つ目、三か月程、猶予(ゆうよ)をください。


ジェニファー:三か月で彼を殺せるの?


アラン:いや、殺せるかどうかは、分かりません。 とりあえず、三か月程待って欲しいって事です


アラン:それで、もう一つは、もし、僕が「殺せない」と判断したら、この仕事を降(お)ります。

アラン:僕も、命の方が大事ですからね


ジェニファー:・・・まぁ、それは仕方ないわね・・


アラン:報酬は100万ポンド。


ジェニファー:ひゃ、ひゃく・・・


アラン:ええ、でも、僕が仕事を降りた場合は、その8割をお返ししますよ


ジェニファー:それにしたって・・・


アラン:報酬には、殺しに関わる、調査から武器、乗り物などの調達まで、全ての経費が含まれているんです


ジェニファー:でも・・・


アラン:それでダメなら、他を当たって下さい


ジェニファー:・・・わ、分かった、それで頼むわ


アラン:ふふ・・


ジェニファー:どうしたの? 何故、笑うのよ


アラン:いやね、前回は確か、報酬額を聞いた時に、「上に聞いてみないと返事できない」って、言ってたじゃないですか、

アラン:今日は、この場で決めましたよね。

アラン:つまり、最初から、それくらいの報酬は、覚悟してたって事でしょ?


ジェニファー:・・・いや、それはそうなんだけど、やはり高くてね・・

ジェニファー:せめて、武器とか・・いや乗り物くらい、こちらで用意させてくれれば・・


アラン:それじゃ、僕が困るんですよ。殺しの秘密は、知られたくないですからね


ジェニファー:そう・・わかったわ


アラン:では、3カ月くらい後に連絡を入れます


ジェニファー:わかった、待っているわ




アラン:(N)それから暫くの間、僕は、リミット・チャーチルを観察した

アラン:(N)彼が何処(どこ)に住み、何を食べ、誰と何を話すのか、朝、昼、晩。 一日中、何日も観察を続けた


アラン:(N)ジェニファーさんからもらった、情報部の資料と照らし合わせながら、彼の性格や、行動のパターンを探り出す

アラン:(N)そこで分かってきた事がある


アラン:(N)資料によると、リミット・チャーチルは、ごく普通の生活をする、ごく普通の人間だったようだ。

アラン:(N)いや、「ごく普通の」というのは、少し違っているかもしれない。

アラン:(N)彼は、コミュニケーションに障害を抱えており、自分の事を表現する事が、苦手だったと記録されている

アラン:(N)リミットがこの能力を最初に使用したのは、5年前。 ある事件がきっかけだったようだ。 資料によるとこうだ・・


ジェニファー:(N)4月某日、

ジェニファー:(N)路(みち)を歩いていた、リミットの前を、一人の外国人の少女が、走って横切ろうとし、足を躓(つまづ)き転んだ


アラン:まぁ、そこまでは、特に珍しくもない光景だったろう。


ジェニファー:(N)泣きじゃくる少女をなだめようと、リミットが少女の前に、腰(こし)を屈めた時、少し離れた場所から、その少女の母親が、叫び声をあげた。

ジェニファー:(N)母親はヒステリックに、そして、周りに聞こえるような大きな声で、リミットに対して、少女から離れるようにと叫んだ

ジェニファー:(N)それは、母親の単なる勘違いだった

ジェニファー:(N)しかし、コミュニケーションに障害を抱えるリミットにとって、それの光景は、彼がパニックになるのには、十分なものだった。


アラン:少女はただ、その場で泣きじゃくるだけ。 母親はヒステリックに叫ぶ。 周りの人間は、リミットを怪訝(けげん)な眼差しで見つめる・・

アラン:そんな光景は、容易に想像ができる。

アラン:リミットはさぞ、戸惑(とまど)っていた事だろうね


ジェニファー:(N)そこに、三人の警察官が駆けつけ、銃を抜いてリミットを睨みつけ、少女から離れるように促した


アラン:よりによって、警官が近くにいたとは・・タイミングが悪いというか、なんというか・・リミットは、益々(ますます)、パニックになったのだろうね。


ジェニファー:(N)リミットは、その場から逃げ出そうと、走り出した。 その時、一番若い警察官が、リミットに向けて拳銃を発砲した。

ジェニファー:(N)いや、発砲しようと、指に力を入れた、その瞬間、その警察官は白目をむき、その場に倒れた


アラン:アメリカじゃあるまいし、何故、そこで発砲する必要があるんだよ

アラン:ロンドンの警官も、アメリカ並みの知性になったか・・


ジェニファー:(N)他の二人の警察官は、同僚の警官が倒れるその光景を見て、危険を感じたのか、リミットに向けて、拳銃を発砲しようとし、若い警察官と同様、即時(そくじ)に絶命(ぜつめい)した。

ジェニファー:(N)そして、周囲が騒然(そうぜん)となる中、3人の警察官の死体を残し、リミットは逃走した。

ジェニファー:(N)それが最初の事件だった



アラン:なるほどね、リミットは、この恐怖体験が切っ掛けで、能力に目覚めたという事か・・・


アラン:この資料を見る限り、誰かがリミットを殺して、入れ替わったとも思えないし、まぁ、生身の人間ってのは本当らしいな、

アラン:殺して死ぬかどうかは、別にして・・


ジェニファー:(N)その後、警察の医療班が、警察官の死体を、念入りに解剖し調査をしたが、

ジェニファー:(N)死体には、外傷はなく、内臓など内部組織の損傷もない。

ジェニファー:(N)医学的には、死因らしい死因が、全く分からないという結果だった。

ジェニファー:(N)事件発生当初、スコットランドヤードでは、リミット・チャーチルを、指名手配するという動きはあったが、この結果を受けて、リミット・チャーチルの案件は、秘密情報部で扱う事となった。


アラン:死因らしい死因がないか・・・まるで、生命が突然、遮断されたって感じだったのだろうか。

アラン:確かにこれじゃ、「念じただけで人を殺す」と思われても、仕方がないな・・・


ジェニファー:(N)そして、この結果を受けて、秘密情報部は、この不思議な力を手に入れようと、リミット・チャーチルに何度も接触を試みた。

ジェニファー:(N)しかし、リミットはこれを拒み続けた。


アラン:そりゃ、そうだろうな、どう考えても、実験台にされるか、都合よく、組織に使いまわされるのが、分かってるからね。

アラン:組織に付いて行ったら、二度と帰る事が出来ない事くらい、容易に想像がつく。

アラン:おそらく、彼もそう思ったんだろう。


ジェニファー:(N)何度もリミットに拒否された秘密情報部は、「手に入らない危険な力は、他の組織に利用される前に、排除する」という結論に達した。

ジェニファー:(N)そして、リミット・チャーチルの暗殺が計画された。


ジェニファー:(N)しかし、リミット・チャーチルの暗殺計画は、奇襲(きしゅう)、狙撃(そげき)、罠(わな)、毒(どく)・・・

ジェニファー:(N)考えられる、あらゆる方法で、暗殺を試みたが、全て失敗。

ジェニファー:(N)この計画中に死亡した情報部のメンバーは、全部で8人にのぼる。


アラン:お決まりの展開だね、一方的に力になれと言われて、それを拒んだら、今度は命を狙われる・・・か、

アラン:国のご都合主義にも、呆(あき)れるね。

アラン:リミット・チャーチルに、同情してしまいそうだ。


アラン:(N)情報部の資料で、大体の情報を得た僕は、その後も、リミットの観察を続けた。

アラン:しかし、僕が観察した限りにおいて、彼は「平凡な生活」を望み、それを実践しようとしている、「ごく一般的な市民」でしかなかった。


アラン:いや、一般的な市民よりも、ずっと善良(ぜんりょう)で、模範的(もはんてき)ともいえる市民だ。

アラン:彼は、自分がコミュニケーション能力に障害がある事を、自覚している。

アラン:それゆえに、より一層、善良である事を、心がけているようだった・・・


アラン:彼が、秘密情報部の接触を拒み続けたのも、この「平凡な生活」を、望んでいたからだろう。


アラン:(N)ここで僕には、どうにも解(げ)せない事柄が、浮かび上がってきた。


アラン:(N)この依頼を持ってきたジェニファー・コイルは、リミット・チャーチルの事を「殺人鬼」と表現していた。

アラン:(N)何日も、彼の観察を続けた僕には、どうしても、彼が殺人鬼とは思えない。


アラン:(N)実際、僕が彼を観察してから、彼は殺人を犯(おか)していない。

アラン:(N)僕の目を盗んで、殺人を犯すなんて、不可能だ。


アラン:(N)そして、僕はこの疑問を、ジェニファーにぶつける事にした。


トゥルルルルル

ジェニファー・コイルの携帯電話がなる


ジェニファー:電話・・・

ジェニファー:え? アランから・・・

ジェニファー:はい、ジェニファー・コイルです。


アラン:僕です。


ジェニファー:あぁ、アラン。

ジェニファー:どう?、進捗は。


アラン:ぼちぼちですね。

アラン:ちょっと、ジェニファーさんに、聞きたい事があるんですが・・・


ジェニファー:え?

ジェニファー:聞きたい事って?


アラン:ジェニファーさんが、僕にこの依頼を持ってきた時、

アラン:リミット・チャーチルの事を「殺人鬼」と言っていましたね。


ジェニファー:ええ・・・


アラン:僕が見たところ、彼は殺人を犯してないですよ。

アラン:どうして、彼を「殺人鬼」呼ばわりするんですか?


ジェニファー:・・・・


アラン:何か、言えない事情があるんですか?


ジェニファー:・・・いえ、そういう事じゃないんだけど・・


アラン:では、どういう・・


ジェニファー:・・・・

ジェニファー:理由がいるのよ


アラン:理由・・・ですか?


ジェニファー:ええ、リミット・チャーチルを殺害する為の理由がね。


アラン:そんなものが、どうして・・・


ジェニファー:秘密情報部って言っても、結局は国の組織でね。

ジェニファー:頭の固い連中が、何人か上にいるのよ。


ジェニファー:リミットも、あなたの存在と同じでね、

ジェニファー:混乱を避ける為に、組織の中でも、ごく一部の人間にしか、

ジェニファー:リミットの能力については、知らされていないの。


ジェニファー:彼の能力を知らない連中に対して、リミットを殺害する、それなりの理由がいるのよ。

ジェニファー:実際、リミットは、警察官も含めて11人を殺しているから、

ジェニファー:「殺人鬼」としておくのが、都合がいいのよ。


アラン:そうですか・・・反吐(へど)がでますね。

アラン:リミット・チャーチルが、一番何を望んでいるのか、ジェニファーさんは、知っていますか?


ジェニファー:ええ、ある程度はね。

ジェニファー:私も、個人的には、彼に同情しているのよ。

ジェニファー:でも、私は仕事上、彼を殺さなきゃいけないの。

ジェニファー:仕事で人を殺す、あなたと同じね。


アラン:そうですか・・・

アラン:でも、僕と同じといっても、僕はまだ仕事を「受ける」とは言ってないですけどね。


ジェニファー:いえ、あなたは「断る」と言っていないだけよ。


アラン:・・・・そうでしたね。


ジェニファー:で、彼を殺せそう?


アラン:ええ、多分。

アラン:僕の予想が正しければ、彼を殺す方法はありそうですね。


少し安堵の表情を見せるジェニファー


ジェニファー:そう・・・出来そうなの・・・


アラン:でも、僕はまだ「断る」と言っていないだけですよ。


ジェニファー:・・・そうだったわね。


少し考えるアラン


アラン:また、少ししたら連絡します。


ジェニファー:ええ、いい返事を待ってるわ。


アラン:では・・・


アラン:(N)そう言って、僕は電話を切った。


アラン:(N)電話を切った後、デスクの椅子に座り、僕は考える。


アラン:(N)全く歓迎(かんげい)しない、悪魔のような力を、手に入れてしまった男。

アラン:(N)その能力によって、自分の命が狙られ、殺したくもない相手が、勝手に死ぬ。

アラン:(N)そして、自分の望む平凡な日常が、どんどん脅(おびや)かされていく・・・

アラン:(N)おそらく、彼の能力を、一番疎(うと)ましいと思っているのは、リミット本人だろうな。

アラン:(N)心底、彼には同情するよ。


アラン:(N)せめて彼が、その能力を使って、カルト教団の教祖や、快楽殺人者にでもなってくれれば、

アラン:(N)心置きなく、殺せるんだけどなぁ


アラン:(N)僕のような殺し屋が、正義を語れるなんて、思ってはいないが、

アラン:(N)同情する相手を殺すなんてなぁ・・


アラン:(N)殺し屋の家系が、つくづく嫌になる。

アラン:(N)親父達も、こんな気分を味わっていたのだろうか・・・



ジェニファー:(N)アランのあの電話から、およそ10日後、

ジェニファー:(N)アランから、事務所に来てくれとの連絡があった。


ジェニファー:(N)私は翌日、アラン・フィンリー探偵事務所へと向かった。


コンコンコン


ジェニファー:(N)私は、「アラン・フィンリー探偵事務所」と書かれた、木のドアをノックをする


アラン:開いてますよ。


ジェニファー:(N)中からアランの声がする。


ジェニファー:(N)ドアを開けて中に入ると、アランは、部屋の奥のデスクに座っていた。



アラン:ジェニファーさん、呼び出してすみません。


ジェニファー:いえ、いいの。

ジェニファー:私のオフィスに来てもらう訳にも、いかないし、外で会う訳にも、いかないから


アラン:そうですね


ジェニファー:で、結論はでたの?

ジェニファー:リミット・チャーチルを殺すのか、依頼を断るのか。


アラン:申し訳ありませんが、まだ結論は出ていません

アラン:今日は、ジェニファーさんにお願いがあって、来てもらったんです。


ジェニファー:お願い? 私に?


アラン:ええ、

アラン:少々、僕と賭けをして下さい。


ジェニファー:賭け?


アラン:ええ


ジェニファー:(N)そう言って、アランは携帯電話を私に渡した。


ジェニファー:これは?


アラン:それが、賭けをするための道具です。


ジェニファー:これが?


アラン:ええ、

アラン:賭けの内容はこうです。

アラン:今から3日後、

アラン:水曜日の13時30分に、その携帯電話から、指定の番号に電話をかけてください。


ジェニファー:それだけ?


アラン:ええ、それだけです。

アラン:誤差(ごさ)の猶予(ゆうよ)は10秒です。

アラン:ですから、正確には、水曜日の13時29分50秒から、13時30分10秒の間に、電話をかけてください。

アラン:できますか?


ジェニファー:・・・・


アラン:もし、ジェニファーさんが、指定の時間に、電話を掛けられなかった場合、

アラン:もしくは、指定の日時以外に、電話をかけた場合、

アラン:そして、その携帯電話と指定の電話番号について、秘密情報部が調査をした場合

アラン:その場合は、僕はこの依頼を断ります。


アラン:このまま何もせずに、ジェニファーさんが、指定の時間に電話を掛ける事が出来た場合、

アラン:僕は、この依頼に対して、正式に回答をします。


ジェニファー:随分と一方的ね、

ジェニファー:依頼をしたのは、私の方よ。


アラン:難しそうですか?


ジェニファー:それくらいは、難しくないだろうけど・・・

ジェニファー:そういう問題じゃなくて、どうして私が、あなたの一方的な賭けに、乗らなきゃいけないのかって事よ。


アラン:ジェニファーさん、

アラン:僕はこの案件には、少々疑問がありまして、

アラン:それを解決する為に、この賭けに乗って貰いたいんです。

アラン:ジェニファーさんの組織が、僕の信用に足る所かどうか・・・


ジェニファー:まぁ、そういう事なら・・・

ジェニファー:でも、誰かが、その時間に私に電話をかけさせないように、邪魔をするとか、そういう事はあるの?


アラン:いえいえ、そういう事はしませんよ。

アラン:僕はただ、ジェニファーさんが約束を守れるかどうか、知りたいだけです。


ジェニファー:まぁ、そういう事なら、仕方がないか・・・

ジェニファー:でも、「正式な回答」と言ったけど、

ジェニファー:必ず受けると言わないのは、断る可能性もあるという事かしら?


アラン:そういう事になりますね。


ジェニファー:・・・・・


アラン:正直、まだ、リミット・チャーチルを殺せるかどうか、僕にも分からないんですよ


ジェニファー:それが電話と、何か関係があるの?


アラン:いや、その頃には、分かっているだろうという話です。


ジェニファー:・・・・そう・・


アラン:どうです? ジェニファーさん、

アラン:賭けにのりますか?


ジェニファー:この賭けに乗らないと、依頼は断るんでしょ?


アラン:そういう事になりますね。


ジェニファー:・・・わかったわ、いいでしょう。


アラン:そうですか、よかった。

アラン:それでは、僕の話はそれだけです。


ジェニファー:・・・・


アラン:この後、一緒にランチでも食べに行きますか?


ジェニファー:いや、やめておくわ


アラン:そうですか・・・


ジェニファー:アラン、一つ聞いてもいいかしら?


アラン:なんですか?


ジェニファー:あなたが、依頼を断る可能性を残しているのは、リミットが善人(ぜんにん)だから?


アラン:・・・・・


ジェニファー:もし、あなたが善人を殺したくないという理由で、依頼を断るのであれば

ジェニファー:私個人としては、それはそれで、仕方がないと思っているの。

ジェニファー:でも、私は仕事上、私の心情に関わらず、彼を殺さなければならないの、

ジェニファー:もし、あなたが依頼を断るなら、彼を殺す方法だけでも、教えてくれないかしら?


アラン:ジェニファーさん

アラン:僕が回答を保留している理由の中に、「彼が善人だから」というのが、無い訳ではありません。

アラン:でも、僕は、これでも殺し屋ですからね、

アラン:もし、依頼を断る事があったとしても、多分、それが理由になる事はありません。

アラン:それに


ジェニファー:それに?


アラン:例え、殺す方法を教えたとしても、あなた達の組織には無理です。


ジェニファー:そう・・・わかったわ。


ジェニファー:(N)そう言って私は探偵事務所を後にした。


ジェニファー:(N)それから3日間

ジェニファー:(N)私は、仕事が手に付かなかった。


ジェニファー:(N)3日後の水曜日、

ジェニファー:(N)私は、秘密情報部の一室にいた。

ジェニファー:(N)誰も入って来ないように、ドアに鍵をかけて、一人、部屋に閉じこもり、

ジェニファー:(N)時計と、携帯電話を見つめていた。


ジェニファー:(N)そして、13時29分50秒を確認して、私は指定された番号に、電話をかけた。



ジェニファー:(N)しかし、携帯電話からは、

ジェニファー:(N)ツーツーツー

ジェニファー:(N)という音が聞こえるだけだった。


ジェニファー:(N)電話は、どこにかかっていたのか・・・

ジェニファー:(N)いや、掛かっているのか、いないのか、

ジェニファー:(N)それすらも、よく分からなかった。


ジェニファー:(N)私は発信履歴から、電話番号を何度も確認した。

ジェニファー:(N)しかし、何度確認しても、発信した番号は、間違っていなかった


ジェニファー:どういう事?・・・


ジェニファー:(N)私は、訳が分からなかった


ジェニファー:(N)アランとの約束の時間を、3分程過ぎた時、

ジェニファー:(N)私は、アランに、確認の電話を掛けた。


トゥルルルルル(電話がなる)


アラン:はい、アランです。


ジェニファー:私よ、ジェニファー。


アラン:あぁ、ジェニファーさん。


ジェニファー:今日、約束の時間に、指定された番号に、電話を掛けたわよ。

ジェニファー:約束通り、携帯も、電話番号も、調べていない。

ジェニファー:ただ、電話の音が、妙(みょう)なの、

ジェニファー:正確に電話を掛けられたのか、どうかが、分からないの。


アラン:そうですか、分かりました。

アラン:多分、大丈夫です。


ジェニファー:そう、それはよかった。

ジェニファー:で、今回の依頼の回答は?


アラン:その件については、近いうちに、ジェニファーさんに、届けられると思いますよ。

アラン:それまでお待ちください。

アラン:僕は少し、別件で立て込んでおりますので、これで・・


電話が切れる


ジェニファー:ねぇ、アラン!

ジェニファー:ちょっ・・・


ジェニファー:(N)電話の向こうのアランは、淡々と話し、そして電話を切った・・


ジェニファー:(N)それから少しして、私は部屋を出た。


ジェニファー:(N)私は、情報部の自分の机に戻ったけど、リミットの案件が気になって、仕事が手に付かない


ジェニファー:(N)何も出来ないまま、3時間ほど経っただろうか、

ジェニファー:(N)突然、私のもとへ、知らせが入った、

ジェニファー:(N)「リミット・チャーチルが死んだ」と。


ジェニファー:(N)突然の事に、戸惑いながらも、知らせを持ってきた職員に、詳しい状況を聞いた。


ジェニファー:(N)今日の13時35分頃、8番地で突然地面が崩れ落ち、その事故に巻き込まれた人物が、死亡した。

ジェニファー:(N)その人物の身元を確認したところ、リミット・チャーチルだったという事だった。


ジェニファー:そんな事が・・・



ジェニファー:(N)私は、崩落(ほうらく)現場へと、足を運んだ。

ジェニファー:(N)地面は半径2メートル程の、丸く穴が開(あ)くように崩れており、

ジェニファー:(N)深さは3メートルを超えていた。


ジェニファー:(N)情報部の話によると、

ジェニファー:(N)この通りは、もともと人通りが少ない通りだったが、それでも、今日の午前中だけでも、何人かがこの道を通っているらしい。


ジェニファー:(N)しかし、13時35分頃に、リミット・チャーチルがそこを通った途端に、地面が崩れたようだった。

ジェニファー:(N)リミットが穴に落ちた後、周りの土砂も崩れ、リミットは、全身打撲と土砂による窒息で、死亡した。


ジェニファー:(N)私は、この話を聞いて、ある確信をもって、アランのところへ向かった。



コンコンコン


ジェニファー:(N)私は、「アラン・フィンリー探偵事務所」と書かれた木のドアをノックをする。


アラン:どうぞ、開いてますよ。


ジェニファー:(N)中からアランの声がする。


ジェニファー:(N)ドアを開けて中に入ると、

ジェニファー:(N)アランは前回と同じように、部屋の奥のデスクに座っていた。


アラン:ジェニファーさん、そろそろ来る頃だと、思っていました。


ジェニファー:アラン、

ジェニファー:リミットの話は聞いたわよ、あなたがやったのよね。


アラン:ええ、勿論、

アラン:これで、依頼達成という事でいいですね?


ジェニファー:え、ええ・・


アラン:それはよかった。


ジェニファー:アラン

ジェニファー:一つ教えてくれない?


アラン:何をですか?


ジェニファー:どうやったの?

ジェニファー:どうやってリミットを殺したの?


アラン:あれ?

アラン:ジェニファーさんは、現場に行かれたのかと、思ってましたが・・・


ジェニファー:ええ、行ったわよ。


アラン:じゃぁ、分かるでしょ、落とし穴ですよ。

アラン:古典的な手法ですが、落とし穴は、殺人手段としては結構有効なんですよ


ジェニファー:いえ、私が聞きたいのは、そんな事じゃない。

ジェニファー:私達もリミットを殺す為に、罠をいくつか試してみたけど、全て不発だったのよ。

ジェニファー:なのに、どうして・・・


アラン:あぁ、その事ですか。

アラン:これは殺しのテクニックですので、本来は秘密にしておきたい事なんですが・・・

アラン:まぁ、今回はお話しましょう。


アラン:秘密情報部の仕掛けた罠が、全て不発に終わったのは、その罠が、リミット・チャーチルを狙った罠だったからですよ


ジェニファー:どういう事?


アラン:ジェニファーさんも、気づいていると思いますが

アラン:リミット・チャーチルは、自分に向かう殺意に対して、カウンターのように、能力が発動するようです。


ジェニファー:ええ・・・まぁ、確かにそうだけど・・


アラン:だから、リミット・チャーチル本人を、直接狙った罠は、発動しなかったんだと、僕は思っています


ジェニファー:それじゃ、あなたの罠は・・・


アラン:僕の仕掛けた罠は、リミット本人を狙ったものではありません。


ジェニファー:それは・・・どういう事?


アラン:僕の罠は、発動してから、最初に通る人間が、穴に落ちるという仕掛けです。

アラン:リミットは「たまたま」最初に通る人間となっただけです。


ジェニファー:それじゃ・・リミット以外の人間がそこを通ったら・・


アラン:ええ、勿論、その人が死んでましたね

アラン:そして、もしそれで、リミットを殺し損ねたら、今度はいつ彼を殺せるのかが、分からなくなる・・・

アラン:だから、依頼の回答を、保留していたんですよ。


ジェニファー:それは分かったけど、

ジェニファー:無関係の人が死ぬかもしれないのよ、

ジェニファー:よくも、そんな仕掛けを・・・


アラン:だから、ジェニファーさんに言ったでしょ? 殺す方法を教えても、秘密情報部では無理だって。


ジェニファー:・・・・まぁ確かに・・・


アラン:僕は殺し屋ですからね、

アラン:最適の方法で、ターゲットを殺せるのなら、他の人間が死ぬ可能性など、大した障害にはなりません。


ジェニファー:つくづく、あなたを怖いと思うわよ


アラン:それは、誉め言葉として受け取っておきます。



ジェニファー:もう一つ、教えてくれないかしら。


アラン:なんでしょう?


ジェニファー:リミットはそれで殺せたとして、

ジェニファー:私達の仕掛けた罠では、罠を仕掛けた人は死んだのよ、

ジェニファー:なぜ、あなたは生きているの・・・


アラン:それは、さっきも・・・


ジェニファー:いえ、例え罠が、リミット本人を直接狙ったものでなかったとしても、

ジェニファー:罠を仕掛ける時には、リミットが罠にかかる事を、想定していたはずよ

ジェニファー:なのになぜ・・・


アラン:あぁ、それはですね・・・

アラン:多分、僕が罠の発動を知らなかったからですよ。


ジェニファー:「知らなかった」ってどういう事?


アラン:あの落とし穴は、ただ「穴が空いているだけ」じゃないんです。

アラン:ある条件で、罠が発動する仕掛けになっていて、発動する前であれば、誰が何人通ろうと、穴には落ちません。


アラン:実際に、今日の午前中にも、何人かが罠の上を通っているはずです。

アラン:それだけじゃない、罠は数日前に出来ていますので、

アラン:リミット本人も何度か、穴の上を通っているんですよ。


ジェニファー:ええ、確かに、今日の午前中にも、人は通っていると言っていたわね


アラン:あの落とし穴に、非常に高い確率でリミットを落とす為には、極めて限定的な時間に、罠を発動させる必要があったんです。

アラン:でも、僕は、その時間帯の事は知っていても、その時間に罠が発動するかどうかを、知りませんでした。


ジェニファー:知らなかった・・・って、まさか


アラン:僕が何日もかけて、リミットチャーチルを観察した結果、

アラン:リミットだけが、あの穴の上を通る確率が、極めて高い時間帯がありました。

アラン:まぁ、リミットが善良な市民を心がけて、いつも同じルーティーンを、繰り返してたからなのですが・・・


アラン:そして、その時間帯とは、水曜日の13時30分から40分前後・・・


ジェニファー:私の電話・・・

ジェニファー:あれが、罠の起動装置(きどうそうち)になっていたのね・・・


アラン:僕は、ジェニファーさんが、約束通りに、罠を発動させるかどうか、分かりませんでしたからね。

アラン:わざと、その時間帯に別件(べっけん)を入れて、罠の発動に、意識が向かないようにしていました。


アラン:それでも、僕が死ぬ可能性はあったのですが、

アラン:まぁ死ななくてよかったです。


ジェニファー:私も死ぬ可能性があったのね・・


アラン:ええ、

アラン:ジェニファーさんの死ぬ可能性は、僕よりも遥かに高かったですね。

アラン:でも、お互い死ななくて何よりでした。


ジェニファー:はぁ・・(ため息)

ジェニファー:それなら、そうと・・・


アラン:だから「賭け」だと言ったんです。

アラン:それに、事前に事情を教えていたら、ジェニファーさんは、多分死んでましたよ。

アラン:ジェニファーさんに、リミット殺しを意識させないようにしたから、死ななかったんです。


ジェニファー:・・確かに・・・


アラン:誰も、彼には殺意を抱(いだ)いていない、

アラン:だから、誰も死ななかった。

アラン:それが、今回の顛末(てんまつ)だと思っています。


ジェニファー:話は分かったわ

ジェニファー:しかし、それにしたって・・


アラン:そうですね、ジェニファーさんにとっては、惨(ひど)い話だと思いますよ。


アラン:でも、僕にとっては、ジェニファーさんが死ぬのは、

アラン:リミット以外の人間が、リミットより先に罠を踏む事と、あまり変わらないんです。

アラン:殺し屋ですからね。


ジェニファー:(N)私はその時、背筋が凍る感じを覚えた。


アラン:これで疑問は解決しましたか?

アラン:それでは改めて、これで依頼は完了という事でいいですね。


ジェニファー:ええ・・それで問題ないわ。


アラン:それはよかった。

アラン:僕としては、できれば、もう殺人の依頼は、しないで欲しいですね。


ジェニファー:ええ、私も心底そう思ってるわよ


ジェニファー:じゃぁ、私はもう行くわ


アラン:はい、

アラン:では、お気をつけて。


ジェニファー:ええ・・・



ジェニファー:(N)私は、この事務所の主人に背を向けて、

ジェニファー:(N)「アラン・フィンリー探偵事務所」と書かれた木の扉を開けて、外にでた

ジェニファー:(N)「もう二度と来るか!」という、吐き捨てる想いを、抱えながら・・・


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アラン・フィンリー探偵事務所(女×男女不問) Danzig @Danzig999

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