そくせき

灯村秋夜(とうむら・しゅうや)

 

 あの、ほんとに大丈夫なんですよね? ここならどうにかなるかもって……これまでの話でも、わりとヤバげなのありましたけど、解決してるんですか? この件が解決しなかったら、俺たぶん死ぬと思うんですけど。いや、そうじゃなくてもマズいのに。あんなこと起こるなんて聞いてないって……。パソコンの……あれなんて言うんだろう、ウイルス……あ、それそれ。セキュリティソフトで見たものの話なんですけど。


 最近になって、新しい後輩がサークルに入ってきて。いっつもパソコンいじってるし、ゲームとかもかなり好きだって言うんで、何やってんのかなって思って見てたんですよ。けっこう面白そうかなっていうか、俺もやってみたいな的な? でもまあ、詳しくないんで。その後輩、財田ってやつに「それどうやんの」って聞いてみたんですよ。そしたら、こうやってこうやって、って。

 パソコン詳しくないんでアレなんですけど、USB差してこのファイル開けば遊べますんで、ってことで……受け取ったんです。ゲームの内容? めっさ古いRPGみたいな感じかなあ。俺らの世代だと逆に斬新っていうか。危ないソフトとか、法律スレスレの海賊版とかじゃなかった、んじゃないですかね。パソコンで遊んでたんで、ふつうのゲームソフトじゃないと思いますけど。

 家に持って帰って、家のパソコンにぷすっと。しゅこっと? 差しました。そこまでは何もなくて、単に遊ぶだけ的な考えでいたんですよ。ただまあ、そっから先がちょっとおかしくて……セキュリティソフトの画面がね、USBをスキャンしますかって出たんですよ。これ自体は正しい機能っぽいんですけど、さささーっと流れていく文字の中に、ぜんぜん見たことない文字が混じってて。

 どんな、……どんなって、こう……カエルの卵みたいっていうか、もっとキショかったかな。目ん玉で作ったハンバーグみたいな、もうキモくてたまんなくて、なんなんだこれってなりました。いや、文字なんですよそれ。ファイル名。スキャン結果として「問題ない」って出てきても、さっきのはいったい何だったんだろう、って思って当然じゃないすか。アドレスの見かたは俺も知ってたんで、見ました。

 ん? いやほら、あるでしょアレ、ドライブとかファイル名とかでどんどん潜っていく感じの。クイックアクセスとか使いません? いちいち開くのめんどいんで、最近はかなり使ってるんですけど。ひとつひとつ開いていくのも、まだ使ったことないところにはやるしかないんですけどね。


 財田から渡されたUSBのファイル名は「ゲーム」でした。その中に、あいつが遊んでたゲームのタイトルはもちろんあったんすけど……「なぺのが」だったかなあ、何語なのかさっぱりな名前のがすぐ下にあったんですよ。何語か分かります? ギリシャ語とか。違いますか。すいませんて、冗談ですよ。ギリシャ語って英語のもとになってるんすよね? だったら少しはそれっぽい響きとかありそうですよね。スクールがスコーレだとか。

 その「なぺのが」ってファイルを開いて、さっき見たアドレスの通りに「かかべむむ」を開きました。いや、マジでそういう名前なんで。そうしたら、あったんですよ。あの文字、ぐちゃぐちゃでべたべたで……じっさい、腐った挽き肉とか目の前にあっても、あんなに不愉快な気分にはならないんじゃないかな。とにかくキモかったです。文字を見るだけでもそんな気分だったんすけど、その。怖いもの見たさというか、ね。やっちゃったんで。

 ファイルの種類は「jpg」だったんで、画像のはずなんです。いや、画像でしたよ。そうなんだけど、……なんなんだろうなあ、あれ。目の錯覚を使った、動いて見える画像みたいな感じっすかね。ちょっとずつ違う同じようなのがいくつも入ってて、あいつそういう趣味あったっけなあ、って思ってましたね。意味深でもないし、別に文字が読み取れるとかじゃないんで、すぐ閉じようと思ったら――


 にちゃ、って。キーボードに触った瞬間、なんかすっげぇイヤな感じのなんかに触っちゃって、なんだろうって思いました。で、キーボードの下からとろぉーって黒いのが垂れてきて、指についてるのがそれだって分かりました。明らかぜったいヤバいって分かって、すぐ画像を閉じたんですけど、黒いのがぜんぜん止まらなくて、机の下にまでぼた、ぼたって。見たら、キーボードの隙間から……あの文字みたいなのがこっちを見てました。隙間っていう隙間にぎっしり、充血した目玉が詰まってるみたいでした。


 もうガチで怖くてたまんなくて、逃げ出して親父に助け呼びました。いつもの様子と違いすぎるし、親父に助け呼ぶとか小学生のころでギリあるかないかでしょ。マジで真剣な顔した親父が先にリビングに行って、確かにその黒い汚れはあったんですけど、……キーボードからのぞいてた目玉の方は、どこにもありませんでした。でも、ファイル名はなんにも変わってなくて。親父がもう一回開こうとしたんで、本気で止めてUSBぶっこ抜いて、ボンタンあめの箱に突っ込んどきました。いや、触りたくなかったですから。

 財田に「なんだよあれ、ふざけんなよお前」って軽くキレながら言ってみたんですけど、……どう言ったらいいんだろうあれ。「あ、はい」って。すでに知ってたとか、体験したとか、そういう感じじゃないです。悪意があって陥れたとか、狙いがあったってふうでもなくて。特に何も思ってない、っぽいんですよね……説明したんですよ。同じファイルはちゃんと入ってて、同じことが起きるっぽいです。そのはずなのに、ねえ。


 これ、治らないんですよ。痛みがあるわけじゃないし、全身が真っ黒く溶けるとか、そういうことじゃないっぽいんですけど。たまに、指の中で何か動いてるんです。今日は手のひらで、……あの、ほんとに。なんとかなるんですよね? そのためにここに来たんすよ、どうにかなるかもって。


 あれっ、……まぶたが。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

そくせき 灯村秋夜(とうむら・しゅうや) @Nou8-Cal7a

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

同じコレクションの次の小説