第3話 ネコが発見した死体
ネコがふいに目を気って、自分の腕を舐め始めた。ネコを見ていると、よく見る光景である。
しかし、その後も視線を高杉から目を切ることはなく、じっと見つめている。
「どうしたんだ、お前。何か俺に言いたいのか?」
と聞いてみたが、
「ミャー」
と言って、鳴いているだけだった。
すると、それまでじっとしていたネコがゆっくりと腰を上げた。そして、高杉を見ながら、ゆっくりと抜き足差し足忍び足で、前に進んでくると、高杉に近くに来るように促しているかのように見えた。
高杉もつかず離れずの距離を保って、ゆっくりち歩いていくと、公園の中にある花壇の向こうにある雑木林のようになったところにネコが歩んでいった。本来なら立入禁止なのだろうが、虫の知らせには勝てず、しょうがないから、ネコについていった。
すると、そこに何かペンキの痕のようなものが芝生になったところにへばりついているのを感じた。
「ん?」
そのペンキのようなものを、ネコはぺろぺろと舐めているではないか。
いくらネコとはいえ、そんなものを舐めればお腹を壊すというもので、やめるようにお流そうと思ったが、よく見ると、先ほどと角度が少し違うと、色が若干違っているかのように見えた。
最初は、完全に黒い色に見えて。まるでガソリンか何かではないかと思ったくらいだったが、少し近づくと、その色が茶褐色にも見えてきた。黒に赤が混じったようなその色を見た時、高杉は一瞬ゾクッとなった気がした。
「この色は」
ネコが舐めているところを見ると、自分の考えが間違っていないような気がして、もうネコのことに気を遣っている場合ではないと思い、ネコには悪いと思ったが、一気にそこから飛び出した。
「もう、お前と遊んでいられなくなったぞ」
と言って、飛び出してみると、そこには思った通り、一人の男が仰向けになって、倒れていた。
やはり、先ほどのは血糊であり、ネコが発見して、高杉に教えてくれたとでもいうのだろうか。
もうすでにネコはその場からいなくなっていたので、
「悪いことをした」
と思ったが、もうすでに頭の中は刑事モードだった。すぐに署に連絡し、その様子を見る限りでは、顔色から見ても、死んでいるのは一目瞭然だった。
脈を取ってみたが、当然あるわけもなく、身体も死後硬直が始まっていた。
倒れている男は、まだ若い男で、自分よりも少し年上くらいではないかと思ったが、着ている服や着こなしのだらしなさから見れば、
「いかにもチンピラ」
という感じが漂っている。
触ってみると死後硬直が始まっているのは間違いないようで、そうなると、死後数時間が建っているということだろう。さすがに専門の鑑識でないと詳しいことは分からないが、警察が来るまでに、少しでも分かることは調査しておこうと思うのだった。
この公園は、日が昇ってからでは、なかなか人が途切れることはないので、今のような夕方であれな、もう死後半日近くは経っているのではないかと思われる。胸に刺さったナイフを抜き取らなかったのは、血が噴出するのを恐れたからか。男の顔を見ていると、さほど驚きの表情をしているわけではない。
「顔見知りの犯行か? それとも殺されるなどとまったく思っていなかったことでの、まったくの不意打ちだったのだろうか?」
と思える光景だった。
すでに日が落ちかかっているので、ただでさえ暗くなっているこの森の奥を見ていると、そこには先ほどは一匹しかいなかったはずのネコが、数匹集まってきた。
「ミャー」
という声が聞こえてきたが、さすがにこの状況で、ネコを相手にするわけにはいかなかった。
「一匹だと思っていたけど、本当はここに数匹最初からいたんじゃないか?」
と思った。
元々この公園には数匹が住み着いているはずである。一匹を見たのだから、近くに数匹いると思っても当然のことで、よく見ていると、ネコは男の身体から流れ出た血糊を舐めているようにも見える。
「ということは、このネコたちは、ここでの殺害を見ていたのかも知れない」
と思いながら。ネコが舐めているであろう血糊が、あたりの様子を変えていたのではないかとも思った。
ネコが先ほどから一匹しか表に出なかったのは、ここに死体があったからで、それが気になって動けなかったのか、ここをテリトリ―にしているネコにとっては、動かないこんな巨大なものは、邪魔でしかなかったことだろう。
先ほど表に出ていたクロネコは、高杉に、
「ここに死体があるんだ」
ということを教えようとでもしていたのだろうか。
じっと見ていて、すぐにここに連れてこなかったことや、かといって、逃げ出す素振りがなかったのも、それだけ高杉のことをネコなりに吟味していたのかも知れない。
ネコの様子を見ていると、皆一定の距離を保って、ちょうど死体のまわりで円を描くように佇んでいる。まるで、死体を見守る守護神たちのようではないか。
ネコとしてはそんなつもりなのないのだろうが、高杉にとって、ネコを見ていることは、そもそも癒しだと思っていたので、警察が来るまで、いくら自分が警察官だとは言っても、この森の中に一人でいるのは、さすがに辛さを感じた。
公園という、いわゆる青空の中ではあるが、この一帯はネコがテリトリーに使うくらいの場所であり、まるで密室完があった。建物の中の密室ではなく、風が吹き抜ける密室、ひょっとすると、夜にはカップルがイチャイチャする場所として使っていたのかも知れない。
いや、ネコがテリトリーにしているのであれば、それは考えにくいであろうか。だが、季節的には十分にありえそうな気がしていた。まだ少し寒いが、抱き合っていると、相手の体温で暖かくなるだろう。ネコがいると言っても、人間が入ってくれば逃げるはずだ。入ってきた人間には、そこにネコがいたなど、思いもしないだろう。
ネコは、そんな男女をどんな目で見ていたのだろうか? ネコにそこで行われる淫靡な行為にいい悪いの判断がつくわけもなく、ただ、本能の赴くままにいちゃついている様子は黙って見ているだけの価値があったのかも知れない。
今はどうなのか分からないが、昔であれば、そんな屋外でのイチャイチャは、ホームレスの連中には恰好の酒の肴となっていたということもあったようだ。しかし、これはあくまでも高杉の妄想であって、
「そんなバカなことが、この時代にあるわけはない」
と、勝手に思い込んでいたが、実際にはどうなのだろう?
ただ、そのことを想像したことで、ここで死んでいる男は、ひょっとすると、昨夜のイチャイチャの結果、何かやんごとなき事態が発生し、女が男を殺してしまったことで、慌てて女が逃げたのかも知れないと思えた。
顔に驚愕の表情がないのは、本当にいきなりだったからなのかも知れない。
この男が女性を暴行目的でこの場所に連れ込んだとも一瞬考えたが、すぐにその考えを捨てた、
「もし、そうであれば、女は抵抗し、この場所はもっとあれていただろう。しかも、男の顔が安らかなのは、暴行犯の表情としてはあまりにも腑に落ちない不自然さがあるのではないか」
と考えられた。
あたりを見渡してみたが、何ら不自然なところもなく、それだけに、今自分にできる初動捜査は何もないということを悟った高杉だった。まずは警察の到着を待っているしかないようだ。
それにしても、まさか自分が死体の第一発見者になるなど思ってもみなかった。
ということは、自分が第一発見者として先輩刑事から尋問を受けるということである。きっといろいろ聞かれるのだろうが、なぜ、ここにいたのかなどということを訊かれるとどう答えようか考えてしまう。だが、どう考えても正直にいうしかなく、その正直さといいうのは、少し恥ずかしい行為であるのは間違いないはずだが、それを思うと、顔から火が出てきそうに思えてきた。
ただ、一つ気になるのが、目の前にいる男がチンピラ風だということだ。チンピラと公園は結び付かないわけではないが、殺される場所としては結び付かない感じがあった。
ただ、いかにもチンピラ風というだけで、本当のチンピラなのかも定かではない。その様子を見ていると、どこか、不自然でもあった。髪型も五分刈りくらいになっていて、高杉の考えるチンピラとは少し違っているような気がした。
「この男、どうして殺される必要があったのだろう?」
公園の奥にある雑木林と言ってもいい場所で、人知れず殺されている死体を発見したのは、ネコによる誘導だった。
もし、ネコが誘いかけてくれなければ、この死体は誰が発見することになるのだろう?
「ホームレスか? それとも、カップルか?」
と思ったが、そのどちらも警察に通報するだろうか?
ホームレスなら通報はするだろうが、カップルであれば、一緒に通報するということはないような気がした。
ホテルにでもいけばいいはずなのに、ここで済ませようとするというのは、お金がないからなのか、それとも、ホームレスでもいいから、見られたいという一種の変態によるものなのかと考えられる。
ホームレスは、そんなカップルが数組はいることを知っていて、お互いに顔は知らなくても、一度も面識はなくとも、立場としてわきまえているので、見るだけで、決して邪魔をすることはないだろう。これはあくまでも私見であるが、女の方がこういうプレイには積極的な気がする。妖艶な笑みを浮かべて、
「見て」
と言っているような女の顔に、ホームレスは相当興奮していることだろう。
ホームレスは、俗世間から離れているからと言って、別に仏門に入ったわけではない。屈辱感や、憔悴を少しでもなくそうとして、無感情になることと、決して必要以上にネガティブにならないということからも、感情を押し殺すことに慣れてきていたはずなのに、ここで得られる刺激には至高の悦びを感じていることだろう。
「どれだけぶりの興奮だ? 忘れていた人間としての俗っぽさを思い出させてくれる」
と思っているかも知れない。
ホームレスだって、何らかの事情でここにいるのだろう。世相に逆らえず、職を失い、そこから坂道を転がり落ちるように、家族も一緒に失ったのだとすれば、ホームレスになる理由も分からなくもない。
気分的にネガティブにならなければ、やっていけないことはない。それまでの自分をすべて社会から否定され、まるで処刑されたかのような気分になれば、自殺しないだけいいのかも知れない。
そもそも死ぬ勇気のないことでホームレスになったのだとすれば、性的興奮は、彼らにとって、ある意味生きていることを実感させられるという意味で、重要なことだったに違いない。
「社会から抹殺されて、公にこちらに見せつけようとする変態カップルを見るくらい、バチも当たらないだろう。俺だって好きでこんなことをしているわけではない、もし、ここから這い上がったとしても、先は見えているんだ。何しろ一度底辺で地獄を見ているからな」
と思っているのではないだろうか。
ホームレスにはホームレスで、それぞれの社会を形成している。それを誰も知らないだけで、ある意味秩序と言ってもいいだろう。
行政も警察も、基本的にはそんなホームレスをなくそうとしている。彼らに職を与えたり、衣食住を提供さえできれば、彼らはホイホイと従うのではないかと思っているかも知れない。
警察官はそこまで、お花畑にいるわけではないだろうが、行政の人たちにどれほどホームレスの立場や考え方が分かっているか疑問なだけに、きっと説得する時も、上から目線なのだろう。
それを思うと、高杉は何かやり切れない気分になっていた。
「俺にとっても、身につまされるような気がするからな」
と想うと、急に気持ち悪くなったのを感じた。
臭いにむせたのか、それとも目の前の死体を意識しすぎなのだろうか。
やはり、まだ警察官になりたてで、実際に殺人現場に足を踏み入れたことなど数回しかない。それなのに、自分が第一発見者になるのだ。気持ち悪くないわけはない。
ただそれを思うと、ほとんどの死体の第一発見者はこんな気持ちだったのだろうと感じた。警察官の自分はそう簡単に納得しているわけにはいかないのだ。だから、少し初動曽佐をしてみたが、何も見つかりそうもない。
時計をみれば、発見してからそろそろ十分、誰かが来てもいいことだろう。高杉刑事は何とかそうやって気を紛らわせていたが、気分が悪くなったのは、第一発見者になったからなのか、少し分からなくなっていた。
だが、この気分の悪さは確かに血の臭いを感じたからだ。死後かなりの時間が経っているはずなのに、血の臭いを感じるというのはおかしなものだった。
すると、少し感覚がおかしなものになってくる気がした。
まるで身体が宙に浮いているかのような感覚に陥ったのだが、浮いている身体は頭の奥を刺激して、それが幽体離脱のようなものではないかと思わせた。
目の前にいる自分が見えたような気がした。それは死んだ人間が魂になって、横になっている自分の肉体を見ているかのような光景であった。
「そんなバカなことがあるはずない」
と打ち消したが、自分が死んだという意識はまったくなかった。
ただ、しいていえば何か息苦しさがあった。しかも、この思いは今までに初めて感じたものではなかったような気がする。
息苦しさとともに、身体に痺れも感じていた、痺れは高熱が出た時、寒気で震えた時などに、
「震えが止まらない」
と感じた時に似ていた。
熱が下がらない限り震えは止まることはない。
つまり、原因になっていることを追求し、それが分かることでその症状が解消するのだろうが、その後には別の症状が障害としてのしかかっているような気がする。高杉はそんな自分を、今までに何度か感じたことがあると思っていたが、それがいつだったのか忘れてしまっていた。
子供の頃からあったのは間違いない。
「そうだ、子供の頃は、こんな雑木林に入るのが無性に怖かったんだっけ」
ということを思い出した。
雑木林に入ると、何かを意識していたような気がしたが、幽体離脱のような感覚に陥ったその時、なぜだったのか思い出した。
「あれは小学生の時、友達と遊んでいて、ハチに刺された時だったような気がする」
そのハチは、ミツバチのようなものではなく、かといってスズメバチほど強力な毒をもったハチでもなかった。
それでも、病院に行って医者からは、
「一度刺されているので、二回目は気を付けなければいけないよ。子供だから分からないと思うけど、いわゆる中毒を起こしてしまって、そのまま死んでしまうこともあるからね。だから、ハチの巣があるようなところには近づかない方がいい。いや、近づいてはいけないんだよ」
と、いい聞かされた気がした。
そのため、高校卒業くらいまではその言葉を守ってきたが、警察に入るとなると、一度頭を切り替えて、就職モードだけではなく、警察官モードにも切り替えなければいけないので、大人になるということも含めて、数段階の過程を踏むことになった。
それはステップアップという意味であったが、過去の自分にとっての戒律までもが、リセットされたような気がしていた。
そして、今回死体を発見したことで、そのうちの一つ、
「ハチに刺されないようにする教訓」
を思い出したのだ。
そして、もう一つ感じたのは、
「確か先生はあの時、中毒という言葉を口にしていたけど、これってアレルギーとは違うのかな?」
と思っていた。
自分には花粉症のアレルギーがある。今のところ動物アレルギーは見られないが、いつ何時でてくるか分からない。医者の話を思い出したことで、そのことを悟らなければいけないと思うと、
「これは本当に思い出すべきものだったのだろうか?」
と少し不安に感じる高杉だった。
そんなことを思っていると、少しして警察はやってきた。K警察署から、門倉刑事と辰巳刑事の、名コンビであった。その後ろからは鑑識班もいて、その場がいよいよ現場として確立されているのを見たが、普段刑事をしているとなかなか見ることのできない場面なのかも知れないと思えた。
辰巳刑事が話しかけてくる。
「高杉君、君が第一発見者なんだって?」
と言われて、
「ええ、そうです」
「どうして、ここに死体があるのが分かったんだい?」
「これは偶然なんですが、仕事が終わって、この公園のベンチ、すぐそこなんですが、そこで座って少し休んでいると、目の前にネコが一匹現れたんです。最初はお互いに見合っていたような感じだったんですが、ネコが急にそっぽを向いて向こうに歩き出すと、また戻ってきて、鳴くんです。どうやら私を呼んでいるように感じたのか、見に行ってみたら、何やら黒くなったペンキが固まったようなものを舐めていたんです。変だと思い、ネコがいくこの雑木林に入ってみると、そこに死体があったんです」
と、少し盛ったような言い方になったが、ネコが招き入れてくれたことには違いはないので、別にそれでいいと思って、話をした。
その話を辰巳刑事は信じてくれたのかどうか分からなかったが、
「少なくとも、君が発見してくれてよかったかも知れない。これ以上放置されていると、なかなか状況が把握できなくなるほどになっていると思われるからな」
と辰巳刑事は言った。
「それじゃあ。かなり死後時間が経っているということでしょうか?」
「ああ、鑑識の話では、二十時間近く経っているのではないかということだ。そのため、死亡推定時刻も少し幅が広くて、昨夜の十時頃から、二時の間くらいではないだろうかということなんだ。もっとも、この後司法解剖をするので、もう少し分かるかも知れないけどね」
ということだった。
夜中からずっとこのまま放置されているとすれば、なかなか死亡推定時刻を割り出すのは難しく、範囲は広くなるかも知れない。そうなると容疑者が何人かいたとすれば、アリバイを証明する方も、アリバイを崩す方も立証が難しく、アリバイを証拠に犯人断定というのは難しいかも知れない。
捜査員が調べているのを見ていると、
「どうも、あまりこのあたりが荒らされていないところを見ると、犯行現場はここではないという可能性もありますね。あくまでも可能性という意味ですけどね」
というと、
「でもですね、引きづった跡もなければ、足跡も見つからない。これはどういうことなんでしょう? ここで犯行が行われたのであれば、複数の足跡が残っていそうだし、何かに乗せてきたのであれば、タイヤの跡が残っているだろうし、担いできたのであれば、余計に足跡が深くめりこんでいそうなんだけどね」
と辰巳刑事が言った。
この場所は、もちろん、舗装されているわけではない。雑木林というくらいなのだから、ずっと太陽が当たらないこともあって、少し粘土質の湯小名土になっていることで、足跡がついたとすれば、しばらくは残っていることだろう。その証拠に最初現場への立ち入りは刑事といえども鑑識が足跡を確認するまで入ることができなかった。普段は誰もこんなところに入り込む人などいないはずだろうから、貴重な証拠になるだろう。
ただこうなると、さっきの変態カップルの話はどうなのか? ということになる。ただ、見てほしいと思っているカップルであれば、最初からござを用意して、見物させるくらいのことは考えるだろう。見られる方も興奮して、見る方も興奮する。こんな両者にとってありがたいことはないはずであった。
そういう意味でよく見ると、なるほど、シートを使った形跡も見られなくもなかった。そのことを鑑識も分かっているようだった。かなり低い声だが、ビニールシートというワードが耳に飛び込んできたのだ。
「季節的に夜中というと、まだ寒いのかな?」
と、辰巳刑事が言った。
それは普通にしていての寒さの話ではなかった。その言葉の奥に、
「裸になったら」
ということが言いたいのか、あまり暑くなると、虫も出てくるし、汗でべとべとになるのも嫌だろう。ただ、ここにはござを敷いておけば、少し段もあって、快感を得るにはもってこいのような気がしたのだ。
「高杉刑事には、後で靴底の型をを取っていただきましょう。足跡がそれで大体確認できますからね」
と、辰巳刑事は言った。
「分かりました。私もまさかこんなところに死体があるなどと思ってもみませんでしたから足を踏み入れましたが、今後は気を付けます」
「いやいや、それは仕方がないことだよ」
と辰巳刑事は言ってくれたが、そう思っていると、今の自分のセリフにどこかおかしな感じを覚えた。
――本当に、ここに死体があることをまったく予期していなかったのかな?
と思い返すと、そう思えた。
確かに、ネコを追いかけた時点で、何か嫌な予感があったのは事実だ。今までの高杉ならそんなことはしないはずだった。それなのに、追いかけるようにしたというのは、どこか変だった。
そんなことを思い出していると、急に何かおかしな匂いが感じられた。
―ーあれ? 酢の臭いかな? それともホルマリンの臭い?
明らかに異臭を感じた。
しかし、捜査員は誰もその異臭に気づいていないようだ。
――そうだ、アンモニアだ――
と思った瞬間、意識が遠のいていくのを感じた。
そして、そのまま完全に気を失ってしまったようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます