スマブラに入れてもらえなかった子

脳幹 まこと

スマブラに入れてもらえなかった子


 昔の話。


 僕が小学校のころ、スマブラの初代が流行していて、友達が友達を引き連れて家で大乱闘していた。

 僕はそのうちの一人で、いつもみんなが対戦しているのを後ろで見守っていた。

 

 当時の僕はうずうずしてた。

 テレビゲームに縁がなかったのもあって、テレビの画面を見るだけでワクワクした。

 みんないつもガヤガヤしていたし、実際に触れたらそれはそれは楽しいのだろうと胸を高鳴らせていた。

 いつやらせてもらえることになっても、抜かりのないように、決め台詞とか、冗談とか、そういうものを、僕はずっと溜め込んでいた。


 ある日、大乱闘の主がお父さんの都合で引っ越しすることになった。

 今日が最後のチャンスになるんだ、と思った。


 お金持ちだった彼の家。

 いつもの広い居間で、僕は意を決して、後ろから「そろそろ良いでしょ?」と声をかけた。

 他の子達と同じような口調になるように頑張った。


 彼らは心底不思議そうな顔をして、僕を黙って見つめた後、何事もなかったかのように、テレビに向きなおった。


「3・2・1・GO」


 そのとき僕は気づいたんだ。


 僕が彼らのことが好きだったけど、彼らはそれほど僕のことが好きじゃなかったんだ、って。


 本当は交わることなんてなかったのに、彼らと一緒になってしまった。

 僕は、家族連れのテーブルに余分に置かれた料理だ。代金は取らないからとそのまま置かれた鶏肉だ。

 子供たちは本来置かれた注文だけで満足してしまって、何一つ手つかずに廃棄させられる、そういう類いのものだった。

 ただそれだけのことだったのだ。


 僕は不思議と安心した。

 そうか、そうだった、そうだったんだ。

 僕と彼らの今までは――きっと、何かの間違いだったんだ。


 場外に飛ばされて「ゲームセット」の声が聞こえた。


 僕は彼らと別れて、その日以来、二度と交わることはなかった。



 時たま、何にもないのに思いっきり笑えてくることがある。

 きっとあの時の滑稽さが面白くて仕方がないんだろうと思って、ひとしきり笑ってやる。

 笑い過ぎてこぼれた涙がリトマス試験紙を赤から青に染める。


 もちろん、この悲しみは自分で引き取ることにする。この悲しみはあの時の鶏肉だから。

 他の人なら残すかもしれないけど、僕は貧乏性だから食べなきゃいけない。

 こんな奴の友達は――僕しかいないんだから。

 枕を顔を押し当てて、大声で叫んだ。


 悲しみだって、それしかなければ愛おしさすら感じる。

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