吸血鬼殺人事件

武藤勇城

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吸血鬼殺人事件

 それは異様な死体だった。体中の血液が抜かれ、内臓が取り除かれ、骨と皮と肉だけになった人間の……


 民家どころか街灯一つない現場周辺には、唯一、牛馬の屠殺場だった廃屋が取り壊されず昔のまま残っている。陽が落ちれば漆黒の闇に包まれ、犯罪や野生動物、或いは幽霊や得体の知れない何かを恐れて誰も近付かない。それ故に発見が遅れ、死後一週間が経過しているものと推定された。


 捜査の結果、容疑者として浮かび上がったのは四人。一人は以前屠殺場を経営していた五十代の男性。現場から車で十分の近場に住んでいる。しかし死亡推定時刻、この男には完全なアリバイがあった。泊まりに来ていた友人と三人で飲み明かしており、外の酒場でも三人一緒に目撃されている。犯行日前後も同様である。

 二人目と三人目は、その友人である。全員同級生で、一人は過疎村の医者をしており信望が厚い。もう一人は屋台を経営しており、モツ煮や串焼きの他、亀の生き血酒等の珍味も扱う。アリバイの大半は友人同士の証言で、共謀の可能性もあるとみて慎重に捜査が進められた。

 四人目の容疑者は、見た目は二十歳か、十代にも間違われる四十代の美魔女。滅多に人の通らない現場付近を、夜中に一人で徘徊する姿が目撃された。その証人こそが先の三人組の男性で、酒場から酒場へはしごする間に見掛けたという。四人は顔見知りで見間違えはなく、女性も現場にいた事実を認めた。但し事件に関しては否認しており、何故その場所にいたのかとの問いには、屠殺場の五十代男性に呼びされたと供述した。


 事件当日、及びその前後に他の目撃情報はなく、容疑者を四人に絞って捜査が行われた。女性の供述が正しいかどうか、通話履歴を調べたところ、そのような事実はなく、女性が嘘の供述を行ったとして警察は女性を第一容疑者に認定。厳しく追及すると、女性は涙ながらに犯行を認めた。しかし動機が不明で、自供は支離滅裂。尋問の度に発言内容が変わるので、犯行方法や異様な死体についても皆目見当がつかなかった。事件は謎に包まれ、女性を殺人犯と断定出来ぬまま迷宮入り。「現代の吸血鬼殺人事件」と呼ばれた。




「新たな臓器のドナーが現れました。早速明日、手術を行いましょう」


「へいらっしゃい! 新鮮な生き血のゼリー寄せ入荷だよ! お一つどうだい? ビタミンやコラーゲンが豊富! 美容と滋養強壮に!」


「ああ……綺麗になりたい……もっともっと若く……永遠に美しく……」

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吸血鬼殺人事件 武藤勇城 @k-d-k-w-yoro

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