フォレスター子爵夫人の成り上がり ~高位貴族というのはとても面倒なので本当は関わりたくありませんけれど、お金がもらえるのなら仕方がありません。精一杯努力することに致しますわ~
第53話 それが私の幸せな結婚ですわ!(3)
第53話 それが私の幸せな結婚ですわ!(3)
お義母さまが壇上から下がって、私の隣に並びます。
「エカテリーナ……あなたという人は……」
「あら、お義母さま、ご覧になって」
私はお義母さまの言葉に素直に答えず、視線だけで、マンチェストル侯爵家の方向をお義母さまに示して誘導します。
そこでは扇を開いて口元を隠したマンチェストル侯爵夫人が私へと視線を送りながらマンチェストル侯爵と盛んに言葉を交わしている姿がございました。
「マンチェストル侯爵家がずいぶんとざわついていますわ」
「……そうでしょうね」
お義母さまの心の中もざわついているのなら、私の心も少しはすっきりしますけれど。
そこは確認しないのがいい嫁というものですわね。
「……戻ったら、マダム・シンクレアを急いで呼びます」
「お義母さま?」
「日程は知らせるから、その日にあなたの侍女を寄こして頂戴。あのドレスを着せて。ウチの夜会ではあのドレスをそろえます。フォレスターの屋敷にもマダムには行ってもらいますから」
「かしこまりました。ですけれど、そこまでしなくともよろしいのでは?」
「あのご様子では、王妃陛下の方が先に動きます」
「そうでしょうか……?」
「……あなたへの王妃陛下のあの態度は溺愛と呼んで差し支えないわ」
「そんな、お恥ずかしい。幼い頃にちょっと可愛がって頂いただけですのに」
……ペットか、ぬいぐるみ扱いで。
「ウェリントンは王家に隙を見せてはなりません。理解しているかしら、エカテリーナ?」
「はい、お義母さま」
……もちろん、知っていますわ。教え込まれましたもの。短い婚約期間で。だからこそ、今夜の、この一撃ですもの。よく効いたでしょう、お義母さま?
王家をも上回る財力を有するウェリントン侯爵家は、王家から謀反の疑いをかけられることを、それはそれは、警戒しております。
王家にウェリントンを討つ口実を与えてはならないのです。
侯爵家同士の争いならば問題はありません。けれども、王家の呼びかけに応じた複数の貴族家との戦いは絶対に避けなければなりません。
ウェリントンの巨大な財力は全て王家を支える貴族家としてのもの。その態度を崩してはならないのです。
今のウェリントンを潰せるのは他の貴族家をまとめて動かせる旗振り役の王家のみ。
……それなら旦那様をしっかり教育すればいいのに、という私の心の声はともかく。
王位継承権をもつ王孫たる公爵令嬢をウェリントンへと嫁入りさせることで王家との良好な関係を示すつもりだったお義母さまの未来予想図は、旦那様の愚かな行動によって崩れます。
それが原因で誅滅となっては困ります。ウェリントンの力を損なわないようにしながらもきちんと賠償を行い、港をひとつ期限付きで割譲しました。国王陛下も気になさっておいででしたわね……。
それでいて、王妃さまの遠縁とはいえ、王家との縁続きの私を嫁入りさせることで、王家への叛意はないこともお義母さまは示しました。お義母さまにとっては、あくまでも、私は王妃さまの従兄の娘、という認識でしたけれど。
その嫁が、ただの遠縁の従兄の娘ではなく、実は王妃が娘とも妹とも思い、幼い頃に可愛がっていたという事実は。……たとえそれがペット的な感じだったとしても、です。
私を大切にすれば王妃さまの信頼を得て、私を軽んじると王妃さまの不興を買うという、諸刃の剣のような嫁なのだと。
お義母さまの認識を一気に変えたのでしょうね。
……まあ、私を大切にすればそれで王妃さまとの関係は良好になるので、簡単と言えば簡単なのですけれど。
そこで問題になるのが旦那様という、浮気クズ男ですわね。有名ですもの。
そこについては私が、王妃さまにお答えした通り。
私は女としての幸せではない、別の幸せを求めていますよ、という話で済ませておくことにしたのです。事実ですし。
王妃さまは私のことについてマンチェストル侯爵家にも聞こえるようにしてくださいましたから。本当に助かりますわ。
もちろん、この日、別室で行われたマンチェストル侯爵家との話はあっさりと終わりました。ウェリントンの完全勝利ですわ。王妃さまの影響力のお陰でございます。作戦通り、とも言えます。
ひとつめ。現ライスマル子爵は引退し、子爵令息たちには平民を娶らせて継承権を捨てさせ、子爵の従兄弟が跡を継ぐこと。旦那様の親友だった方は、貴族籍を失うので近衛騎士の職も同時に失いますわね。
とりあえずライスマルの大奥様の最後の願いが叶えられてひと安心ですわ。
ふたつめ。ライスマル子爵家の領地にある小さなワイン蔵をひとつ、フォレスター子爵家に譲ること。
ここは、お義母さまは子爵領の小さな銅山をお求めでしたけれど、私はワイン蔵で手を打ちましたの。
子爵家の財力では難しかった銅山開発にウェリントンの資本を投入するよりも、ワイン職人を手に入れる方が簡単でいろいろと美味しいのですもの。
銅山開発は次のライスマル子爵との共同事業でも可能でしょうし、採り尽くしてしまえば終わりですものね。ワインなら期限なしで永遠ですわ。
みっつめ。ライスマル子爵家の夜会で旦那様と踊った三人の令嬢の処分をマンチェストル侯爵家が責任をもって行うこと。
彼女たちがこの先、社交界に顔を出すのは、私に対する侮辱ですものね。私、ここはそれほど気にしておりませんでしたの。でも、お義母さまはここだけは許せないとの態度でしたわ。幼友達のマンチェストル侯爵夫人にそれはもう、強く訴えておりました……お義母さま、怖かったわ……。
彼女たちの中にはマンチェストルとの関係が浅い者もいるようですけれど、それはマンチェストルがなんとかするでしょう。よその寄子の処分は面倒ですけれどね。お金もかかるでしょうし。
彼女たちが神殿入りで俗世を離れるのか、平民と結婚させられて貴族籍を失うのか、それとも廃嫡されて娼館にでも売られるのかはマンチェストルにお任せですわ。マンチェストルの経済力なら娼館ルートが有力ですわね……はした金もお金ですものね……。
おまけで。マンチェストルの執事が一人、平民と結婚した上で国外へ出されること。
可哀想に。切り捨てやすい寄子の子爵家の次男ですものね。見事に切り捨てられましたわね。彼の自業自得であって私のせいではないはずですわ……たぶん……。
以上の全てが実行されたら、ウェリントン侯爵家はライスマル子爵家への経済制裁を取りやめること。
まあ、そうですわね。いつまでも虐めていても仕方がないですし。
という訳で。
うふふふ。虎の威を借る狐作戦、大成功ですわ!
エカテリーナは、王国の社交界で確固たる地位を、手に入れた!
マンチェストル侯爵家を下したのですもの。これで他の貴族家もわざわざ私と敵対することはありませんわ! ついでに王妃さまとの関係でウェリントンの家内でも私の地位は安泰です!
これで幸せな結婚生活をさらに満喫できます! やったね!
……旦那様はクズ男ですけれど。それでもいいのです。お金さえあれば。それが私の幸せ。
別室から大夜会の会場へと戻りながら、私は心の中でにやにやとそんなことを考えておりました。
完
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※後書き失礼いたします。
拙作『フォレスター子爵夫人の成り上がり ~高位貴族というのはとても面倒なので本当は関わりたくありませんけれど、お金がもらえるのなら仕方がありません。精一杯努力することに致しますわ~』を最後の最後まで読んで頂き、誠にありがとうございます。
以前、『小説家になろう』でこれを公開していた時は、異世界転生転移・その他のジャンルで『悪徳領主』などの書籍化作品を抑えてジャンル別ランキング日間1位・週間1位・月間1位を達成したことを思い出します。『アインの伝説』ではそういった書籍化・アニメ化作品に及ばず、日間や週間で6位、月間で11位止まりだったことを思えば、相生作品がかなり読まれるようになっていたのだろうと思います。
この最終話で「まだ続きを書いてほしい」というような感想と、「ここで終わるのは潔い」という感想、そういう両論があったのも懐かしいです。
この作品は私、相生蒼尉が女性主人公を書き切った初の作品です。123大賞やスクエニ賞では一次選考も通過したので、ある程度の質は保てているのだろうと考えております。
書き始めたきっかけは公募への応募でしたが、枚数が規定を超えてしまい、そのまま『小説家になろう』で公開してしまったという、ちょっと変わった経緯で連載した作品でした。
たくさんの方に読んで頂き、本当にありがたく思っています。
カクヨムでの活動はこの2023年6月から本格化させたばかりなので今後も、私、相生蒼尉の作品に目を通して頂けたら幸いです。
書籍化やコミカライズを夢見て、ネット小説を書いてはおりますものの、残念ながらそれを実現することができずに、今のところ佳作止まりではありますけれど、今後も書籍化やコミカライズを目指して活動は続けたいと考えております。
もし、よろしかったら、他の拙作も読んで頂けたら嬉しいです。
『アインの伝説 ~気づいた時にはもう遅い? 転生したら滅んだ村の生き残りで、勇者の幼なじみなのになかなか名前を思い出してもらえないという極めつけの脇役だったんだけどさ、どうしたらいいと思う?~』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054917582129
この作品は私、相生蒼尉の代表作であり、幸運にも、『小説家になろう』で開催されていた第2回「新人発掘コンテスト」において佳作を頂くことができました。
私にとっては初めて大きく認められた作品でもあります。
書き始めたきっかけはちょっとした現実逃避だったのですが、それがここまでの長編になるとは書いた本人である私も考えていませんでした。
また、たくさんの方に読んで頂き、結果として、佳作を頂くことになるとは望外の喜びでした。
ゲーム世界転生による、ハーレムチートシスコン童貞領地経営学園ものアドベンチャー(詰め込み過ぎ)です。ハーレムですが童貞なので年齢制限も安心?です。
ぜひとも読んで下さい。
『かわいい女神と異世界転生なんて考えてもみなかった。』
https://kakuyomu.jp/works/1177354054893673457
この作品は私、相生蒼尉のネット小説デビュー作となります。カクヨムでの公開は復活更新となっております。『アインの伝説』並みに長い物語となっておりますが、長編好きな方には喜んでもらえる長さだと思います。よろしくお願いします。
『RDW+RTA ~リアルダンジョンズワールド プラス リアルタイムアタック~』
https://kakuyomu.jp/my/works/16817330655674198261
こちらは現在、連載中の作品となります(完結となっていますが、続きはあります)。
この話、リアリアのスタートとなる第1章と第2章にあたる部分がこれです。現在は、第3章『RDW+RTA +SDTG(T―SIM) ~鈴木の育てゲー(育成シミュレーション)~』も完結し、第4章となる『RDW+RTA +KAG(M―SIM) ~鈴木の経営ゲー(マネジメントシミュレーション)~』が連載中です。
長すぎると辛い、という方には、約10万字、文庫本1冊程度の作品として『賢王の絵師 ~アイステリア王国中興物語~』をオススメさせて下さい。
https://kakuyomu.jp/works/1177354054894098923
王に仕える絵師から見た、賢王の戦記となります。文体が堅く、読みにくいと評判?です。
もっと短くないと厳しい、という方には短編作品もご用意しております。
『百年の恋も冷めるすれ違い幼馴染の地獄堕ち ~もし僕が先に告白していたら、何かが変わっていたのだろうか?~』……約5000字。
https://kakuyomu.jp/works/16817330659010596135
『寝取られ幼馴染の地獄堕ち ~あんなに好きだと思っていた相手が、今では気持ち悪くて見たくもないと思うオレは歪んでいるのだろうか?~』……約1万8千字。
https://kakuyomu.jp/works/16816927860964195909
『情けない元カレの未練旅断ち ~オレが前を向いて先へと進むために、溜め込んで澱んだ想いをぶつけるのは許されるのだろうか?~』……約1万2千字。
https://kakuyomu.jp/works/16817139558134668366
この三作品はNTR系統の短編となります。ハッピーエンドではありませんので、その点はご注意願います。
『第二王子も苦労人 ~婚約者の義妹が「お姉さまに虐げられている」と訴えてきた~』……約7000字。
https://kakuyomu.jp/works/16817330660708732008
いわゆる婚約破棄?もの(婚約破棄はしない)になります。相生が流行ものを書くと、どうしてかこんな感じになってしまう、という作品です。
エッセイも書かせて頂いております。
『旅路の徒然 ~おい、相生。その程度で旅人を気取るたぁ、てめぇはまだまだ、蒼い!~』
https://kakuyomu.jp/works/16817330659787365640
こちらは旅エッセイになります。相生が日本各地を訪れた時に、感じたこと、思ったことなどを書き綴っております。
旅行の参考になるかもしれませんので、目を通してみて下さい。
鉄旅、島旅、歴史観光や聖地観光など、色々な旅の詰め合わせです。
また、これらの相生作品が書かれてきた経緯など、『小説家になろう』の攻略方法も合わせて、創作エッセイも書いております。
『私的な創作への騙り ~相生の毒白~』
https://kakuyomu.jp/works/16817330659541776427
リアリアに関する裏話なんかもあります。
よろしければご覧ください。
どうか、相生作品をよろしくお願いします。
相生
フォレスター子爵夫人の成り上がり ~高位貴族というのはとても面倒なので本当は関わりたくありませんけれど、お金がもらえるのなら仕方がありません。精一杯努力することに致しますわ~ 相生蒼尉 @1411430
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