第10話

船から降りて来る4人を他のメンバーは怪訝そうな顔で出迎える。

野々宮は針河が三支は涌井が支えながら船から降りようとすると船の乗り込み口には間寿夫が立っていた。

どうやら他のみんなが船に乗り込まないように壁役をしてくれていたようだ。

「おじさんが、みんなを止めてくれてたの?」

そっと針河が尋ねると間は小さく頷いた。

「ああ、船の上にはこれ以上人をあげない方はいいと思ってな。大体の内容は聞こえてきたけれど、大見が死んだのか?」

最後の言葉だけは囁くように尋ねてきた間に針河は沈んだ面持ちで頷いた。

「そうか。そうか。豊花くん。そちらの青年の肩は俺が持つ。だから君はこの女性を支えてくれ」

今だに腰が抜け1人では歩けない三支を歯を食いしばりながら運ぶ涌井にそう呼びかけると涌井はホッとしたような表情を見せる。

恐らく体力的に限界だったのだろう。

「は、はい!ありがとうございます」

「嬢ちゃんはすぐに船を降りな。友達が心配してるぞ」

針河はそのまま野々宮を奪われるような形で涌井へ任せ船を下される。

針河が陸に足を下ろすとオカルト研究部の皆は直ぐに彼女の周りに駆け寄ってくる。

というより加宜に至っては船を降りる前から船に乗り込もうとするのを間に止められている姿が見えていた。

おおかた事件現場を自身の目で確認しようとしたのだろう。

もちろん単なる好奇心から。

その証拠に出迎えて来るれた3人の中で唯一生き生きとした楽しそうな表情で暗い面持ちの針河を出迎える。

「ねぇねぇ、どうだった?大見元市長が死んだってほんと?」

まるでそれが楽しいことのように嬉々として聞いてきる加宜に針河は怒りに任せて睨みるける。

「なに?黙ってないで教えてよ」

なぜ自分が睨み付けられているのかもわからず、空気も読まずに問い詰めて来る加宜を名護沢が鳩尾を肘で打ちをして黙らせる。

「うるせーよ馬鹿。少しは落ち着けよ。じゃねーと針河も落ち着いて喋れねぇだろうが」

顔色の悪い針河を気遣ったのか?

不器用ながらも心遣いを見せる名護沢に針河は素直に感謝を述べる。

「ありがとう、気を遣ってもらって。でも私は大丈夫だから。加宜くん船の上でのことはみんなに伝えたいからみんなが戻ってきたらちゃんと話はするよ。これからの事、みんなで話し合わなきゃ」

針河は押し潰されそうなほど大きな不安を跳ね除けるよう気丈にそう告げた。




朝日は完全にのぼりきり、雲ひとつない晴天の下気温は徐々に上がりつつある為キャンプメンバーは日差しを避け皆んなコテージへとまた移動をしていた。

コテージの中では誰もが俯き重苦しい沈黙が空間を満たしている。

まるで監獄のような空気を入れ替えるように扉が開き皆と同じように固い表情の涌井と間が室内へと入って来る。

「とりあえず処置はしてきた。が、あれで大丈夫なのかは正直わからん」

「日差しが強くて、でも素人の私たちがあまり動かすのも悪いし」

2人はそう針河に報告をしてくる。

処置というのは針河が頼んだ大見会蔵の防腐処置の事である。

この真夏日にあんな日当たりの良い場所に遺体を放置していれば直ぐにその体は傷んできてしまう。

とはいえ素人の自分達が勝手に動かすことも憚れる。

その対処としてダンボールで簡易的な日陰を作り食糧保存のために用意してあったドライアイスや氷で遺体を冷やしておく事を針河が提案し涌井と間が今その処理を終えて帰ってきたのだった。

「しょうがないですよ、こんな何にもない島だから。それより2人ともありがとうございます。私が思いついたのに任せちゃって」

「いいさ。あんな光景子供が見るもんじゃない」

間の言葉に同意するよう涌井も頷くが2人の顔色はやはり優れない。

特に初見だった間の顔は青ざめていると言っても良いほどだった。

一応顔は見ないよう言っておいたがだからといって平気ということはないのだろう。

「それより本当に、貴女がみんなに説明するの?私が代わりにするよ?」

説明というのは、大見の死に関する事だ。

その状況説明を針河自身がするというのだ。

まだ子供である針河にそんな役割を任せるのは大人として無責任じゃないかと涌井は代役として名乗りをあげるが針河は何度も首を振りそれを断る。

「いいよ。第一発見者は私だし現場の写真を撮る時色々見たから私が一番適任でしょ」

そういうとまるで舞台に立つ前の役者のように深く深呼吸をして緊張をほぐすと、張りのあるけれど決してうるさいわけではないはっきり声で針河は語り出した。

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そして死を念う2 宮下理央 @miyasitario

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