07.シロヒ、何でもする

 突然の出来事に場は一瞬の静寂となる。


 しかし、ゴブリン達はすぐにおっさんに向かって突撃していく。


 だが……


 ゴ……


 バキ……


 カキーン


 おっさんは無言で次々にゴブリン達を金属バットで殴打していく。


 時間にしてものの10秒……5体のゴブリンが瀕死となり、ピクピクと痙攣している。


 その光景を見て、その他のゴブリン達は尻込みし始める。


 そして、そのうちの一体が逃げ出すと、連鎖的にあっという間に霧散していく。


 あまりの出来事にその瞬間、コメントが停止しているのではないかと錯覚するほどであった。


 そして……


 "すげぇええええええ"

 "うぉおおおおおおおおおお"

 "どういうことなの?"

 "ゴブリンの群れってそこらの強モンスより厄介だよな?"

 "正直、速すぎて良く見えなかった"

 "おっさん無双"

 "このおっさんになら掘られてもいい"


 一斉に大量のコメントが流れる。


「っ……」


 シロヒはその光景を茫然と眺めていた。


 ……


「あの……これ……」


「っ……!」


 気付くと、おっさんことトウラが自身の上着をシロヒに掛けてくれていた。


「あっ……」


 ゴブリンにより衣服の大半を剥がされてしまった自身シロヒを気遣ってのことであることに気付く。

 トウラは何やら目のやり場に困っているような様子だ。


 しかし……


「うっ……」


 トウラの上着はちょっと臭かった。

 おっさん特有のツーンと鼻につく臭いだ。


 だが……


 吊り橋効果かヒーロー効果かはよくわからないが、シロヒには最初、きついと思ったその臭いが妙にくせになる感覚になり……


 なんだろう……落ち着く……


 気付くとシロヒは襟の部分に鼻を押し当て、すーはーすーはーしていた。


(ひっ……何してるのこの人……)


 トウラはその光景を見て、少し引いていた。


 ……


 その後、シロヒはトウラに連れられ、ゴブリンの巣を一度出る。

 その間、シロヒはトウラの背中の部分の布を決して離すことはなかった。


 "シロヒ、落ちてるやんけ"

 "おっさん、動揺しててかわいい"

 "おっさん、童貞かな? 俺もだけど"


 そんなコメントが流れており、トウラはどうしていいかわからなかった。


 そして……


「本当にごめんなさい……」


「えっ?」


 トウラはシロヒに謝罪を受ける。


「えーと、大丈夫ですよ? 事なきを得たとまではいいませんが、最悪の事態は免れたということで……」


「いえ、それ以前に……」


「ん……?」


「私は……私は本当は無茶なゴブリン狩りに誘って、貴方が断るところを煽るために来たんです!」


「っ……!」


「なのに、貴方が断らなかったから引くに引けなくなって……」


「……」


「私のこと調べてください! 迷惑系配信者とか新人狩りとか……そんなのばっかり出てきますから!」


「……そ、そうなんですね」


「本当にごめんなさい……許してくれなくていいなんて言いません! お願いですから、許してください……その……何でも……何でもしますから……!」


「な、何でも……!?」


 "ん? 今なんでもするって言ったよね?"

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