02.トウラ、やっちゃう

「ほらー、やっちゃうよー? 訂正するなら今のうちですよ? おっさん……」


 ポメルンはだらんとした姿勢だが、剣をゆらゆらと揺らしながらトウラに近づいてくる。


(……マジでやるのか?)


 "おっさん、元気ー?"

 "はよ謝罪しろよ"


「っ……!?」


 なんと、ポメルンのリスナーらしき者達がトウラの配信の方にも現れたのである。


「っ……」


(初めてのコメントがこれかよ……)


 トウラは結構、悲しかった。


「おらっ!」


「っ……!?」


 ポメルンが突如、斬りかかってくる。


 トウラはそれをなんとか回避する。


「おぉー、よく避けたね……おっさん」


(あぶな……この人、本気だ……本気で殺しに来てる)


 "おっさんさー、はやく訂正及び謝罪しなよ"

 "意地張って大人気ないぞー"

 "老害乙"


(っ……)


「おらっ! おらぁっ!!」


 その間にもポメルンは何度もトウラに斬りかかる。


「ちょこまかと……しぶとい……」


 "ゴキブリみたいだなー"

 "ポメくんがわざと外してくれてるんだから、今のうちに謝った方がいいんじゃない?"

 "ポメくん、配信者の中でも結構、上位の実力者だもんね"

 "そうそう、強いのにモンスターにも優しいのが推せるんだよねー"


「……」


 "なんだこいつ、全然しゃべらんな。つまらん"

 "もう飽きて来たわ"

 "さっさと退場しろや"

 "はーよ○ね! はーよ○ね!"


「……」


 "いやいや、このおっさんの言ってることマジだわ"


「「……!!」」


 "アーカイブ観ろよ! 02:34:30辺りから"

 "おいおいおいガチやんけ"

 "嘘だろ? ポメルン……"


 類似の内容がポメルンのチャネルでも即座に流れ始める。


「ちょちょちょ、ちょっと待って」


 "こんなの捏造よ!"

 "お前らポメルン信じらんねえのかよ!?"


「そうだよ……これは捏造だよ……僕がこんなことするわけ……」


 コメントはポメルンを擁護するものと疑心暗鬼になるものが混ざり合い、異様な雰囲気となる。


「違う……違うんだ……」


 ポメルンは明らかに動揺している。そして……


「お、おい! おっさん……!」


「……?」


「よくもこんな手の込んだことくれたな……! 遊びで終わらせてあげようと思っていたけど、ここまでされたら許せねえ。そういうわけなので、すみませんが、退場してもらうわ。恨むなら、リライブ保険のおかげで決闘も特に禁止されてないことを恨んでくださいね」


 早口でそう言うと、ポメルンは邪悪な笑みを浮かべ、地面を勢いよく蹴り出し、容赦なくトウラに襲い掛かる。





 カキーン……





 ダンジョン内に無骨な金属音が響き渡る。


 そして……



 ズゴッポ……



 何かがダンジョンの壁に激突した音が聞こえる。


 "……"

 "え……"

 "え……?"


 残っているのは、金属バットを振り抜くおっさんの姿と首のなくなったポメルンの胴体であった。


(え……?)


 あまりの手応えのなさに、やった本人が一番驚いている。


 "きゃぁあああああああ!"

 "ポメルゥウウウウン!"

 "殺人よ、このおっさん、殺人犯よ"


(あーああ、やっちまった……終わりだ……)


 トウラは頭を抱える。


 しかし……


「っ……!」


(もうどうでもいいやー)


 トウラはどうでもよくなり配信を切る。


 なにせ、子ドラゴンの救出が優先事項だ。


 ◇


 その頃……


 "あの小汚いおっさん、許せない"

 "よくもポメルンを……"

 "私の生き甲斐……もうポメルンの笑顔を観れないなんて"


 コメントは荒れに荒れていた。


 が、しかし……


 "誰か通報を"

 "言うて、決闘は合法だしなー、仕掛けたのポメルンだしなー"

 "は? あんたポメルンを裏切るわけ?"

 "裏切るうんぬんじゃなくて、事実言ってるだけだが"


 中立的な意見を述べる者も次第に増える。


 そして……


 "これが捏造とか無理あるだろ?"

 "おっさんに何のメリットがあんねん"

 "そう考えると、急におっさん、かっこよく思えてくる不思議"

 "ポメルン、色んな意味で終わったな"

 "ぐっばい、ポ/メルン"


 ◇


「うーん……そうだな……あっ……! お前の名前はショーイだ」


「ぴぃ」


 そんなことが起きているとは露知らずのトウラはようやく粘着テープから解放してあげられた子ドラゴンに名前を付けていた。


「これも何かの縁だ。これから仲良くしてくれよ」


「ぴぃい!」


 それは、それまで孤独にダンジョンを潜っていたトウラに初めて仲間ができた瞬間であった。


 と……


「ん……?」


(さっきからすごい通知が……)


「ん?」


 チャンネル登録がされましたの通知が来ていた。


(……嫌がらせかな……面倒くさいな……アカウントごと削除するか……)


 そう思いながら、トウラはチャンネル情報を確認する。


「はいぃ!?」


「ぴ!?」


 トウラが大きな声を出すので、ショーイもびくりとする。


「あ、ごめん、ショーイ……しかし……」


(チャンネル登録者2万人!? 普通、いたずらでそこまでいくか?)


 トウラは恐る恐るコメントを確認する。


(……)


 トウラは言葉を失う。


 "おっさんは無実"

 "おっさん、かっけえ"

 "いや、むしろ、おっさんかわいい"


(ひぇ……)

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