自作自演でモンスターを罠に嵌め助けようとしていた有名配信者からモンスター助けたらなんかバズった。
広路なゆる
01.トウラ、目撃する
世は大ダンジョン配信時代――
『どうもー、ポメルンでーす。今日は、以前、助けたこのシルバーウルフのウルちゃん、だいぶ大きくなってきたので、ダンジョンに戻してあげようと思います』
"ウルちゃん……立派に育って"
"悲しいけど仕方ないよね"
"ポメルンが助けてあげてなかったらどうなってたか……それを考えるとぞっとするね"
……
『ばいばい、ウルちゃん……元気でな……もう人間に捕まっちゃダメだぞ……』
"あぁ……ダメだ、もらい泣きしちゃいそう"
"元気で育ってくれよ。人間を襲っちゃダメだよ"
このようにダンジョン配信は人々の生活に根付き、時に人々の感情を揺さぶった。
◇◇◇
一方、配信をしながらもそんなこととは無縁の人もいた……――
無風過ぎる人生。
適度に社畜で、適度に無恋愛。金は最低限あっても、人生のビッグイベント皆無。
(このままでいいんか……?)
ダンジョン――
世界各国に点在しているモンスター蔓延る空間。
それだけならサバンナと大差はないが、その空間ではレベルやスキル、魔法といった不思議な概念が存在する。
上手い税収を考える奴がいるもので……ダンジョン生命担保保険。
高額入会費(条件により変動する)を払うことで、ダンジョン内で死亡した時、一度だけ蘇生して強制送還してくれる魔法"リライブ"を掛けてもらえる。
ダンジョンに入る者は強制加入で、一度死んだ者は二度とダンジョンに入ることができなくなる。
トウラは一念発起し、会社を辞め、全財産に等しい300万円を払い、流行りの配信を始めてみた。
しかし、彼の人生が無風であることにはそれなりの理由があった。
人の話の引き出しとは、今までの人生経験による部分が多い。
故に、特に話すこと……なかった。
安定の同接0。
視聴者は大切な時間を使って観てくれるものだ。
中年なりかけ無個性男の無言配信を視聴する者などどこにもいなかった。
いつしかただの趣味で潜るようになった。
が、それはそれで結構、楽しかった。
なるべくひと気がないところに行きたくて、深く深く潜った。
それから3年の月日をかけ、トウラ38歳は64層にまで到達する。
50層を超えると、人はほとんどいなくなった。
◇
(そろそろ一度、補給に戻るか……)
その日、62層を探索していたトウラは補給のため、ダンジョン内街がある30層に戻ることにする。
トウラは歩き始める。
37層に到達した時、何かに気付き、トウラは陰から状況を確認する。
ぴぃぴぃとモンスターが鳴く声がする。
一人の男が小さなモンスターを粘着テープのようなものに押し付けている。
そしてその人物はモンスターを放置して、去っていく。
ぴいぴいぴい……
洞窟内をモンスターの鳴き声が響く。
「……」
トウラは陰から出てきて、モンスターの様子を確認する。
見るとそのモンスターは子ドラゴンのようであった。
小さいながら四足歩行に立派な二枚の翼が生えている。
おでこの辺りに短いが一本の角がある。
トウラはモンスターだから仕方ないのかもしれないと思いつつも、不憫に思う。
知性あるモンスターは子供の頃から愛情を持って育てると、人間と良きパートナーシップを結べるのだ。
「……」
トウラは少し悩んだ後、そのモンスターを助けてあげることにした。
(うわ……相当、しっかり粘着テープが付いてるな……)
ぴい……
子ドラゴンは心配そうに一鳴きする。
「……大丈夫だ、助けてやるからな……」
しばらくトウラが粘着テープと悪戦苦闘していると……
「あぁ!? どうしたんですか?」
(ん……?)
先程の男が戻ってきた。
改めてみると、派手めな格好をしている。
「えーと……」
「な、なんと……! 子ドラゴンがトラップに!? 可愛そうに……」
(……!?)
トウラにはその人が何を言っているのかよくわからなかった。
「僕も手伝いましょう……」
「え……? 結構ですよ」
「いやいや手伝いますよ! 手伝わせてください!」
(いやいや、おかしいだろ。それは……)
「いや、私がやりますので……」
トウラは抵抗する。
「ですが、僕、こういう可哀そうなモンスターを見ると、どうしても助けてあげたくなっちゃうんですよ」
(……?)
トウラは彼が何を言っているのかやはり理解できず、ついに言ってしまう。
「どういうことです……? この子をこの状態にしたのは
「……!? え、えーと……なに言ってるんですかねー?」
「いや、だからあなたがこの子をこの状態にしておいて、それを助けるってなんかおかしくないですか?」
トウラは努めて冷静に言う。
「あのー、もしかしておじさん、僕のこと嵌めようとしてますか?」
「はい?」
「僕のこと、知ってて、それで妬みか何かで嵌めようとしてるんでしょ?」
(……いや、知らんけど)
「僕はポメルン……チャンネル登録者数122万人ですよ?」
(えっ!? まじすか……!? でも、ごめん、知らない……)
トウラはあまり他人の配信を観ていなかった。
「え? じゃあ、今、ひょっとして配信中ですか?」
「そうですよ。今、貴方へのヘイトコメントがすごいことになってますよ……」
「……!?」
ポメルンは猛烈に流れるコメントをトウラに見せる。
"なにこのおっさん、きもいんだけど"
"ポメルンもこんなアンチが粘着してきて大変だねー、有名税ってやつ?"
"ってか、これやったのもこのおっさんじゃね?"
"粘着テープの粘着おじさん、きも……"
(っ……)
"でも、ちょっと都合よく、罠にかかった子モンスターがいるなぁって気はしてた……どっちにしても暴言吐くのは違くね?"
(ん……?)
一瞬出たそのメッセージはすぐに消滅する。
「だから……ね?」
(……)
トウラはポメルンに脅されているのを察した。
ここで、この態度を崩さなければ多くの彼のリスナーに大バッシングを受けるかもしれない。
そう感じた。
だが……
「いや、私は嘘は付いていない。私はあなたがこの子を粘着テープに押し付けているのをこの目で見ました」
「あーあ゛ー、そうですか……こっちは穏便に済ませたかったのですが……」
ポメルンは下を向く。
「リスナーの皆さん、なんか、めんどくさいアンチに絡まれちゃったみたいです。この人、ちょっと指導していいですかね?」
(え……?)
「うんうん、いいですよね? じゃあ、やっちゃいますね?」
ポメルンは剣を構え、トウラに問う。
「保険は入ってますよね?」
(まじか……)
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます