03.トウラ、快諾する

 トウラは一旦、30層、ダンジョン内街にショーイを抱えて戻って来ていた。


(ひとまず何か食べさせなければ……)


「ドラゴンって何を食べるんでしょうね……」


 "肉じゃね?"

 "まだ小さいからミルクとか?"

 "いや、哺乳類じゃねえから、ミルクはないだろ"

 "あー、確かに"

 "基本的には動物性たんぱく質でいいとは思うけど"


(コメントが返ってくる……)


 これが配信というものなのか……とトウラはじんわりと喜びに浸る。


「あ、ありがとうございます。とりあえずお肉をあげてみます」


 ……


 トウラはペットOKの宿を借りた後、街で生肉を調達し、戻る。


「えーと……お肉って焼いた方がいいんですかね……」


 "動物は焼かなくてOK"

 "人間は胃酸が退化してるからな"


「なるほどです」


 トウラは生肉を小さく切り、ショーイの目の前に出す。


「ぴい……?」


「……」


 ショーイはしばらく不思議そうにお肉を眺めていたが……


「ぴい」


 ぱくりと口に入れ、丸呑みする。


 "おぉー、食った"

 "いいねー"


(よかった……)


 トウラが次のお肉を差し出すと、今度はすぐに食いつく。

 トウラは嬉しくなって次々にお肉を与えていく。


 "いい食べっぷり"

 "お腹空いてたのね"


 コメントの反応も良好であった。


 ◇


 翌日――


『見てください。いましたよ。例の金属バットおじさんです』


 "おぉー、本当にいる"

 "冴えない顔してんなー"


 シロヒの突撃チャンネル。


『今日も調子乗ってる新人をわからせに行きたいと思いまーす』


 要するにそういう方法で一定の視聴者を得ているチャンネルである。


 ◇


「どうもー、シロヒでーす」


「っ!?」


 トウラはホテルを出たところをちゃらちゃらした雰囲気の謎の女性に話し掛けられる。

 ちゃらちゃらはしているが、顔は整っており、一般的に可愛いと言われる部類の女性だ。

 全身、白を基調に青をあしらった様なデザインで統一されている。

 髪は肩くらいまでのミディアムで、身体の線は細い。

 腰には剣を携えて、ちゃらちゃらした雰囲気がなければ可憐な騎士のようだ。


(……な、なんだこの人……)


 見ると、シロヒなる人物の近くにはドローンが飛んでいる。


(配信者か……)


「トウラさんでいいんですかね?」


「あ、はい……」


「トウラさん、コラボお願いしまーす」


(こ、コラボ……!? これが噂に聞く……)


 ノーアポ、無断で配信を行い、コラボを無理強いすることで、相手の配信者の素の姿を映し出すというコンセプトのチャンネルである。

 相手方からすれば迷惑極まりないものだ。


 が……


「はい、喜んで!」


「へ……?」


 3年間、無風生活を送っていたトウラにとって、コラボという響きはなんだかとても特別なものに感じられたのであった。


「あ、あの……トウラさん、私のこと知ってますか?」


「…………ご、ごめんなさい」


 ◆トウラ側コメント

 "シロヒ、知られてなくて草"

 "これは恥ずかしい"

 "おっさん、この人はシロヒですよ"


 コメントが目の前の女性がシロヒなる人物であることを教えてくれる。


(……シロヒ? あー、シロヒさんねー………………やっぱり知らん)


「あー、あれでしょ? 知らないことにしてやり過ごそうとしてるんでしょ? たまにいるんですよねー」


「……?」


(もしや傷ついてる? 悪いことをしたかな……ここは……)


「そ、そうなんですよ、さ、流石です。し、シロヒさんでしょ? 知ってます知ってます」


「あー、やっぱりねー……びっくりしたなー……よくないですねー、そういうのは」


「す、すみません、気を付けます」


「うんうん……それで、今日のコラボなんですけど、ゴブリン狩りに行きたいと思いまーす」


 シロヒはニタニタしながら言う。


「ご、ゴブリン狩り……?」


「えぇ、ゴブリン狩りです」


 ◆シロヒ側コメント

 "でたー、ゴブリン狩り"

 "えぐっ"

 "おっさんの汚いケツなんか見たくねえよ"


 ◆トラウ側コメント

 "おっさん、こいつは無茶なことやらせてくる奴ですよ"

 "そうそう、適当にあしらっていいんですよ!"


(でも、せっかく来てくれたわけだしな……)


「行きましょう!」


「え……?」


「ん……? ですから行きましょう!」


 まさかの快諾……

 通常であれば、ここで「え、行かないんですか? チキン野郎ですね」などと煽るのがお約束なのだ。

 なにせゴブリン狩りなんて割に合わないもの、誰もやりたがらないのだから……


「どうしました? 行かないんですか?」


 シロヒが少し引きつっていたので、トウラは心配になる。


 ◆シロヒ側コメント

 "快諾されて草"

 "ん? どうした? シロヒ? 行かないのか?"

 "自分から誘っておいて"


「っ……!? い、行きますとも……!」


 こうしてトウラの初めてのコラボが始めるのであった。

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