04.トウラ、ウキウキする

「あれがゴブリンの巣ね……」


「そうですね」


 トウラはシロヒと共にダンジョン25層に来ていた。

 ゴブリンの巣と呼ばれる土の要塞の前の木に隠れて二人は話す。


「あの……一応、聞くけど本当に行くの?」


 シロヒは幾分、不安そうにトウラに尋ねる。


「え……?」


(俺のことを心配してくれているのだろうか……いい人だな……)


「大丈夫です!」


 トウラは初めてのコラボにウキウキしながらも努めて、はっきりと答える。


「う、うん……」


 ◆シロヒ側コメント

 "シロヒ、ビビってる?"

 "シロヒ~、ごめんなさいするなら今のうちだよ?"


「びびってないわ!」


「っ……!」


 急にシロヒが叫ぶので、トウラはびくっとなる。


 シロヒがコメントに煽られるのには理由があった。

 それはゴブリンの悪質な性質にあった。

 ゴブリンは一体一体は強くはない。しかし、狡猾であり、集団となると、脅威となる。

 更に、人間にとって脅威となるのは、彼らは人間を性的対象と捉えており、人間を捕えた場合、無慈悲に性玩具として使用するのだ。

 配信をしている場合においては人によってはそれは死よりも恐ろしく、多くの探索者はゴブリンには近づかない。

 ダンジョン中層に存在し、巣を作り待ち受けるこのタイプのゴブリンはタイプ"スパイダー"と呼ばれていた。


 なお、トウラはゴブリンにそんな性質があることなど知らなかった。


「ゴブリンは油断ならない相手ですからね。注意していきましょう!」


「そ、そうね……」


 油断ならない相手ということだけは共通認識であった。


「今日はとりあえず10体狩ったら撤退。いいわね?」


「承知です」


 そうして二人はゴブリンの巣へ突入していく。


「トラップには気を付けるのよ!」


「承知です」


 シロヒはトウラの前を歩いていく。


 グガー!


「っ……!」


 通路を歩いていると、さっそく第一ゴブリンが現れる。


 ぐぎゃ


 シロヒはそれを剣で一刀両断する。


(おぉー、お見事……)


 その後、第二、第三ゴブリンも同様に処理していく。


「あと7体……あと7体……」


 ◆シロヒ側コメント

 "あれ? まもってあげるの?"

 "シロヒ、優しいー"


「うっさいわね!」


「っ!?」


 急にシロヒが叫ぶので、トウラはびくっとなる。


(何? 急に……この人怖い……)


 ◆トウラ側コメント

 "シロヒ、イライラしてるなー"

 "まさかゴブリン狩りやらされるとは思ってなかったんだろうなー"


(……どういうことよ……意味わからん)


「ぴぃぴぃ」


(はぁ……こんな時はショーイに癒されよう……)


 肩に乗っていたショーイを撫でながら、トウラはデレデレする。


「……」


 シロヒはそんなトウラを冷たい目でチラ見する。


 なに、このおっさん笑ってんの? まじで最悪なんだけど……


 そんな風に思いながら。


 実際のところシロヒはトウラを全く信用していなかった。

 適当に振ったバットのポテンヒットでポメルンを退場させてしまっただけの一発屋。

 故に自分の身は自分で守らなければならない。

 彼女が率先してゴブリンを狩っていた理由はただそれだけである。


 ……


「よし……あと3体……あと3体……」


「あのー、私、何もしなくていいのでしょうか?」


「あ゛? 別にいいよ。むしろ邪魔しないで」


「っ……!」


 シロヒは緊張からか明らかに機嫌が悪くなっていた。


(……これってコラボなのだろうか……俺、金魚の糞みたいにくっついてるだけじゃん)


 トウラがそんな風にちょっと落ち込んでいたその時であった。


 うぼォおおォおおオ……!


「「!?」」


 巣の内部から、人の悲鳴のようなものが聞こえてくる。


「な、なんでしょう……」


「わからない……」


「助けに行きましょう……!」


「えっ……? ちょ、待……」


 トウラは巣の内部に向かって駆けていく。


「え……行っちゃったよ」


 ポツンと残されたシロヒは独りきりになってしまう。


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