05.トウラ、失礼する
(急がないと……!)
トウラは悲鳴のした方へ全力で走っていた。
"おっさん、その行動力、かっこいいとは思うけど、シロヒ来てないぞ"
"おっさん、一人きりで大丈夫か?"
「えっ……!?」
トウラはそのコメントで一度、足を止め、振り返る。
コメントの通り、シロヒが付いて来ていないことに気付く。
(しまった……!)
トウラは一瞬、迷う。
しかし、シロヒは一人でゴブリンをばっさばっさと倒していた。
一方、悲鳴の方は差し当たっての危機である可能性が高い。
「シロヒさんが今、どういう状況かわかりますか?」
トウラはリスナーに問いかける。
"ん? なんかゴブリン狩りは中止して、出口に向かうみたいだよー"
「有難うございます」
(……なるほど)
うォ゛んうおお゛ォおおオ……!
「っ!?」
また悲鳴のようなものが聞こえてくる。さっきより近い。
そしてまだ生きている証拠だ。
「向かいます!」
トウラは悲鳴の方へ向かうことを決断する。
……
トウラは走った。
「ぴぃぴぃ」
ショーイはトウラから振り落とされないように必死にしがみついていた。
「ショーイ、大丈夫か?」
「ぴぃ!」
ショーイは大丈夫ですぜ! というように良い返事をしてくれる。
うォ゛んうォ゛んうォ゛ん……!
「っ……!」
悲鳴は断続的に続いており、それがトウラが行くべき方向を教えてくれる。
幸いなことに道中なぜかゴブリンはほとんど出てこなかった。
(もしかしてこの悲鳴の先にゴブリン達が集結しているのだろうか……)
トウラの緊張感が増してくる。
そして……
(あの先か……!)
トウラから通路の先が少し広くなっているのが視えた。
その先から悲鳴が聞こえてくる。
そして、トウラは迷うことなく通路の先へ飛び出る……!
「……!!」
(……! ど、どういうことだ……!?)
そこには、犬のように四つん這いになり、ゴブリンに後方から尻を叩かれ、股間を押し付けられている男性がいたのだ。
「ど、どういうことなの!?」
"おっさん、もしかして知らなかったのか?"
"ゴブリンは人間を性奴隷にするんだぜ"
"ひー、お尻がきゅっとなる"
"自動モザイクさんきゅー"
「っ……!」
(な、なんて非道な……!)
トウラは動揺と共に、怒りが込み上げてくる。
この時、初めて、トウラはゴブリンが人を性玩具にすることを知ったのであった。
ちなみに配信では局部は自動的にモザイク処理がされるのであった。
(い、今、助けに…………ん……?)
うォ゛……うォ゛ん……
トウラは気づく。
様子がおかしい。
四つん這いになっている男性が恍惚の表情を浮かべているではないか。
"こ、これは……"
"お楽しみでしたか"
「え……えーと……」
トウラが戸惑っていると、男性がようやくこちらの存在に気付く。
そして……
「オラ゛っ……! 見せもんじゃねえぞ……! うォ゛ん……」
「し、失礼しました……!!」
世の中は広い。
そういう趣味の方がいてもおかしくはないのだ。
誰にも迷惑を掛けていないのなら人の趣味にとやかく言うのは止めよう。
そう思う、トウラであった。
◇
「ったく、迷惑なんだよ!」
シロヒは怒っていた。
「あ゛ー、おっさん、どっか行っちゃったからコラボは終了。もうゴブリンを狩る理由もないから帰ります」
"ええー、つまんなー"
"おっさん放置でいいの?"
「私があのおっさんになんの義理があるっていうのよ! ってか、そもそもなんでゴブリン狩りなんてやらされなくちゃいけないわけ? 意味不明!」
"理不尽で草"
"誘ったのシロヒやんけ"
「んなことはわかってんだよ! 空気読めよおっさんって話!」
"おっさんひどい言われようで草"
"でも、このパターンは新しくて面白かったわ"
シロヒはいつもそうであるように味方ばかりではないコメントを無視して現状に集中し、引き返すことにする。
「……」
まぁ、いいわ……さっさと帰ろう。
危なくはあるけど、所詮はゴブリン。一体一体は大したことない。
慎重にやれば大丈夫……さっきまでも実質一人だったのだから。
そんな風に思いながらシロヒは元来た道を戻る。
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