06 好きな人、だよ




(夏祭り。お囃子の音、子どもの声や屋台の呼び込みの声)


「うわぁ~、すごい人……!!」


(カランコロンという草履の足音)


「浴衣で来たの失敗だったかな。花火大会だから、気合い入れてきちゃった」


「……え、かわいい? そぉ?

 じゃあ、着てきてよかった……かな」


「あ、え、手? そっか、はぐれたら困るもんね」


「ゎ、ちょっ……人、ヤバッ……!!」


(人波に揉まれて、悲鳴を上げる)


「うぉっ! わ、ぁ、ギャンッ……ふぉっ……!!」


「(息を切らしながら)

はっ……は、やっと、人ごみ抜け出せた……!!」


「って、うわぁ! 浴衣、めっちゃ着崩れてる……!!」


(浴衣がはだけて、ボィンという効果音)


「と、とりあえず、物陰に……!!」


(バタバタと、2人が物陰に駆け込む足音)


「(息を切らしながら)

 ハァ、ハァ……って、ヤバイ、もっと着崩れてるっ……!!」


(さらに浴衣がはだけて、ボィ~ンという効果音)


「人ごみで押しつぶされて、走ってるうちに……うぅ、せっかくママに気付けてもらったのに……!!」


(ザッ! という足音)


「……って、バアチャン、だれ!?」


(謎のバアチャンが現れる)


「あ……えっ。着崩れてるの、直してくれるの?」


「ちょーイイバアチャンじゃん!

 せっかくのお祭りなのにごめんね」


(サッサッサッ、シュババッと浴衣を治すバアチャン)


「ほんとありがと。泣ける。

 もうバチバチで崩れる気しないよー」


「バアチャン、お礼に夏祭りの抽選券あげるよ。当たるといいけど」


「バアチャン、マジでありがとー!!」


(立ち去るバアチャンの足音)


「バアチャン、ヤバイね。マジいい人だった」


「……ふふっ、初めての花火大会、こんなグズグズなの、マジうける……!!」


「え、キミも楽しかった?

 ホントだよね、この年で知らないバアチャンに助けられるなんてフツーないから」


「あ、ねぇ。たぶんそこの木の向こう辺りなら、花火よく見えるよ」


「……ここなら落ち着いて、手つないで歩けるね」


「うんうん。このへん。誰もいないし、穴場じゃん」


(パーーーーン、という花火の音)


「あ、はじまったはじまった!」


(花火の音が続く)

(しばらく2人、手をつないだまま花火を眺める)


「アタシ、最後の一番デッカイのが好き」


「へぇ、しだれ柳ってゆーの?

 あぁ、たしかに。バーンてさいご、垂れるもんね」


「あはは、キミはハートの花火が好きなの?

 かわいーじゃん」


(花火の音が、パラパラ、バーンと続く)


「好きな人と花火見るの、初めて」


「好きな人って、ヘンか。彼氏と、だね」


「あは、『好きな人』って言われたほうが嬉しい?

 なんかそれ、わかるかも」


「好きな人、だよ。キミは」


(突然、ちゅっとリップ音)


「……ふふっ、ねえ、花火見えないんですけど?」


「わざとだよ?って、かわいくねーし! あははっ」


(ちゅ、ちゅ、ちゅ、と3回のリップ音)


「……キミも、キス上手くなったんじゃない?」


「だってなんか、ドキドキするもん」


(すこし濃厚な、キス)


「ん……、すき……」


「……っ、もぉ、これ以上ダメ」


「……これ以上したら、帰りたくなくなっちゃう」


「帰したくない?

 ふふ、ウチのパパにぶち殺されるよ」


(パァーン、と大きな花火の音)


「あ、そろそろフィナーレかな」


「キミは卒業したら……ひとり暮らし、するの?」


「そっか。じゃあ……」


「(少し小声で)

 来年の花火大会は、朝まで一緒にいられるね」


「来年がたのしみだなっ」





 06 好きな人、だよ fin.

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触診好きなギャルと付き合ったら可愛すぎて困ってる。 pico @kajupico

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