最終話 ンィーガ視点
〜ンィーガ視点〜
集落から少し離れた、小高い丘のそばの、湿った柔らかい地面を持つ草原。そこにザルバドはいた。
ザルバドは焦点の定まらない瞳に揺らめく炎を宿し、逃げ惑うサウザンド族の子供の背を
肺を
ザルバドの肌に返り血が飛ぶ。
ザルバドはそれを嬉しそうに体へ塗りたくった。その体はすでに赤黒い色に染まっている。
ザルバドは同じように
逃れようと走るのは女や幼い子供ばかりで、男たちは全員ザルバドと同じものに
のどかな夜の平原は、
「ザルバド!」
透き通った声が響き渡り、ンィーガが姿を現す。ンィーガは手にした槍と拳で襲いくる男たちを跳ね
「ィーガか」
振り返るザルバド。血に染まったその横顔に、ンィーガは息を呑んだ。
「なぜこんなことをする!? お前はサウザードの英雄じゃなかったのか!」
「口答えするなっ! 俺に逆らうものは愚かだ。愚かなことは悪だ。悪は滅ぼさなければならない!」
「目を覚ませザルバド!」
ンィーガは槍を横薙ぎに振るって剣を跳ね除けた。しかしよろけたザルバドは地を踏みつけて体勢を立て直し、再び襲いかかってくる。
薄暗闇の中、激しい
諸刃の剣を
ンィーガはザルバドに反撃することができない。重量を持つ剣の一方的な応酬が続き、ついにンィーガの槍が半ばから折れる。
槍を取り落とすンィーガ。
「終わりだぁぁぁーーーーーーーーーーっっ!!」
頭上に振り上げられた剣が、勢い良く振り下ろされる。
地平線から朝日が昇り、差し込んだ日の光が無意識に目を
ロウロがンィーガの手に塗り込んだヌケニンの加護には、光り輝く鉱石、
「!?」
その光に一瞬気を取られたザルバド。
剣の軌道がわずかに逸れ、
ンィーガはそのわずかな隙に折れた槍を拾い上げ、黒曜石の刃でザルバドの胸を突いた。
「うっ」
うめき声とともに、ザルバドは血を吐いて倒れた。
〜グーグス視点〜
同時刻。深い森の中にも、日の光が差し始める。
「朝か」
ぽつりと呟くグーグス。
その足元には大賢者の死体が散乱している。
《
『愚かなる呪術師よ』
突然、グーグスの心臓を声が震わせる。それはグーグスにとってあってはならないことだった。
「誰だ!?」
天に向かって叫ぶと、周囲を取り囲む木の幹の影から大賢者が姿を現す。
一頭や二頭ではない。グーグスは完全に包囲されていた。
「あ、あり得ない! お前たちは、ザルバドたちが根絶やしにしたはず」
『我々は不滅だ』
大賢者たちは、一歩一歩その距離を詰める。
「こ、降参だ。降参する! この通り、この通りだ! 許してくれ」
グーグスは死臭の漂う地面に無様に平伏し、命乞いをした。
『同胞の
大賢者たちが目と鼻の先まで迫る。
グーグスの悲鳴が、深い森の中に響いた。
〜ンィーガ視点〜
倒れ伏すザルバドにはまだ息があったが、ンィーガはどうすることもできずに、その場で呆然と立ち尽くしていた。
やがて気づいた男たちが殺戮をやめ、ンィーガとザルバドを取り囲んで
それは言葉ではなかったが、やがて同一のかけ声となる。
ンィーガには、その意味がわかっていた。
ンィーガの脳裏を過ぎるのは、七年前。
ザルバドと初めて行った狩りのことだった。かつてザルバドは、フクロオオカミからンィーガを救ってくれた。あのときの借りは、まだ返せていない。
洞窟の中でフーが耳元で
『ザルバドを殺せ』
フーはそう言った。できるはずがなかった。
しかし、ンィーガにはわかっていた。《
ンィーガは震える手でザルバドの剣を取った。
ンィーガはザルバドの喉に刃を突き立て、その首を切断した。
周囲を囲む男たちが声を上げる。あまりの大声に、頭がおかしくなりそうだった。
ンィーガはザルバドの首を天高く
「 」
そして、ンィーガの絶叫だけが、朝焼けとなってマーミアの空を焦がした。
────────────────────────────────────
この小説のトップページ(表紙)またはこのページの『★で称える』の+ボタンをいっぱい押したり、ハートを押したりして応援していただけるととてもうれしいです。
裏話
最後までお読みいただきありがとうございます。
実は今作は羽川が一晩のうちに見た夢の世界をほぼそのまま採用したものでして。
自分でもなぜこんな夢を見たのかよくわからないのですが、一部の方に刺さっているようなのでうれしいです。
お気づきかもしれませんが、夢の時点ではホウキョクグマはホッキョクグマという名前で登場していましたが、見た目が完全にヒグマだったので一文字変えました。
いじったのと言えばそのくらいでしょうか?
剣を持った英雄や、未来を視る鹿、大賢者についても夢の通りです。
ですので、構想にはあまり時間がかかりませんでしたね。
こうゆう夢はたまに見るので、また書くことがあるかもしれません。
それでは。
サウザード 羽川明 @zensyu
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます