学校の怖い話『心霊写真』

寝る犬

心霊写真

 中学生のころ、いつもつるんでる仲間がいたんだ。

 授業中も休み時間も放課後も、とにかく何をするのにも4人。

 今日はその友だちの中でも、一番仲の良かった石動いするぎの話をしようと思う。


 石動とはとにかく気が合った。

 笑いのツボが同じっていうか、興味の対象が同じっていうか、とにかく同じものを好きになって同じギャグで笑う。

 そのころの俺らは心霊写真にハマっていて、学校にも心霊写真集を持ってきては、そこに書いてある適当な解説に「こえー!」「すげー!」などと盛り上がっていた。

 そして当然の成り行きとして「俺たちも心霊写真撮りたい!」って話になる。

 だけど、中学2年生にもなると学区内はだいたい探検しつくしていて、心霊写真が撮れそうなほど怖い場所なんかもうないんだ。

 友だちの友だちや親せきの兄ちゃんみたいな怪しい情報をたどってやっと見つけたのは、隣の市にある「山の中の廃墟」だった。

 土曜日にみんなで集まって、夕方になったら自転車で向かうことを決め、親には当時共働きで親が遅くまで帰ってこない石動の家に泊まるとウソをついて、ワクワクしながら週末を待った。


 土曜。

 みんなで小遣いを出し合って買ったフラッシュ付きの使い捨てカメラとか、食料(お菓子)、懐中電灯をカゴに入れて自転車をこぐ。

 薄暗い中、自転車の頼りないライトで山道を登っていくと、夕暮れの赤い空をバックに、打ち捨てられた集合住宅が黒で四角く切り抜いたようにそびえたっていた。

 4階建ての建物二棟が並び、錆びた公園にロープが張られているところに自転車を止める。

 もう夕焼けも終わり、真っ暗になった建物はめちゃめちゃ雰囲気があった。

 だけど結局心霊現象のようなものは何も起こらず、俺たちは記念写真を撮って帰った。


 翌週、現像に出した写真の出来上がりを待ってる間に、夜に廃墟探検したことがバレた。

 どこかから(たぶん話をした同級生の親から)学校にも連絡が行き、俺たちは1週間の停学処分を受けたんだ。

 停学明け、俺たちはやっぱりみんなで放課後に集まり「結局何もなかったな~」なんて話してた。

 俺はぜんぶ取り上げられたんだけど、仲間の一人が親から回収に成功した写真を隅から隅まで確認する。

 そこで俺は石動がいないのに気づいた。

 すぐ来んじゃねっていう友だちの言葉とほぼ同時に、知らない奴が近づいてくる。

 そいつは「わりぃ、遅くなった」と、当たり前みたいに俺の隣に座った。


 え? 誰かの知り合いか?


 そう思っていたらほかの二人が「遅せぇよ石動~」と言い出した。

 髪を切ったとか、停学中に太ったとかそんなもんじゃない。

 根本的にどう見ても別人なのに、仲間たちはそいつに「石動」と話しかけてる。

 俺はちょっとパニックになって立ち上がり、みんなに「こいつ石動じゃねぇだろ!」って力説した。


「何言ってんの?」


「ひでぇ。なにそれ、いじめ?」


 友だちは笑って意に介さない。

 それでも食い下がる俺に、石動はちょっと困った顔をして、写真の一枚を俺に突き付けた。


「笑えねぇから、もうやめろよ。ほら、この写真にも4人全員写ってるだろ」


 廃墟の中で撮った写真には、俺ら4人が並んで写っている。

 石動は、今目の前にいる石動だ。

 それを見ているうちに、あれだけ別人だと思えていた石動の顔が、よく知ってる石動の顔だと思えるようになってきた。


「……わりぃ、なんか混乱してた」


「いやいいけどよ。それって心霊現象かもよ?」


 謝る俺に、石動は茶化してそう言ってくれた。


 あれから6年。

 俺は今さっき同窓会を終えて帰ってきたところだ。

 高校が違ってから4人で集まることはなくなったが、久しぶりに会った仲間はやっぱいいやつらだった。

 そこで廃墟探検の話も出たんで、思い出したってわけ。


 でもさ、写真見て思ったんだけど、当時の使い捨てカメラにシャッタータイマーなんかついてないんだよ。

 4人が並んで撮った写真さ、あれ、誰がシャッター切ったんだろうな。


――了

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