最終話 違いを知る男と可愛い女

 長峰、いや萌香とは週末デートを繰り返している。

 勿論、自宅デートも熟す。

 そして当然だが互いに大人だ。童貞と処女ではあってもな。付き合い始めたその日にしっかり卒業することになった。


 カフェで話をして俺から来るかと誘ってみたわけで。

 さすがに今日は来ないだろうなんて、高を括っていたらあっさり「ぜひ行きたい」と言われて少し焦ったが。

 期待してるのか?

 俺は勿論、真帆との違いを知りたい、って欲求もあったからな。やっていい、というなら遠慮はしない。


 帰りの電車内で寄り添う萌香が居て、カフェで泣いていたとは思えない笑顔だ。

 これからたくさん話をして、お互いを知って、当然だけど体も知っておこうね、とか。なあ、こいつもエロいのか?

 妹も明け透けなエロ女だったが、萌香も同じってことかもしれん。

 俺の周りには性に大らかな人種が集まるのだろうか。


 家に着くと真帆に向かって「ごめんね。今夜は借りるから」とか言ってるし。

 まあそれでも、ちゃんと断りを入れる辺り、俺が大切にしていると理解してるんだろう。

 晩飯は自宅最寄り駅近隣の飲食店で済ませている。

 腹は満たした。次は性欲だが。

 いつ切り出せばいいのか。お互いが未経験ってことで、なんか言い出せず。中高生でもあるまいに。童貞が好かれない理由だよな。上手くリードできないのだから。

 それでも互いに見つめ合うと、自然にベッドルームに向かい、ベッドに横たわると「脱がせてくれる?」と言ってきた。


 先手を打たれたが次は俺から誘えばいい。

 そして互いに初体験となり、真帆との違いを知ることになった。


 柔らかさ。全く違う。シリコンは弾力が強過ぎるんだよ。水の如く流れるような柔らかさが萌香だった。

 あまりにも柔くて、手が吸い付くようだったし。

 肌の質感は比較の対象にすらならなかった。

 それとあれだ、構造もだ。人の構造は複雑だが真帆の場合は、単純にシリコンオンリー。違いがあり過ぎて、まだまだ人には到底及ばない面もあった。

 こんなにも人工物と天然物が違うとは。


 他にもいろいろ違い過ぎて、真帆には悪いが萌香に嵌まりそうだ。

 手が震えるほどに感動すると思いもしなかったし。この歳まで童貞だったからかもしれん。

 いろいろ試させてくれたしなあ。何してもいいよ、と。納得いくまで観察していいとも言ってくれた。萌香、君はいい人だ。

 それとだな、匂いだ。萌香からはいろんな匂いがしてくる。人の匂いってのは複雑だと知ったわけで。


「感動してるの?」

「凄いな、人の体は」

「よく分かんないけど、あたしで感動してくれるなら」


 手入れも不要って言うか、自分で勝手にやってくれる。

 風呂に入るなり、シャワーを浴びてしまえばいいわけで。真帆の場合は濡らしたら駄目な部分もある。気を遣う必要もあるし、洗剤にしても強いものは塗装が剥げる。結構手が掛かるんだよ。

 萌香ならば手は掛からない。生きた人間ならではだ。


 ああ、こんなことを思うようになったのか。


 交際して暫くすると妹がまたしても家に来た。

 業務中にスマホにメッセージが入っていて「土曜日行くけど用事ないよね?」と。

 来るなとは言わないが、土曜日は萌香も来ることになってる。ついでに紹介しておけばいいのか。


 業務終了後、萌香と一緒に帰宅するのだが、一応確認しておくことに。


「土曜日だけどな。俺の妹が来るとか言ってる」

「妹さん、居るんだ」

「一応。こ煩くて図々しい奴だけど」


 にこにこ笑顔で「秀斗さん。ちゃんと紹介してね」だそうだ。

 ああ、まだ萌香は俺に「さん」付けするんだよな。同い年なんだから呼び捨てすればいいのに。癖なのか? それでも名前呼びにはなってる。

 妹には彼女ができたと紹介すれば、今後家に来ることも減るだろう。

 いちいち来られても邪魔だからな。


 土曜日になると午前九時に萌香が来る。

 ドアホンのモニター越しに、満面の笑みを見せてるし。迎え入れると「妹さん、来るんだよね」と。

 中に入って真帆を見つけると「おはよう。今日も借りるからね」とか言ってるし。

 そこまで気を遣わんでも。逆に恥ずかしくなってくるぞ。


 真帆は椅子に腰掛けさせていたが、ベッドルームに移動させ、ベッドに腰掛けさせておく。

 その際に移動を手伝ってくれるんだよなあ。しなくていいのに「持ってみたい」とか言って「あ、結構柔らかいんだね」とか。なんだ、感触を知りたかったのか。

 それと妹が来るということで、急遽、丸椅子をネットで買っておいた。俺が腰掛ける用だ。二つしかないからな。


 午前十時になると妹が来る。

 モニター越しに「兄さん。彼女できた?」とか言ってるし。安心しろ。今日はしっかり俺の彼女を紹介してやる。真帆じゃなくて生きた人間だからな。可愛いからって顎外すなよ。

 家に上がると立って出迎える萌香を見て「兄さん。エロ人形、じゃないよね?」と驚いてるし。

 すかさず萌香が挨拶してる。


「長峰萌香です。お兄さんと交際させてもらっています。よろしくお願いしますね」


 これにはさすがの妹も恐縮してるようだ。

 一歩引き気味だったが、姿勢を正し「い、妹の高野朱里あかりです。今後とも兄をよろしくお願いします」とか言って、珍しく緊張したようで。なかなか面白い絵面を見れたぞ。


 二人が椅子に腰掛けるが、妹はフレーバー炭酸を出してきて「これ、要らないかな」とか言ってるし。


「萌香はコーヒーと炭酸、どっちがいい?」

「えっと、秀斗さんの淹れてくれるコーヒーで」

「なんかすっかり出来上がってる」

「当然だ。前に髪の毛がとか言ってただろ」


 その髪の毛の持ち主だと説明すると。


「結局付き合ってるんじゃん」

「まあそうだな」

「でも可愛い人だね」

「当たり前だ。何より性格がいい」


 のろけるなと。つい先日までは女なんて要らねえだの、信用できないだの、好き放題抜かしてた癖にとか言うし。

 いちいち暴露するな。


「じゃあさ、違いも理解できた?」

「当然だ。あまりにも違い過ぎて驚いたけどな」

「だから言ったじゃん。所詮人形だし」


 そう言って「あ、童貞卒業できたんだ」とか。それを聞いて「あの、あたしも処女だったから」と言われ目を丸くしてるし。


「童貞と処女で良く上手く行ったね」

「都市伝説レベルの話だろ」

「すんなり入った?」

「あのなあ。お前、遠慮ねえなあ」


 にこにこしながら「お互い確認しながらだったけど、ちゃんと卒業できたから」と、話に乗る萌香だった。なんか、妹とも気が合いそうな。

 エロトーク好きかもしれん。

 テーブルを囲み三人で話をするが、妹は相変わらず彼氏無しなのか。


「できたか? 彼氏」

「今は要らないってば」

「充実した日々に欠かせないだろ」

「兄さんが言ってもねえ」


 説得力がないとか、やっとできた彼女で、童貞卒業したばかりの癖にとか。

 その程度で上から目線とか生意気だと言ってる。


「仲いいんだね」

「誰が?」

「兄さんと?」

「だって、ほのぼのしてる感じだから」


 異性とは認識できない相手だからだな。あくまで妹は妹。家族だから、そこに性を意識することがない。だから俺も気軽に話ができる。

 まあ実際は女なんだが、妹もまた俺を男とは認識し無いだろ。

 いや、違うのか?


「なあ。お前、俺を男と意識したり」

「するわけないじゃん。兄さんは兄さんでしか無いから」

「じゃあ裸見たり」

「見たいの? 妹の裸」


 見たくないと言うと、当たり前だとか。じゃあ俺のは、と言うと見て堪るかと。

 笑ってるよ。萌香。


「秀斗さん。良い妹さんだね」

「そうか?」

「うん。心配してくれてたんでしょ。仲が良くて羨ましいな」


 そうか。まあ妹の存在も悪くは無い。

 昼になると昼飯を食いに出て、戻ると暫し話をして妹は帰るようだ。


「親には彼女できたって言っとく。あと紹介すれば安心するよ」

「近々、暇を見て紹介しに行く」


 玄関先で見送り萌香と二人になる。


「するか?」

「うん」


 どうやら萌香が新たな嫁になりそうだ。


     ―― Finis ――


 短いですが、この話はこれで終わりとなります。

 最後までお付き合い頂いた方、評価やフォロー、応援等頂けた方には厚くお礼申し上げます。

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女に絶望した俺は大枚叩いてラブドールを嫁にしてみた 鎔ゆう @Birman

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