第二百五十九話:地下での戦い・Ⅱ
「ぬおっ!?」
「マスター、下がって! こいつ思った以上に……」
そんな目的を定めてディアルドたちであったが、いざ戦闘が開始されると思った以上の苦戦を強いられることになった。
〈解析します。――生体魔導工学技術によって作られた身体の性能せいでしょうか、反射速度や思考速度が通常の人間とは比べものにならないレベルですね〉
その原因はヤハトゥが説明したとおりのものだった。
一つ一つの動作の速度が恐ろしく早い。
ディアルドが何度も魔法の攻撃を仕掛けているのにもかかわらず、その全てを回避するか撃ち落とすなどで対処している。
(それもだいぶ余裕をもって対処している。明らかにこちらの行動を見てから対応しているな……)
魔法の手数は彼の強みの一つであったが魔方陣を展開し発動した後で反応してくるのであまり意味がない。
とんでもない反応速度だ。
(それにあの形を変える流体金属のような触手……厄介だな。攻撃に伸ばしてくるもよし、移動に使うのもよし。先端は刃になったり、ものを掴むようにハンドアームにもなる)
それらが複数、伸縮自在にこちらを狙って襲いかかってくるのだからかなり面倒だ。
〈警告します。――
「ふむ、チェーンソーのようなものか。そういえばここに入る前の大型の魔導兵器、破壊断面が鋭利ななにかで切り裂かれていたような箇所があった」
〈恐らくはあの刃によるものでしょう〉
「なるほど……」
強靱な装甲を持っていたであろう魔導兵器も切り刻んでいるのなら下手に受けるのは悪手だろう、回避に専念した方が安全だ。
そう判断をしつつ、ディアルドはギースを抱える腕に力を込めた。
「というわけだ。動き回る羽目になるから頑張って耐えるように」
「なんで私は抱えられて……」
「それはもちろん、貴様が足手まといだからだ!」
「事実だけど言い方! くそっ、別に私だって戦えないわけじゃ……」
「しかし、お前の主武器の
「うっ」
そう彼女は現状、お荷物状態だった。
彼女はメインウェポンである
「せめて剣の一つぐらい使えるなら別だが……」
「私は魔工師なんだから仕方ないだろう?!」
とはいえ、多少の剣の心得があったところで役に立っていたかは微妙なところだ。
ディアルドの見たところ、一般的な騎士程度何人居ようと関係ないほどに相手は強い。
そもそも軍が動いてもたどり着けなかった地下第十層まで来ている時点で
「まあ、魔導兵器に対する特攻ともいえる能力があったというのも大きいのであろうが……それを考慮に入れても厄介だ。――うむ、ちょっと早すぎるな」
牽制のために炎の矢を三つほど放つがまるで虫を払うかのようにあっさりとたたき落とされた。
鞭のようにしなり、高速で動く触手の一振りは正確かつ十分な威力をもって迎撃を行いディアルドの魔法攻撃をものともしない。
「やれやれ、地下であることを考えるとあまり高威力の魔法を使うこともできん。となるとどうするべきか……ファル」
「うーん、もうちょっと待って――ね、っと!」
一瞬、
並の相手では反応すら許さない神速の一閃だったが、敵はそれに当然のように反応し回避したかと思いきや触手を変幻自在に操り反撃する。
「っち、ファルを相手にできる反応速度か。これではいかに俺様が天才といえど近づかれては反応ができんな」
「いや、ちょっ……早っ!? えっ、なにあの子……これまでの道中でも随分強い子だとは思っていたけど」
ギースは多少本気を出したファーヴニルゥの動きに驚いていた。
目で動きが追えない速度で動いているのだからそうもなるだろう。
「ふーはっはっは! 俺様の美しき剣だからな! まだまだあの程度、底を見せているわけではないが」
「あれでか!?」
「あれで、だ。まだ気を遣って戦っているからな」
まだ性能の半分も行使していないファーヴニルゥの存在がディアルドにとっては頼もしい。
最悪、なんかあっても階層をぶち抜いてヘノッグスの迷宮を脱出できるという目算があるからこその遺跡探検――彼には余裕があった。
「気を遣って? えっと捕まえるからできるだけ綺麗な状態で……みたいな?」
「まあ、それもあるが」
ファーヴニルゥが
それは
(いくら魔導兵器に対する特攻とはいえ、ファーヴニルゥが支配下に置かれると言うことはないと思うが万が一ということがあるからな……)
仮に全てを支配下に置かれなくても一部の力の制御を奪われて暴走でもさせられたら、普通に遺跡ごと吹き飛ぶぐらいはあり得る。
そのため、ファーヴニルゥは
(
強引な攻めをせず、消極的な立ち回りをしているのもあってどうしたって手間取ってしまっている。
ディアルドが隙を作ろうと何度となく魔法の攻撃を仕掛けているがあまり意味をなしていないのが現状だ。
「ヤハトゥ、そろそろ分析はいいか?」
〈回答します。――この遺跡の中では解析系の魔法の行使が阻害されるので手間がかかりましたが
「よろしい聞こうではないか」
彼はヤハトゥの言葉に耳を傾けた。
〈恐らくは浸食汚染式の魔法術式を応用した魔導兵器と思われます〉
「浸食汚染式?」
〈
「なるほど使用権限の剥奪か」
〈はい、その術式に特定の誰かの使用権限があった場合は剥奪し塗り替える。そもそも使用権限のないものの場合もそのまま上塗りする形で支配下に置くと言う形です〉
「ということは別に対術式特攻というわけではないんだな? 術式なら何でも支配下におけるというわけではなく」
〈肯定します。――術者が直接発動する形式の魔法攻撃や魔法防護に関してはなんの効力も発揮しません。まあ、単純な攻撃力で破壊される分にはどうしようもありませんが〉
その言葉を聞き、次にディアルドは腕に抱えていたギースへと尋ねた。
彼女は抱えられながら動き回られたためぐったりしている。
「
「違う……正確にはあれも一部だけど、本体と呼べるのは
「あの動いている触手のようなものは?」
「あれは
「術者の思念、か」
彼女の説明を聞き、ディアルドは
「なさそうに見えるのだが……いいのか?」
「そんなこと私に言われても」
ディアルドの強欲 くずもち @kuzumochi-3224
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