第二百五十八話:地下での戦い・Ⅰ
それに反応できたのはファーヴニルゥだけだった。
「マスター下がって!」
「っ!?」
ファーヴニルゥの声を聞くと同時にディアルドは近くに居たギースを掴むと同時にしゃがみ込んだ。
「ふぎゅっ!?」
それと同時に魔方陣を展開する。
「――≪
発動するのは黒紫色の盾型の防護魔法。
それに身を隠すようにして伏せたディアルドとギースの上を黒い閃光の奔流がなぎ払うように通った。
「なんだなんだ?!」
「ヤハトゥ」
〈解答します。――攻性魔力砲撃です、我が主〉
「うむ、まあそれぐらいはわかるがな。俺様として問いたいのは……あれがなのかと言うことだ」
そうヤハトゥに言い返した彼の視線の先には一つの人影があった。
「なんでこんな場所に子供が……」
それは子供だった。
女か男かはわからないがとにかくファーヴニルゥと同じくらいの背丈の子供、こんな危険な遺跡の地下にいるはずもない存在だ。
更に言えばその姿形も異様だった。
生身の身体を覆うように金属製のなにかがその子供を覆っていた。
まるでそれは機械のようだとディアルドは思った。
彼の知識で近いものをあげるとするなら空想の創作にできてた液体金属に近く、それらが蠢くようにしてその子供の衣服に――あるいは鎧となり、そしてまるで手足の延長線のように複数の機械的な触手と浮かんでいる。
「一つ聞いていいかギース? 恐らく俺様と同じことを察しているとは思うのだが」
「……あー、いいぜ?」
「
単純に強い兵器、というだけなら未知数の地下の戦力があるヘノッグスの迷宮にそこまで自信を持てないはずだ。
なにせ、まだ到達していない階層の魔導兵器がどんなものなのかわからないのだから。
それでも自信を持っていたということはそれなりの根拠があったはずなのだ。
「私も詳しいことまでは知らない。でも、
「……なるほど?」
ディアルドはまるで機械仕掛けの寄生生物のようなものに操られているような状態の子供の方を見て頷いた。
「魔導兵器への特攻能力のようなものか。恐らくは術式に干渉して制御下におくような仕組みになっているのだろう」
〈肯定します。――魔導兵器のクラッキングはそれほど難しくありません。術者が発動するものと違い、とても正確なため解析できてしまえばそれに対応すればいいだけなのでむしろ簡単です。専用の対策術式を忘れずに〉
「気をつけないとな……。まあ、たしかにそんな能力があれば自信を持つか。どれだけ強い魔導兵器が出てきても勝ち目があると。で、こんな風になったわけだが……」
「聞きたいんだけどさ、生体魔導工学兵器ってことは使用者が居たんだよね。それがあの子だったり?」
「いや、違うんじゃないかな。そもそも生きてるわけない昔のことだし、たしか生体パーツは奴隷として買い上げた獣人の奴隷だったはず」
「さらっと闇が出てくるな……。まあ、今は置いておくが。しかし、元気に動いているな滅茶苦茶威嚇してくるぞ? おい、誰だどうせ停止しているだろうとか言ってたの」
「いや、だって生体魔導工学兵器である以上、生体パーツの限界が稼働限界なわけで……そもそも生体魔力がないと」
停止するはずだった。
過去、ここでなにが起こったかはわからないがギースの言ったとおり限界は来たはずだ。
生体パーツからの魔力の供給で稼働し動く以上、限界は必ずおとずれる。
施術した存在にしか
「だが、例外として――だ。仮に……だぞ? 人と同じ……いや、それ以上の性能を持ちながら、魔導兵器としての側面を持つ肉体があったとしたら。当然のようにその肉体も魔力の生成を稼働に問題ない程度にできたとしたら」
「……いやいや、そんなわけ」
ディアルドの言葉にギースは思わずそう呟き周囲を見渡した。
そこに並んだ人型の肉体や部位の一部などを視界に入れ現実が信じられないかのように頭を振り、そして改めて攻撃を仕掛けてきた子供の方へと目を向けた。
「……どことなく顔の造形とか雰囲気とか似ているな」
「まあ、少なくとも獣人でないことはたしかだな」
彼の言葉にがくりっと肩を落とし彼女は現実を受け入れたようだった。
「そんなのあり?」
「ふーはっはっは! 現実に起きているのだから受け入れるしかないだろう」
「それはそうかもしれないけどさ」
ギースの気持ちもわからないではない。
とっくの昔に機能を停止していたと思っていた存在がそれにとって都合のいい素体を見つけた結果、未だに稼働していたなどと普通は予想もつかないし簡単には納得できないだろう。
とはいえ。
「あれはたしかに……
「ふむ、やはりそうか。まあ、仮にあれが
ディアルドはそう言い切るとファーヴニルゥとヤハトゥへと命令を飛ばした。
「二人ともわかっているな」
「捕獲準備だね! わかっているとも!」
〈肯定します。――サンプルとしてはこれ以上のものもないでしょう。解析してヤハトゥの成長の助けにしましょう〉
明らかに攻撃的な雰囲気を放っている敵と相対しながらファーヴニルゥとヤハトゥはそう答えた。
敵対存在の排除ではなく、回収を目的としているあたり、彼女たちはディアルドの言いたいことをよく理解しているようだ。
「やる気満々……!? というか捕まえる気なのか!?」
満足げに頷く彼とは違い、ギースはそう叫んだがディアルドはこともなげに答える。
「いや、だって欲しいだろう!?
「それはとても欲しいけどさ!」
「よし、ならばゲットだな! なに、どうせどっちも所有者はもういないのだから俺様たちが手に入れても問題ない! どうせ地下深くで誰かに見られる恐れもないしな!」
「僕の方が強くて優秀ってことを見せつけてからマスターにあげてやるんだ」
〈さあ、ヤハトゥの糧になるのです〉
欲望をむき出しにしながらそう叫ぶ三人を見ながら、ギースはやっぱりこいつら手慣れた盗掘者だなと改めて思った。
当然のように手に入れて自分のものにすることに躊躇いがなさ過ぎる。
というか彼らの中では既に決定事項のように見受けられた。
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