玉水

 帝の側に侍るのは、かつて紅葉合わせにより都中から褒めそやされた皇后、傾国の微笑みを浮かべる面影にどこか儚げさを感じさせるが、それすらもえも言われぬ魅力を醸し出していた。

 周囲が如何に華やかにしても、その顔に差している影が晴れることはなかった。

 ただあるときから、その影が晴れ、周囲の飾りや四季折々の花々が自信をなくすほどの笑みを浮かべるようになった。それは女中同士で些細な諍いが起きた際も、姫君の微笑みで双方の心が穏やかとなるものであった。


 その姫君の膝元には狐色をした丸くなっているものがあった。

 姫君がささやくとそれに応じた行動をとり非常に可愛がられていた。共に食事を取り、同じ部屋で眠りに就く。狐が怖がるため、庭にいた犬は別の場所へ移動させられていた。

 その狐はいつの間にか姫君が膝元で撫でていた。周囲は追い払おうとするも姫君が離すことはなく、日ごとに喜色を浮かべるようになったためそのようなことをする者はいなくなった。

 首には鏡に結わえられていた藤色の房が巻かれ、『鳥羽』と名付けられ、従五位が与えられた。

 それから生命の息吹が感じられる4年後の啓蟄、従五位鳥羽は寝床に入ったまま起きることはなかった。











 玉水は獣ではあったが、その本性は優しきものであった。

 哀れなものたちが、安らげますように。

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玉水の妖 迫水 @hibakari0

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