第98話 吸血事情

 デボラは何も言い返せずに黙り込んだままなので、今すぐ身の振り方を決める必要はないとだけ伝えておく。


「デボラ、チルはあんなことを言ってるけど、もう奴隷じゃないんだから自分の意志で決めるんだよ? 身の振り方が決まるまでは、ファミリアに滞在すればいいからね」

「……はい」


 ずっと黙り込んでいたけど、なんとか声を振り絞って『はい』とだけ伝えた。期限を設けるつもりはないので、じっくりと考えてから答えを出せばいい。


「チルは医療、ピコリは鍛冶の現場で手伝いをして欲しいから、すぐに案内するかよろしくね」

「「かしこまりました」」


 こちらの2人は奴隷から解放した時点から、私に忠誠を誓っていたので、ヤル気が漲っているようだ。パインとメドサンに紹介してもすぐに馴染んでくれるだろう。


 後は、ファミリへ着くのを待つだけだと思っていると、並列思考セレブロからデボラのことで声をかけてきた。


『ハルカ、忘れているかも知れないから伝えておくけど、デボラは吸血鬼ヴァンパイアだから〚救血〛の衝動があることを忘れないでね?』

『あはっ、完全に忘れてた。ありがとう』

『ふふっ、フォローするのが僕の役目だからね』


 あっ、完全に忘れていた。アニエラも吸血鬼ヴァンピールになるまでの間は、私の血を吸血していたことを思い出した。ファミリアで好きに過ごさせて、衝動に駆られて住民に被害が出るのは困るし、我慢を強いるのも可哀想だね。その辺りのことをデボラに確認をする。


「デボラ、普段の吸血はどうしてたの。期間が空くと〚救血〛の衝動が出るんだよね?」

「奴隷になってからは、保管された血を与えられてたから〚救血〛の衝動は出てません。里で暮らしていた時は、家畜として飼っていたヒューマンから吸血してました」


 吸血鬼ヴァンパイアの吸血事情をしっかりと教えてくれた。常に人を襲っているのかと思ってたけど、ヒューマンを家畜化してたとは思ってもいなかった。


「そっか、教えてくれてありがとう。里にいた頃の吸血は毎日だったの?」

「いいえ、3日に1回です」

「劣等種は不便ですね。我々は日光を恐れることもなく、吸血も不要ですからね」

「確かに不便だけどさ、そのことで劣等種と言うのはダメだからね。私はヒューマンの貴族達のように、誰かを見下すつもりはないんだからね」

「申し訳ありません」

「うん、気をつけてね」


 トラパーネが吸血鬼ヴァンパイアのことを劣等種と言ったことを咎めると、デボラは驚きの視線を私に向けていたのだった。

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実はスライムって最強なんだよ?初期ステータスが低すぎてレベルアップが出来ないだけ… 小桃 @tama19720728

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