第5話 列車の中で
ラダベルは、死んだ表情を浮かべていた。トパーズ色の瞳に生気はなく、纏うオーラに
ラダベルは逃亡作戦を成功させたのはいいものの、なけなしの硬貨を使い果たしてしまい、
「ぁ、あ……あ……」
開いた口から漏れ出すのは、死を目前とした人間の声だ。ラダベルは史上最高に、絶望をしていた。
昨晩、逃亡を試みたラダベルは、三日月の光に先導されるがまま走り出したと同時に、
我が国レイティーン帝国が誇る鉄道技術は急速に発展を遂げ、今では皇都を越えた先まで繋がっているという。そんな技術を駆使して作られた鉄道の速さでさえ、未だ到着しない。つまりラダベルの嫁ぎ先は、列車で皇都中心部から一晩、もしくはそれ以上の時間がかかるということ。昨晩のラディオルとの会話の中で、「辺境」という言葉が出てきた。レイティーン帝国本来の国境近くまで向かうということだろうか。さすがに隣国などを含めた傘下国までは行かないと思うが……。
(行かないわよね?)
ラダベルは急激に心配になる。一体この列車の中で何日間寝泊まりすることになるのだろうか。考えるだけで、身の毛もよだつ思いだ。
ラダベルは大きく溜息をついて、窓の分厚いガラスに頭を預けた。一枚のガラスを挟んだ向こう側、皇都の中心部から遠く離れたこの場所は、一面に広がる草原が美しい。西に沈みゆく太陽を眺めていると、ラダベルの胸はぎゅっと何かに締めつけられる。黄玉の眼が潤み、死に際の輝きを放つ太陽の光に反射して、瞬く。一滴の涙がこぼれた。
一体、どうしたらいいのだろうか。このまま嫁ぐしか道はないのだろうか。もう逃げられないことは、理解している。
「せっかく死ぬ運命から逃れられたと思ったのに、結局嫁がなきゃいけないのね……」
ラダベルは頬を
右も左も分からない土地に行って、名も顔も身分も何もかも不明な男性のもとに嫁がなくてはならないのだ。恐怖でどうにかなってしまいそう。
義母がいたとして、義母に
“万が一”、が起こったのであれば、早々に離婚してティオーレ公爵家に帰るのもひとつの手だろう。ところが、離婚して実家に帰ってしまえば、また別の嫁ぎ先へ行くよう強要されるに違いない。バツイチとなった
ラダベルは
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