第2話 勝利のステップ
婚約破棄を宣言したラダベルは、帰宅するべく皇城の広い廊下を歩いていた。心の中は、
「ティオーレ公爵令嬢」
可愛らしく甲高い声。一瞬で彼女だと分かる声色に、ラダベルの気分は見事に急降下してしまった。
胸元までのモカブラウンの巻き髪に、切り揃えられた重めの前髪。短く薄い眉毛の下、くるっと光るウルトラマリンブルーの瞳子。男性の欲望を詰め込んだ分厚い唇は、男性を
「ティオーレ公爵令嬢も第二皇子殿下に呼ばれたのですか? 実は、わたくしもですの。ふふ、なんのお話でしょうか。楽しみで楽しみでなりませんわ」
カトリーナは、レースの手袋に包まれた小さな手を頬に当て、恍惚とした微笑みを浮かべる。反対に、最高の気分をカトリーナに邪魔されたラダベルは、無表情であった。無を体現することにおいては、今この瞬間、世界一を獲得できるだろう。
「ところで、ティオーレ公爵令嬢は第二皇子殿下とどのようなお話をされたのですの? まさか、婚約破棄、とか?」
口紅を塗りたくり、一流の宝石にも負けぬ
「えぇ。たった今、婚約破棄をして参りました。チェスター伯爵令嬢、第二皇子殿下に呼ばれているのならば早く参らなくてはなりませんよ。遅刻が原因で殿下に呆れられてしまえば、笑いものにすらなりませんもの」
嫌味のこもった言葉を吐いたラダベルは、
(ラダベル・ラグナ・デ・ティオーレ。ティオーレ。やったわ! これで晴れて、死ななくて済む!)
邪魔者を
ラダベル・ラグナ・デ・ティオーレは、根っからの悪女である。レイティーン帝国一の医者にも、治療法はないと突っぱねられるほどの。とてもではないが言葉には言い表せない、様々なあくどい事件を引き起こしてきた令嬢だ。そんな彼女は、第二皇子であるアデルに恋をし、彼を想い続け、皇帝を説得して無理やり婚約者の座に居座った。貴族界では、“近年稀に見る悪女”と
実は彼女の中に住み込む
(今夜は
ひとりきりの暗い廊下。ラダベルは
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