第3話 次なる難関
無事に婚約破棄をして命の危険から脱することに成功したラダベルは、ティオーレ公爵邸の公爵の執務室に呼び出されていた。窓を叩きつける音の原因は、大量の雨粒。豊作だと喜ぶまでもなく、植物が
執務室を守護する軍人たちは、室内にいる部屋の主に確認を取り、木製の茶色の扉を開けた。
「失礼いたします」
最低限の
「来たか」
低い声色で呟いたのは、エーヴェルト・イェルリ・デ・ティオーレ。ティオーレ公爵家の当主にして、ラダベルの実父である。レッドスピネル色の髪は短いせいか、常に
エーヴェルトは、娘であるラダベルが来たというのに、一瞬足りともペンを置かない。書類に目を通し、ひたすらにサインを記していく彼は、ようやく口を開いた。
「陛下より手紙が届いた。第二皇子殿下と婚約破棄をしたそうだな」
「……はい」
ラダベルは控えめに頷く。異様な緊張からか膝が笑う。体が
既に、ラダベルとアデルが婚約破棄をしたという噂は、様々な
「あれほど第二皇子殿下との結婚を望んでいたではないか。私が納得する理由を言え」
ギロリ、と鋭い視線がラダベルに向けられる。全身の
「潮時、だと思ったのです……。これ以上、実りのない恋をしていても、私の幸せのためにはなりません。それに、第二皇子殿下もほかにいい女性を見つけたようですし、私ももうそろそろ現実を見ようかと」
(死にたくなかったから、だなんて言えない! それこそ頭が狂ってる娘だと思われてしまう!)
ラダベルは心中で全力で叫ぶ。
物語中のラダベルの結末を知っているのは、ラダベル本人である自分だけ。つまりは、自分の命を守れるのも自分だけということ。なんとしてでも、死のルートであるアデルとの婚約を破棄する必要があった。
「そうか。良いタイミングだったな」
「……え?」
ラダベルは弾かれたように顔を上げる。ティオーレ公爵はようやくペンを置く。積み上げられた紙束の山の中から、一枚の書類を引き抜き、こう言った。
「優良物件だ。嫁げ」
ラダベルの頭上に、部屋を埋め尽くすほどの量の
(ユウリョウブッケン、トツグ……)
胸中でティオーレ公爵の言葉を
(落ち着け、ラダベル。お願いだから落ち着いて!)
自身に言い聞かせ、五回ほど深呼吸を繰り返す。
「お、お待ちください、お父様。それはあまりにも、」
「ただでさえお前は
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