第7話 偶然という名の必然
東の終点の駅を出発してから数日。夕刻頃、最後の宿泊をする予定の宿に到着をした。ここ数日間で、最も高級な宿だ。高級と言っても、皇都中心部の宿と比べるとそこまで
ラダベルはウィルのエスコートを受けて、馬車から降りる。
「ありがとうございました!」
宿の店主と思わしき人物の大声と共に、宿の正面の扉から出てくるとある男が目に入る。皇都中心部の城下街より
「げ、元帥っ……!!! ティオーレ公爵令嬢がっ、ふぐっ!」
叫んだ軍人は、ほかの軍人に口を塞がれてしまう。最後まで言葉を紡ぐことは叶わなかったものの、「ティオーレ公爵令嬢」という単語だけで、アデルは反応を示した。そして、ラダベルの姿を発見する。ほかの軍人たちは、ひとりの軍人の
「元帥」
ウィルがアデルに対して、完璧な敬礼をする。レイティーン帝国軍トップであるアデルは、ウィルの上官でもある。
「……“剣王”の犬か」
ウォーターブルーの瞳子が細められる。美人が睨みを効かせると恐ろしいという話は、本当であったみたいだ。
アデルは小さく舌打ちをかましたあと、ウィルからラダベルへと視線を移す。何度か咳払いをして、喉の調子を確認する。
「ぐ、……偶然だな、ラダベル」
アデルは、せっかく喉の調子を整えたのにも
「この間ぶりですね、第二皇子殿下。ところで、なぜここに?」
「あ?……」
ラダベルの問いかけに、アデルが間抜けな声を漏らす。ほんのりと赤くなっていた美顔は、見る見るうちに戸惑った表情へと変わっていく。
「殿下は、東部の帝国民の治安を案じて、様々な場所を訪問されているので、」
「そうだ、仕事だ」
先程、失態を犯した軍人の口を塞いだ部下が説明をしている途中、アデルが食い気味に被せる。説明を邪魔された軍人は、半開きの目でアデルを凝視した。
「そうなんですね。ご苦労様です。では私はこれで失礼いたします。ウィル、行きましょう」
「はい」
ラダベルはウィルを連れ、アデルの隣を通り過ぎる。しかしアデルがそれを見逃すはずもなく――。
「待て」
心地のよい声が反響する。ラダベルは大人しく足を止めた。血が出てしまわない程度に、唇に歯を立てて、鬼もびっくりの怒りの形相を浮かべた。ふつふつと
「まだ何か?」
「お前は……これからどこに?」
「……この宿に宿泊をさせていただく予定ですが」
「そ、そうではない!」
ラダベルの返答が思ったものではなかったため、僅かに声を荒らげるアデル。照れたり怒ったり、感情が多忙な人だ。
「目的地はどこだ、と聞いている」
あぁ、そっちか。ラダベルは納得した。
レイティーン帝国
「第二皇子殿下には、関係のない話です。もう行ってもよろしいでしょうか? 長旅で疲れているのです」
「僕を無視するのか!? お、おいっ! ラダベル!」
背後から呼び止める声が聞こえるが、ラダベルは悪女らしく無視を決め込んで、宿内に入ったのだった。
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