冒険者とあこがれるもの

 グロウイーグルは丈夫で美しい羽毛を持つ。討伐の証明には羽毛と、クチバシか、爪が必要だ。レニーは羽毛と爪を採取した。

 クロウ・マグナにつけていたシャフトを延長していたらしいパーツを外し、素材と共にマジックサックにしまう。


「レニー。なんで、ここに?」


 ルミナが尋ねると、レニーは肩を上げた。


「エレノーラに実験頼まれてね」


 クロウ・マグナをくるりとひと回しし、ホルスターに入れる。そして軽く叩いた。


「魔弾の有効距離を伸ばすパーツを試してほしいって。それでまぁ、鳥系の魔物でも討伐しようかと。いや助かったよ、手間が省けた。分け前はオレが二で、ルミナが八くらいかな。ほぼルミナだし」

「……はんぶんこ。ボクも、助かった」


 ヨートゥンの子どもが逃げた先を見ながら言う。レニーの魔弾による牽制と、着地時のサポートあってこそだ。ルミナだけではもっと余裕のない戦いになっただろう。


「いやぁ、さすがにそこまでは」

「はんぶんこ、したい。ダメ?」


 ルミナがそういう形で聞くと、レニーは困ったように眉を下げた。


「得するし、いいか……あとで文句言わないでね」

「言わない」

「さて、オレは帰って依頼の報告するけどキミは?」

「ボク、用ある。だから別々」


 レニーは頷く。


「じゃ、またギルドで」


 手を振りながら、その場を後にするレニー。ルミナはその背中に小さく手を振り返した。


 しばらくしてヨートゥンの子どもを探してみたが、無事親の元にたどり着けているようだった。それだけ確認して、ルミナは戻ることにした。




○●○●




 ルミナが戻ってくるとヴェルトの両親は涙を流して喜び、感謝をした。村にいる医者にコウミョウ苔を渡し、ヴェルトの治療が始まった。

 高熱を伴った様々な症状は三日ほどで収まった。コウミョウ苔の効果だという。子どものうちであれば体やスキルツリーが成長しきれていないこともあり、微熱が続いたり、悪化して死に至るときもある。大人であれば問題ない熱も子どもでは命の危険になるのだ。

 それをどうにか回避できるコウミョウ苔はありがたい存在と言えよう。


 ルミナは回復するヴェルトを見届けたので、去る事にした。


「本当にありがとう。この恩は一生忘れないわ」


 家の外で両親が深々と頭を下げる。ルミナはこくりと頷いた。視線をふたりの後ろに向ける。

 母親に隠れるようにヴェルトがいた。


「元気になった。良かった」

「全てルミナさんのおかげだ。ほらヴェルト」


 父親がヴェルトの肩を叩く。ヴェルトは困ったように前に出た。母親が笑う。


「ヴェルトったら目が見えるようになってからルミナさんがとんでもなく美人だから照れちゃったみたい」

「お、お母さんっ!」


 からかう母親に、ヴェルトは顔を真っ赤にする。

 ルミナは座り込み、ヴェルトの頭に手を置く。


「ヴェルト」

「え、あ……その……ありがとう。おれを治してくれて」


 ルミナは静かに首を振り、微笑んだ。


「生きていればもっと素敵なもの。綺麗なもの。見れるから」


 肩を軽く叩き、立ち上がる。


「だから、がんばれ」


 ヴェルトは笑顔を浮かべると元気よく頷いた。ルミナは拳を突き出し、ヴェルトと突き合わせる。


「じゃ。元気で」


 ルミナは背を向けて歩き出す。両親は頭を再度下げ、ヴェルトは大きく手を振り続けた。


 ヴェルトの夢は冒険者だと、聞いた。


 別に、ルミナはヴェルトが冒険者にならなくても良い。そこに特段期待をしているわけでもなんでもない。でも、冒険者になって、いつか会えたら、それはそれで素敵だと、ルミナは思った。


 帰ったら何を食べようか。


 ルミナの頭はそのうち、それでいっぱいになった。

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ソロ冒険者レニー 月待 紫雲 @norm_shiun

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