第七話 試射
一週間くらい後、ユーリ達の魔導書が出来て二人に渡された。
その間、親睦を深めるためにユーリはサラと結構話していた。
彼女のお父さんは彼の母の果樹園で働いているらしい。あと、妹もいる。
そして今日の目的は魔導書に載っていた魔法を試射することだ。
載っていた魔法は:
【風吹き ∆】
手から風が吹き、風の強さは魔力に比例する。
【念動 ×】
三メートル以内で物体を動かせる、五キロまで持ち上げられる。
【光球 ∆】
希望位置に光の玉を作り、光の輝度は魔力に比例する。
【障壁 ∆】
対象を囲む膜を作り、障壁の強度は魔力に比例する。
【水召喚 ×】
希望位置に水一リットルを召喚する。
魔法名の横に記号について魔法概論には説明があった。
魔法陣には三種類があった:厳入厳出、厳出と柔形。
厳入厳出魔法陣は「×」記号で示され、魔力量の入力や魔法の出力は魔法陣によって定められる。魔法陣は勝手に魔力を吸う故、魔力の流れは操作不可で魔法の出力は変えられない。魔力量が不足していたら不発が起こる。
厳出魔法陣は「∆」記号で示され、魔法の出力は魔力量の入力に比例する。魔法各点の比例率は魔法陣によって定められる。
柔形魔法陣は「○」記号で示される。理論的に可能もののこの種類はあまり見られない、というか存在しないと思われる。賢者は唯一それを実現できた。柔形魔法陣では使用者は自由に魔法陣の出力や入力をコントロールできる。希望出力に魔力量の入力が不足していたら不発が起こり、過剰でしたら余分は消滅される。
魔法才試験の際にユーリは魔力の流れをコントロール出來なかった理由はあの魔法陣は厳入厳出だった故、魔力の流れを操作は不可だった。
柔形はほぼ存在しないのでユーリの魔導書に載っている魔法は全部厳入厳出か厳出。彼の本音だとちょっと地味だったが最初はこんなもんかと割り切った。
その後魔導書の内容を確かめて直ぐにサラを連れてぴょんぴょんとスキップしながら外で魔法を試しに行った。
彼のテンションは最高潮だった。
屋敷の裏に広い訓練場はあったがそこはいつも兵士たちに満ちていたし、もっとプライベートな場所が欲しかったから二人はそこを通り過ぎて城壁隅まで行った。それでもまだちょっと開けすぎた場所だが彼は取り敢えず良しとすることにした。
そしてサラに向かって満面の笑顔で宣言した。
「始めましょう!載っている魔法はどっちも同じだから一緒に練習しようね」
「はい、ご主人様の意のままに」
「まあ、その前にちょっとした試し撃ち」
そしてユーリは魔導書を開けて順番に魔法を使い始めた。
先ずはサラに手を向けて撃った。
「【風吹き】」
初めてだから魔力はちょっとだけ注いだ。
そして手からそよそよと風が吹き、サラの髪をそっと撫でた。
「おおぉ、出来た!でもまあ、これだと【微風吹き】と呼んだ方が良いけどな。。。」
「ご主人様、何をなさっているのですか?!人に向けて魔法の試し打ちだなんて危ないです!」
「えっ?あぁいや今回はただの風だったから大丈夫よ、それに魔力量はちょっとだけだったし」
「それでもです!なにか事故があったらどうするつもりでした?!」
ユーリは彼女に試し撃ちした事に対する怒りを見て悪い事をしたと反省した。
「そうあね、そんな事をしてはいけなかった。すみません」
勿論、心から謝るしかなかった。
彼が後悔しているのを見て、サラは言い過ぎたとちょっと慌てた、見えるように血の気が引いてた。
「あっ、いやっ、大丈夫です、言い過ぎでした、申し訳ありません!」
「いやいや、大丈夫、大丈夫。じゃあ、気を取り直して続こう」
ユーリも彼女を咎める気はなかったので次の魔法、【念動】に進んだ。
標的を探しに辺りを見回した。
「ん〜〜、何に使ったらいいんだけど?」
周辺に使える物はなかったからコートに彼は使う事にした。コートを脱いで芝生に敷き、指差して唱えた。
「【念動】」
糸に吊り上げられたようにコートが浮き上がった。そこまでは良かったが、自分の元に運んでみたら操作に凄く苦労した。最終的になんとか出来たものの、練習が要るのは明らかだった。
「ん〜、制御が難しいだな」
「はい、コートを棒で拾おうとしていたように見えました」
「まさにそんな感じだった。これは練習が必要だな、まあとにかく、次に行こう」
「【光球】」
何時も通り、初回は最小限の魔力を注いで唱えた、しかしなにも起こらなかった。
「何も起こりませんでしたね」
「おかしいな、魔法が発動したような感じだったけど。もしかして出力が低すぎたのかもね」
そして魔力の注ぐ量を上げてみて、徐々に目の前で一つの光の玉が見えるようになった。
「おぉ、あった、あった。そうか、日光が強すぎて光球が見えなっかたか」
「このように魔法の発動が見えない場合もございますね」
「ああ。良い情報が掴めた。魔法の発動は少し時間がかかるが、出力を変えるのは一瞬だし」
「はい、次!」
「【障壁】」
「ん〜〜、また何もないな」
「私もなにも見えません」
「では出力を上げてみよう」
そしてユーリは注ぐ魔力量を上げてみたがまだ変化が見えなかった。
「まだ何もないか。。。サラ、僕を小突いてみて」
「。。。小突いて、ですか」
「ええ、指で小突いてみて」
「畏まりました。。。」
そして彼女は言われたように小突こうとしたができなかった、見えない膜に数センチ前で止められていた。
「やっぱり。って事は見えないな。。。なんか強いと同時に不都合だね」
「えっ?強いと同時に不都合ですか。何故でしょうか」
「まあ、【障壁】に守られているのが見えないのは強い。けど魔法の説明を見る限り、他人にもこれが使えるが膜が見えない故、対象がちゃんと守られているかも確認できないのは不都合だな。それは【障壁】が壊れるとどうなるかにもよるけど。。。
「ご主人様は魔法を使うのは初めてなのにもう色々と考えていらっしゃるのですね。。。」
それにユーリは曖昧な笑みしか返せなかった、彼にとっては初めてじゃなかったし。
「まあ、それに関して調べるのは後にして、最後のに行こう」
「【水召喚】」
ユーリが魔法を唱えると水一リットルが目の前に現れて地面に落ちた。
濡れた地を複雑な心境で見ながら彼は言った、
「地味すぎる。。。」
「いえいえいえ、ご主人様!無から水を創れるなんて凄いです!井戸から水を運ぶのは大変ですよ?それが必要ではなくなるのは素晴らしいです」
「ん?あぁ、確かにある程度の労働は省けるけど良い事ばかりじゃないよ」
「どういうことでしょうか」
「知らないかもしれないが、この水はその内魔力に消散する。魔力で作られた物は大体時間を経て魔力に戻る。だからこの場合は場凌ぎとしては使えるけどこの水は実際飲むには適していない」
「えっ?そうなんですか」
サラはガッカリと肩を落とした。
「まあそれはそれで使い道はあるから悪い事ばかりでもない」
「消える水にどのような使い道があると言うのですか」
「例えばなにかを洗うに使うならいつか水が消散するから拭く必要はない」
「あっ!確かにそれは便利ですね」
(あと、風呂にも良いな。。。ハハハ!いつでもどこでも良い風呂を作れるとか、まさにファンタジーだな!現実だけど!)
(。。。自分で自分に突っ込みを入れるとか。。。それが俺はボッチの証拠なのか?。。。ないだと思いたい)
「まあ大体どの魔法にどんな効果があるかもう確かめたし、そろそろ練習や面白い使い方の探りに移ろうか!これから楽しくなるぜ!」
サラに向かって笑顔でユーリはそう宣言した。
そしてそれにて、ユーリは魔導書の魔法の試射を行った訳です。
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お読みくださりありがとうございます。
小説を書くのは初めてなので訂正や感想などコメント欄でお願いします。
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