あとがき

※ネタバレが含まれます。ご注意ください。

 みなさま、こんにちは。

 九日と申します。


 まずは長々とここまで読んでくださった方々には、これ以上ない感謝をお伝えいたします。


 普段の作品ではあとがきなどは残さないのですが、この作品は4部作ということもあり、個人的にも特別なものです。

 なので、この度あとがきを残させていただきました。(短編作品以来です)


 さて、『ガラスの魔女は復活できない。』シリーズ、如何でしたでしょうか。

 良い意見もしっくりこないという意見もあるかと思いますが、そこはそれ。人の好みということにします。だってこれは、ただ自分の『好き』を詰め込んだものなんですから。



◇シリーズ連載の裏話◇



 きっかけは、とても些細なものでした。


 ある晴れた日の昼に、三ツ矢サイダーを買って、ベンチで飲んだことがありました。ちょうど春で、世間は新たな門出の空気で満たされていました。反して、自分は希望とか、夢とか、そういう前向きな感情なんかがなく、コンビニで何となく買ったアメリカンドッグを、何となく食べ終えた、平凡な日でした。


 ペットボトルに施されたダイヤカットのでこぼこが目についたんです。

 どちらかといえば憂鬱な毎日で、僕の楽しみといえば小説を書くことで、自分の好きを詰め込むことでした。

 ちょっとまえにひと作品が完結して、次に書くとしたらどんな作品が良いかな、と思案しているところでしたので、サイダーのペットボトルは印象に残りました。

 また別の日、本屋に立ち寄ったときのこと。ふと、ガラスペンのカタログが目に留まりました。表紙にオレンジ色の煌びやかなペンが載っていて、すこしだけ覗いてみたんです。紹介されるペンの中から、紺色の、薄暗く、けれど不思議と目を奪われるペンを見つけたとき、イメージが固まりました。


 左手に炭酸。

 持ち上げた右手にはガラスペン。

 夜を想起させる黒い装いと、魔女帽子。

 黒を薄めた髪をなびかせる背中。

 現実と幻想を混ぜ込んだみたいな、現代の魔法使い。

 性格はガラスの透明感に似て真っ直ぐ。でも、ひび割れるように悲痛な運命も背負ってる。


 彼女が歩む人生は、どんなものだろう。

 並び立つ誰かは、どんな風にズレているのだろう。

 気づけば、自分は憂鬱な毎日を重ねながらも、魔女のことを考えていました。色味のない現実において、想像の彼女だけが色付いた存在になっていました。自然と、『三上春間』のイメージも出来ていきました。

 屋上で炭酸を煽り飲む、現実に生きる魔女。

 彼女に引き寄せられて、一緒に片足を踏み外してしまった主人公。

 普通とは一線を画する、特別な関係性。

 特別ゆえに、ガラスが如く脆い存在。

 

 頭のなかで。

 二人を巡り、人智を越える奇跡と現実のコントラストが、彩られていったのです。



◇テーマについて◇



 この作品は、『特別』を選ぶ物語です。


 作中では、魔法をこう評しています。『綺麗で残酷』と。

 人の域を超えてしまったモノ。それを扱うのなら、当然リスクが伴う。

 現実と同じです。

 魔女の寿命しかり、命の総数マイナス一しかり、失って取り戻す人生しかり。

 そこには苦しみもあれば喜びもある。美しさと残酷さというのは紙一重で、気を抜けば転落するし、気づけばトンネルを抜けていることだってある。作中では魔法の在り方と同じで、つまりはマイナスとプラスがセット、という考え方です。


 『ガラスの魔女』として生きるのは、とても力強い生き方です。目を奪われる。でも、彼女自身のあって然るべき時間を奪ったのは、魔法そのものでした。三上春間と過ごす隙間のような短時間だけが、彼女をありきたりな人間に戻したのです。


 だから、魔法使いは苦悩しながら、『ガラスの魔女』をやめたのです。

 ただ「魔法使い」を名乗るだけのヒトにもどろうとした。三上春間と自分、どちらかだけではなく、どちらもが生き残る未来を求めて、かたよった結論を否定した。打ち明けたい感情も全部押し込めて、漏れ出てしまった本心も全て隠して、ある種の『完成』された自分を、否定したのです。

 自分の死も、彼の死も越えることを目指して。


 三上春間という男は、そうまでさせる存在でした。

 誰に褒められるでもない、化け物じみた異能。それを自覚しながら、行き止まりの人生を辿る彼女を、三上春間だけは人としてみる。

 そりゃあ、手を伸ばしたくなります。

 欲しくもなります。

 眩しすぎる特別よりも、ありふれた特別を求めて、あらゆる過程に泣き叫びながら跳ね除けて、その果てに――魔法使いは、心から微笑むことができたのです。


 そのひたむきさを、透明な神すら蹴飛ばす強さを、僕は描きたかった。



◇親愛なる読者の皆様へ◇



 自分は、この先も小説を書きます。

 新作も連載するでしょう。それがこの『ガラスの魔女は復活できない。』以上の自信作となるかはわかりません。

 でも、きっとまた魔法使いを思い出します。炭酸を口にして、あるいは空を眺めて、息が詰まるような現実を鼻で笑い飛ばしながら、生きようとします。


 いつか、魔法使いみたいな誰かが、暗い現実を割ってくれるかもしれない。

 あるいは、自分が誰かの灰色に色彩を付け足す、ありふれた「特別」になるかもしれない。

 だから、泥に塗れても、不器用でも、生きようとします。



 一分?

 一秒?

 この作品を読んだ方々が、一瞬でもそういう気分に浸れたのなら、この作品は本懐を遂げています。



◇◇◇





 ということで、長々と読んでくださりありがとうございます。

 本当は魔女の裏設定とか色々紹介できれば良かったのですが、それは蛇足というもの。そこら辺はご想像にお任せします。


 人生は綺麗に色づくこともあれば、残酷な仕打ちをすることもあります。

 疲れてしまったら、サイダーを買って、ベンチの上でボトルを傾けてみてください。飲み慣れていても、案外 美味うまいですよ。

 それと。この世界観に浸りたくなったなら、遠慮無くいらしてください。

 何度でも、魔法使いはこの作品でお待ちしております。


 では、また会いましょう。




 この作品が、読者の貴重な時間を彩ることを願っています。

                       〈九日晴一〉

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ガラスの魔女は復活できない。Ⅳ 九日晴一 @Kokonoka_hrkz

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