第11話 『SAVE THE CATの法則』式、主人公と配役【最終回】

 「どんな映画なの?」というコンセプトと、

 「誰が出ているの?」という配役は、

 映画の出発地点であり、誰もが最初に聞くふたつの質問です。


 「どんな映画」と「誰」とが絶妙に組み合わされれば、誰だって必ず観てみたいと思う作品になるものだと、ブレイク・スナイダー氏ぱ『SAVE THE CATの法則』で述べています。





配役は考えない『SAVE THE CATの法則』

 『SAVE THE CATの法則』において、主人公の配役を考えてそれにピッタリ合うキャラクター像にすることを戒めています。

 もし脚本が映画候補になって配役を考えたとき、主人公を演じられる人物がその人だけまたはそれに似たような雰囲気の人だけということがよくあるそうです。その人にオーダーして失敗したら、脚本が映画化されないことがあります。

 だから「配役」から主人公を導き出してはならないと述べています。

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▼脚本が売れる前から、配役を考えるな。

▼特定の俳優を頭に描いて、登場人物を作るな。

▼この主人公にはこの役者しかしない! なんて決めつけるな──必ずがっかりするから。

 夢に描いた役者がそのとおりに配役されるなんて、現実にはまずない。

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 とあります。





Web小説では配役したほうが断然いい

 ただし、それは映画脚本の話です。実在する人物が演技するのだから要求はシビアになります。

 では小説はどうでしょうか。


 小説もドラマや映画になることを考えれば、「配役を考えないほうがいい」わけです。

 しかしWeb小説でメディア展開がマンガやアニメになることを考えれば、「配役を考えながら主人公をデザイン」したほうが捗るしキャラもブレません。


 そもそもマンガは誰かが演技するわけではありませんしね。

 アニメには声優さんが必要ですが、今は飽和状態で同じ役を演じられる新人が山のように控えています。たとえ本命が駄目でも、似た人はいくらでもいる業界なのです。

 だから最終目標が「ドラマや実写映画」であれば「配役を考えずにデザイン」するべきです。最終目標が「マンガやアニメ」であれば「配役を考えてデザイン」するとかなり楽ができます。

 ただ、あまりにも演ずる俳優さんや参考にしたキャラクターを意識しすぎると語り忘れることもあるので、きちんと人物を描写するのを忘れないでください。





共感できて応援したくなる主人公

 『SAVE THE CATの法則』では、どんな物語でも主人公は、

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▼共感できる人物

▼学ぶことのある人物

▼応援したくなる人物

▼最後に勝つ価値のある人物

▼原始的でシンプルな動機があり、その動機に納得がいく人物

 という単純なルールに従えばまず間違いはない。どんな題材・歴史的背景を扱うにしても、どんな要求を突きつけられても、ストーリーの核心部をはっきりと見つめれば、おのずと主人公はできあがるはずだ。

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 とあります。


 こうやって物語にぴったりの主人公が見つかり、原始的な動機も揃った。

 ではログラインにそれを付け加えましょう。ログラインとはストーリーの基本ルールであり、ストーリーのDNAです。だから常に正しくなければなりません。

 完璧なログラインはアイデアの特徴が凝縮されており、脚本を正しい方向へと導いてくれます。

 つまりログラインは、脚本家にとっても観客にとっても基準になるものなのです。

 ログラインに忠実に従えば、最高のストーリーを生み出せる。どうしても外れるときには、それなりの正当な理由がなければなりません。

 「誰についての(どんな主人公の)映画なのか?」を外さなければ、途中で道を間違えることもないのです。

 構想から最後のフェードアウトに至るまで、ログラインは途中の計算ミスをダブルチェックするためのたいせつな道具なのです。





SAVE THE CAT!

 好感の持てる主人公であれば、観客は共感し応援したくなります。

 では主人公があまり素行の良くない場合はどうしましょうか。

 「悪い奴」が主人公でも、観客に好感を与えられれば共感し応援したくなります。

 ではどうするのか。


 それが書名にもなっている「SAVE THE CAT!(猫を救え!)」のテクニックです。

 どんなに悪ぶっていても、窮地に陥った猫を助けるシーンを見せられれば、観客は悪い主人公にも好感を覚え、共感し応援したくなります。

 しかしこれはコテコテの展開であり、どんな作品にも取り入れられるような普遍的なシーンではないのです。


 どのようにすれば応用が利くでしょうか。

 悪い主人公に好感を持てるようにするのです。その一例が「SAVE THE CAT!」なだけですからね。


 たとえば主人公は人を殺しますが、コミカルなキャラクターでなかなか憎めない。マンガでいえば北条司氏『CITY HUNTER』の主人公・冴羽リョウです。

 社会のクズを排除する「スイーパー」ですが美女に弱くすぐもっこりする。ひじょうに憎めないキャラクターです。そんなリョウが倒すのはあくまでも悪人であり仕事として請け負い、憎めなさと非情さを同居させた「悪いけれどカッコいい主人公」です。


 たとえば主人公が悪い奴でも、それを上まわるほどの悪い奴が存在すると観客に示します。より悪い奴を打ち負かす物語。巨悪を倒す、悪い主人公の物語。比較対象で「よりまし」であれば、悪人でも「共感し応援したくなる」主人公になりえます。こちらはマンガでいえばさいとう・たかを氏『ゴルゴ13』の主人公・デューク東郷です。

 冷徹な「スナイパー」ですが、彼が狙うのはそれを遥かに上まわる巨悪です。


 自分が好きなキャラクターだから、観客もきっと好きになる。今こそそんな幻想から解放されましょう。

 観客がキャラクターを好きになるように工夫するのです。





変身についての物語を語れ

 我々が語る話は、主人公の人生を決定的に変えてしまうものなので、二度と同じように世界を見ることはできなくなります。変化というのはただ仰天するだけでなく、つらいものなのです。


 すべての物語は「毛虫と蝶」の関係にあります。

 木の枝に棲む毛虫として出発。葉っぱを食べて日常を過ごし、仲間に挨拶し、この生活になにかが決定的に欠けていることにはほとんど気づいていません。

 そしてある日、彼は妙な感覚に襲われて、すごく怖い思いをします。果てしなく落ちていくように感じられるのです。

 そんなさなか、なんだか奇妙なことが起きます。それは……静止した状態つまり死でありまゆの段階です。毛虫はさなぎになり、静止する。

 しかし、永遠に終わらないと思えたとき、闇の中でなにかが動き出すのです。

 主人公は光を見て、牢獄の弱点を突き抜けて日差しへと、自由へと進みます。

 そしてそこに現れるのは、すべてが始まったとき、彼が夢にも思わなかったもの、なにか驚くべきものです。


 物語とはすべてそういうものなのです。 





最後に

 今回で『あなたはもっと読まれていい。PVの高め方教えます』の連載を終了致します。

 後半は『SAVE THE CATの法則』から、継続的なPVの維持に関係しそうな部分だけを本創作論では取り上げました。

 そしていよいよ『SAVE THE CATの法則』の10のジャンルと15のビート「ブレイク・スナイダー・ビート・シート(BS2)」をより多角的に読み解くための挑戦が始まります。

 『SAVE THE CATの法則』の副読本のようなものが出来ればいいのですが、どこまで真実に迫れるか。

 皆様もぜひブレイク・スナイダー氏『SAVE THE CATの法則』フィルムアート社(税別2200円)を購入して予習してみましょう!

 物語の構成を万全にするため、飛躍を遂げるために勉強してまいります。




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あなたはもっと読まれていい。PVの高め方教えます カイ.智水 @sstmix

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