第10話 『SAVE THE CATの法則』式、紹介文での表現
あるジャンルで、どうしたいと願うどんな主人公と、どんな対になる存在が、どんなことを通じて、どうなる物語なのか。結果的になにを得るのか失うのか。
小説の基礎構造はすべてこのテンプレートに従います。
主人公を適切に表現する形容詞
ストーリーを伝えるとき、受け手は主人公に惹きつけられます。映画だろうとCMだろうと、主人公に自分を投影して共感します。
つまり読者を物語に引っ張り込むための「魅力的な」主人公を読み手に見せなければなりません。それが紹介文の役割だからです。
「共感できない」「魅力もない」主人公の物語を読もうとする人はまずいません。
いかに共感させられるか。魅力的に見せられるか。
紹介文でそれを操るのが「適切な形容詞」です。
紹介文では、物語の主人公をいかに適切に表現するか腐心してください。
「射撃とあやとりは天才的だが学校の成績はすこぶる悪く昼寝が大好きでお調子者の小学生」
どんな人物かわかりますよね。
紹介文における主人公の描写では、適切に表現するための形容詞が不可欠です。
小説では「人物を描く」とき、エピソードで見せなさい、と言われます。
語る(説明する)のではなく、見せろ、と。
しかし、紹介文の段階でエピソードにして見せていたら、何千字あっても足りません。
「紹介文」ではエピソードを適切な形容詞に置き換える作業が必要になります。
あるエピソードで主人公をどう見せたかったのか。その根本に立ち返るのです。
ただ、あまりにも多すぎる形容詞は、本文を読まなくても読んだ気にさせてしまいます。上記した小学生について、かなりの部分わかってしまいますよね。
やはり小説の基本は「語るのではなく、見せろ」ということにあるのです。
主人公にふさわしいのは、設定された状況の中で、
▼「読者にいちばん近く」て
▼「楽しんでもらえる客層の幅がいちばん広い」そして
▼「いちばん大きな変化をいちばん時間をかけて」し
▼「最大の教訓を得る」
▼「大きな悪い問題を知らずに抱えており」
▼「いちばん変わることを嫌がっている」のだが
▼「変わらなくてはならない必然性がいちばんある」つまり
▼「いちばん葛藤する」人物です。
『SAVE THE CATの法則』では主人公とするのに適しているのは、夫・妻、父・娘、母・息子、元彼氏・元彼女とされています。
なぜなら観客の人生にも必ず存在する人たちだからです。
父親が主人公なら誰だって自分の父親と重ねます。
彼女が主人公なら自分の彼女を思い出します。
身近に同じ存在がいるから、自然と興味を持ち、注目して反応してしまうのです。
だから主人公を誰にしようか悩んでいるなら、まず自分のいちばん身近な存在にしてみましょう。
ハイ・コンセプトか中年男性狙い撃ちか
ただ、主人公を作者と同年代にしてしまうと、読み手が狭まってしまう恐れがあります。高校生ならまだしも、四十代・五十代の平凡な主人公の話など誰が読みたがるでしょうか。
Web小説やライトノベルを読むのは今では「中年男性」が最多です。だから四十代・五十代が主人公でも読まれなくはない。「中年男性」だけを読み手と想定すると、中高生から支持されるのは難しいのです。
あなたが「中年男性」なら、あなたが好みそうな主人公は他の「中年男性」に好まれると思い込んでしまいます。
物語が成功するには、より広い読み手層を確保できる主人公であることが望ましい。
十代後半のかわいい侍女が主人公なら、メインターゲットはもちろん十代後半の女性ですが、同じ年代の男性や親世代の男女にもウケます。妹感覚や娘感覚で読めるからです。
ハリウッド映画がターゲットにしているのは若者です。
対してWeb小説やライトノベルがターゲットにしているのは中年男性です。
この絶望的に異なるターゲットにより、『SAVE THE CATの法則』のブランディングが正しく機能しない可能性もあります。
実際Web小説では、中年男性が異世界転生してある職業に就いて成り上がる、というパターンが最強に近いテンプレートとなっているのです。
ハリウッド映画でトム・ハンクス氏主演の『ビッグ』は「子どもが突如大人になって、おもちゃ会社の社員として成り上がる」物語となっています。
ものの見事にWeb小説の「異世界転生」ものの逆を行っていますよね。そして対象も中年男性ではなく若者です。逆ですよね。
誰もが楽しめる「ハイ・コンセプト」な作品を目指すなら、あらゆる世代・性別にウケる主人公が必要です。
世界で愛された『ビッグ』を目指すのか、Web小説好きだけに愛される「異世界転生」を目指すのか。
考え直せば、未来が開ける可能性もあります。
単純に「今Web小説で人気があるのが異世界転生もの。異世界転生ものだから中年男性がトラックに轢かれて……」と考えてしまうクセをなんとかしましょう。
対になる存在にも適切な形容詞を
対になる存在は物語を通じて主人公が向かい合うべき存在です。
悪役もいれば善人もいる。男性でも女性でも、幼女でも老爺でもかまいません。
恋愛対象だったりかけがえのない友人や相棒だったり、不倶戴天の敵だったり。
そんな対になる存在も主人公同様、魅力的でなければなりません。
徹底的に悪くして「絶対悪」にすることも、魅力の一部には違いない。
ですが「共感できる」部分がなければ、読み手に嫌われてしまいます。
そんな嫌われ者を一方的に叩き潰すだけの物語は、せいぜい童話止まりです。
「腕っぷしが強く高圧的でお山の大将を気取るが音痴で母ちゃんに頭が上がらない小学生」
どんな人物かわかりますよね。
有無を言わせぬ高圧さがありながらも、音痴だったり母ちゃんに頭が上がらなかったりと弱みを加えて「愛すべき」「魅力的な」対になる存在に仕上がっています。
欠点のない完璧なスーパーマンの主人公はかえって興ざめしやすいのと同様、欠点のない完璧な巨悪の対になる存在も興ざめしやすいのです。
どこかに欠点を抱えると、途端に「魅力的」に映ります。
主人公にそこを攻めさせれば、という思いつきが生まれると、そこで読み手は主人公と対になる存在の双方のキャラクターを自分の胸に思い描いてくれます。
誰でも共感する原始的な目的を表現する
主人公には物語を貫く動機が必要です。どんなものを求めているのか。
生き延びたい、飢えを癒やしたい、眠りたい、性愛行動をしたい、恋する者を自分のものにしたい、愛する者を守りたい、結婚したい、人生のパートナーを見つけたい、家庭を持ちたい、子どもを作りたい、家族を救いたい、家を守りたい、死の恐怖に打ち勝ちたい、復讐したい。などなど。
こういった根本的で原始的な欲求には万人の心をつかむ力があります。
だからこそ主人公の動機にはこうした根本的で原始的な欲求が必要なのです。
主人公の動機が決まると、物語に求められる主人公像も変化します。
たとえば相棒の妹と結婚したがっている主人公が教師ではなく特殊訓練を受けた猛者だったら。
知識人の主人公によるてんやわんやの物語が、腕ずくで奪い返しにいく武断派の物語に変わります。日常の青春ものからバトルアクションものへと変貌してしまうでしょう。
そして、主人公が変わると、正反対の対になる存在も変わってしまいます。
教師なら警察官や陸軍兵士のような武断派の対になる存在がぴったりです。
しかし特殊訓練を受けた猛者が主人公なら、もっとひ弱な人物が対になる存在となります。
最後に
紹介文では、どんな主人公なのか、どんな対になる存在なのかを「適切な形容詞」で表します。あまり長い形容詞だと中身がバレやすいので、いくつか厳選しましょう。
そして主人公が目指す「原始的な目的」について言及しましょう。
「原始的な目的」は読み手にも響くものですから、読み手を第!話へと連れていく効果が期待できます。
もちろん「原始的な目的」は実際の脚本の中でも目的になり続けます。しかし実際にそれが叶って終わることはあまりなく、たいていは別のなにかを見いだして満足することが多いのです。
「どんな主人公」「どんな対になる存在」「原始的な目的」の三つをきっちり盛り込んだ紹介文を書きましょう。
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