エピローグ
陽芽高等学校の事件は連日世間を騒がせていた。
元教諭の殺人未遂、学校理事長の助成金不正受給や賄賂。
挙句の果てに、その証拠を元に高校生数人に脅されていたという事実が明らかになり、マスコミの報道はさらに熱を帯びた。
面白がっていたのは世間だけで、陽芽高に通う生徒は連日押し掛けるマスコミに辟易していた。
しかし、どこかの有名人のスキャンダルが報道されると、事件の話題はあっという間に影を潜めた。
世の中はそんなものなんだろうと、俺はふと思った。
俺も暫くの間は普段話さないような同級生から質問攻めにあった。
保護者説明会では、学校側は関与した生徒の名前を伏せて事件の経緯を説明したそうだ。
だが、人の口に戸を立てるのは無理な話で、生徒のほとんどが当事者の名前を知っていたようだ。
ましてや、俺はひらきの影響で陽芽高ではかなりの有名人になってしまった。
俺の求める静かな高校生ライフは遠のいて行くばかりだ。
山下はリハビリを続けている。
復学するには失った筋力を取り戻す必要があるのと、軽度だが言語障害が残ったらしく治療が続いている。
最低、半年のリハビリが必要と言われたと聞いた。だが、意外にも本人はケロッとしていた。
「たったの半年だって」
言葉に嘘の感触がない。本人は本気で言っているようだ。
「そう言えば裏サイトのパスワードの規則性分かったよ」
まあまあ暇な時間があるらしく、クロスワードパズル感覚で解析してくれた。
ーーーーーーーーー
パスワードリスト
4月 ERPC5E
5月 GME1MG
6月 T6HIRP
7月 M2EMEM
8月 5ERPCE
9月 GB3CPJ
10月 PAMHG4
11 月 THIR6P
ーーーーーーーーー
「多分、時間割だと思うの。アルファベットが偏っているのと、文字数が数字を除いて5文字だし、曜日を表しているのかな……と」
「確かにそうだな。あと、4月と8月は数字の位置が違うだけで同じか」
「Gは現国、Mは数学……かな?」
結論は俺のクラスの時間割だった。
数字は何限めの授業かを表していて、月から金まで横串を指している感じだった。
――――――――――
|月曜|火曜|水曜|木曜|金曜
|1| 現国| 数Ⅰ |英Ⅰ |数Ⅱ |現国
|2|数Ⅰ | 英Ⅰ |数Ⅱ |英Ⅱ |数Ⅱ
|3|地理|生物|化学|体育|日本史
|4|物理|美術|音楽|歴史|地学
|5|英Ⅱ |倫政|体育|化学|英Ⅰ
|6|技家|家庭|情報|倫政|体育
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「簡単すぎて、つまんないね」
「おれは全くわからなかったけどな……」
山下は3年の授業の予習が終わっているそうだ。暇だったそうで……。
「そういえば山下の作戦が複雑で最後まで意図がわからなかった。よく思いつくな」
「そうかな?」
「スマホのパスコードなんか二段構えになってて、俺もひっかかった。俺の誕生日でロック解除されるのかと思ったよ」
「えっ?ロック解除出来なかったの?」
顔を見合わせる。
「だって、俺の誕生日で開かなかったけど……」
「いや、ちゃんと0609で設定したよ」
「俺の誕生日……6月8日だぞ……」
「えっ?!」
弘法にも筆の誤り。山下でもうっかり。おかげで助かったけど、今更になって肝を冷やした。
「はははははは……」
お互いに苦笑いする。まあ、山下は元気だ。
正樹部長は推薦で大学が決まったということで一足先に残りの高校生生活を楽しんでいる。
「俺はエシカルハッカーを目指しているからな……そういう学びのある大学に行けて嬉しいぞ!!」
おそらく、システム用語なんだろうがいつも通り、何を言っているかわからなかった。
まあ、頑張ってください。正樹部長!
安井の様子は相変わらずだ。
だが、コレクターは廃業したらしい。安井なりに思うところがあったようだ。
「腕時計はリリースした。お前の腕時計以外はな……」
安井はあの時計が相当気にいったらしく、返すつもりはないそうだ。
今村と江川の手元に腕時計は戻ったので良しとする。
俺は元より返却を希望していないので良いのだが、一体あの時計には何が詰まっているのやら……。
中上は学校から降格処分を下されたらしい。
少々、理不尽に感じるが出過ぎたことをしたことで杭を打たれてしまったらしい。
「首じゃなければそれでいい」
生活がかかっているので、本人的にはベターな結果と捉えたようだ。
中上先生は巴先生と交際を始めたらしく、舞い上がっているようなので些末な事に感じているのかもしれない。
まあ、幸せになって欲しい。
さて、ひらきだが学校で見かけるものの避けられているのか、なかなか話す機会がない。
あんな事があったから気まずいのだろう。
前の席の関本がある日こんな事を言ってきた。
「お前、ひらきと別れたのか?ずっと変な空気だったもんな。これやるから元気出せよ!」
関本は力を入れすぎたのか、具材がウニュっとはみ出したコロッケパンを渡してきた。
念のため、賞味期限をチラッと確認する。
「お前……今、失礼なことしなかったか!?」
「いや、別に……サンキューな!」
しかし、他人から見てそう感じる程度にはひらきと距離感があるようだ。
俺は関本の顔をみていたら、ひらきとの関係を元に戻す良い方法を思いついた。
関本の肩を全力で叩くと、バシンといい音をたてた。
「……ってーな、藤井!!何すんだよ!」
「関本……ファインプレー!」
あからさまに不快な顔をする関本に、俺は今日一番の笑顔を見せてやった。
思いついたからには試さずにはいられない。
俺はひらきと前みたいに話せるようになりたいんだ。
…………
昼を告げるチャイムが鳴る。
俺は走って隣のクラスに行き、ドアをバンッと開けた。
「あぁ……お腹へったなぁ。おやっ?ひらきじゃないか!飯でも食いに行かないか? 」
「ひぎゃー、ふ、藤井くん、な、な、な、何を!? 」
ひらきの反応に、何故かクラスの女子からは『キャー』という嬉しそうな悲鳴が聞こえてきた。
なんだ、この反応は?
「まだ、授業が終わってないんだけどな、ひらき。彼氏に何とか言ってくれないか? 」
巴先生の笑顔が怖い。
「いや、あの……先生、お腹減ったっす」
ひらきがしおらしく言う。
「はぁ……もういい。さっさと、彼氏とイチャイチャしてこい!今日はここまで」
授業終了の挨拶をするとひらきが恥ずかしそうに出てきた。
「ああいうの……やめてよぉ、恥ずかしいじゃん……」
「ひらきの十八番だろ。少しは俺の気持ちがわかったか?」
「うん……」
「嫌だったか?」
「思ったより……悪くない気がしてきた。明日もお願いしようかな?」
ひらきは笑っていた。だから俺も笑顔で返した。
「まあ、どうするかは明日までに……考えておくよ」
俺のシナスタジアがささやく、たぶん明日まで、ひらきは返事を待てないだろうと。
シナスタジア 残念パパいのっち @zanpinocchi
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