報道が作る加害者という化け物。それを楽しむ私たち。

夏祭りのカレーにヒ素が入っていたというあの事件。加害者である林死刑囚とその一家をめぐり、マスコミの報道は狂気に近い姿を見せた。作者はスナップ写真のように、事件をめぐるシーンを三十一文字で切り取る。

一首一首を読むごとに、自分もいつかドキュメンタリー番組か何かで見た、林死刑囚やその邸宅の映像を思い出す。そして、こんな奴が犯人だったのかと疑いなく受容していたことも。

しかしそれはあくまでもマスコミが作り上げた加害者(一家)の姿。
マスコミには飯の種。視聴者には娯楽。両者の結託が、犯罪とは無関係なはずの家族の生までかき回す。

そして、犠牲者まで出る。

加害者とその家族をめぐる報道の熾烈さは、今も何ら変わっていない。「上級国民」という言葉がトレンドにもなった、池袋の暴走事故。
古くは宮崎勤の家族も、自殺者が出ている。

もういい加減、やめないか。
加害者が妙な注目を集め続けることは、被害者にとっても快いことではあるまい?

そう思いながら、自分とは無関係であるだけに、やはりどこかで娯楽のように感じている自分がいる。
私も、そういう報道に荷担している一人に過ぎない。
でももし、自分が林家の一員だったら、どうやって生きるのか?

複数の参考文献を咀嚼し、社会に一石を投じる重いテーマと、作者は真っ向から取り組んでいる。
敬すべき作品。

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