埋もれるのが惜しい意欲的力作

シュルレアリスムの女性画家、レメディオス・ヴァロ。知る人ぞ知る画家かもしれないが、不思議な魔術の支配する街に迷い込んだかのような彼女の作品世界からインスピレーションを得て、作者独自の物語を紡いだ。

それぞれの章の末尾には、出典となったレメディオスの作品のURLが添付されているので、読後開いてみるとさらに面白い。
もちろんレメディオス・ヴァロについて何も知らずに読んでも、一枚の絵画を深く咀嚼して作り上げた独特の物語に惹かれる。

絵画をモチーフに小説を書くというのは実にオーソドックスな手法だが、案外やっている人は多くない。
しかし小説を書く上では、美術や演劇など他のジャンルを横断的に知っていると、物を書く人間としての引出しが増え、人としての幅も広がるという貴重な一例だと思う。