第38話 ※聖女が与えられる喜びを知る日

「いいのか、準備とやらはもうしなくても」


「……はい。エドワード様にご教授頂くと決めましたから」


「……そうか」


 エドワード様は最終確認、とでも言いたげに私にそう言う。私がその言葉に頷くと、エドワード様は安心したように私に口づけを落とした。この前まではあんなに動揺していたのに、今は感覚に身をゆだねることが出来ている。ああ、キスってこんな感じなんだなって感じて、その息苦しささえも心地よく感じるのだから慣れって不思議だ。


「大分、慣れたようだな」


「……はい、でも胸はずっとどきどきしているんです。今にも心臓が飛び出そう」


「……貴方でもそんなことを思うのだな」


「……私に感情がないと思っていたのですか?」


「……聖女だった貴方の姿は、いつも清廉で美しかった。厳しい規約の中で色んな惨状を見て、そう簡単には心など揺らがないのだと勝手に思っていた。でもそうだな、今だから言うが、その姿はいつも何かを諦めているように私には見えたんだ」


「……確かに私は自分で気が付かないうちに沢山のことをを諦めていました。でも貴方様に拾われて、この結婚を受け入れて無くしていた感情を取り戻したんです」


「フィリ……」


「だからエドワード様、どうか私に触れてください。この凍った心を解きほぐせるのは、貴方様の手だけですから」


 私がそう微笑むと、エドワード様は少しためらった後にもう1度私に口づけを落としてから、私のナイトドレスを優しくめくった。私は大きく息を吸ってその感覚に慣れようとしたが、思わず声が溢れてしまう。それを見たエドワード様が


「抑えなくてもいい。声が漏れるほど、この部屋は薄くない」


 なんておっしゃったけれども、私は恥ずかしさのあまり思わず顔を背けてしまった。


「……そうではなくて、こんなはしたない声をエドワード様に聞かせてしまうのが申し訳なくて」


「申し訳なくなんて思わなくていい。むしろもっと、聞かせてほしい」


「あ、エド、ワードさま……」



 今日書庫で呼んだあの指南書に書いてあった話は、きっとデタラメだ。あんなに簡潔に淡々と描いていたくせに、実際は全然違う。本当はもっと熱くて、心地よくて、こんなにも夢中になれてしまう。まるでお互いの体の熱を分け合うようなこの行為は、どこまでも気持ち良くて、どこまでも私はエドワード様に与えられている。


「フィリア、大丈夫か……?」


「はい、でもエド、ワードさまこそ、とてもあつい……」


 私は聖女などと言って人に与えるばかりでずっと昔に忘れていた。


 こうして今、人に与えられる喜びを。

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突如宮廷から追放され冷酷と有名な騎士公爵様に拾われた落ちぶれ聖女の私、身の安全の為に結婚いたしましたが、旦那様は12歳とは思えないほどロリかっこいい男装幼女様でした!? 藤樫 かすみ @aynm7080

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