とんとん、じゅわっ。ぐつぐつ……ちゅっ。


唐突ですが、わたしはおはなしかかれる方のイメージを、色で保持しています。

本作の作者さまの、色。
黒、銀、蒼。

絶対だとおもっておりました。
どんなおはなしをかかれても、その美麗な筆致、閑やかで穏やかで、そうして鋭利な情景描写、それがこの作者さまの特徴であり、それをあらわす色は、黒と銀。これしかあり得ないと思っていたし、ここまで外れたことがありません。

しかるに、本作で、外れました。

ではなに色なのか、と、お尋ねくださいませ。
なぜならわたしがこたえたいからです。

金。

メープルシロップの、焦がし砂糖の、はちみつの、野の花の、春のふわふわした陽光の、そうして、ちいさなキッチンで肩をよせあってごはんをつくる、なんともじれじれしい、カップルのあいだの空気、の。

包丁がまないたを叩く、とんとんというおと。
フライパンがコンロを叩く、こんという響き。

お肉のにおい、お醤油の焦げる香り。

そうして、あまあい、キス。

これ以上、なにが欲しいのですか?

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