後日譚1
歳の離れた弟の世話をしていたから、赤ちゃんの世話なんて大したことないなんて思っていたけど、大間違いだった。
泣いて主張する赤ちゃんに振り回されて一日が終わる。
乳母をつけようと提案されたのを、断ってしまったことを後悔している。
だって、未だに世話をされるのに慣れていないんだもの……
今いる使用人たちが慣れないわたしのために手助けをしてくれるけど、ミアを始めとしたデスティモナ家の女性使用人達はもともとネリーネちゃんのために仕えていたから、まだみんな若くて子育ての経験なんてない。
一家総出で右往左往するしかなかった。
お義父様が慌てて、乳母や私のための侍女を探してくれているけれど、残念ながら社交界のやっかみで悪名高いデスティモナ家で働きたいと志願する者はなかなか現れずにいた。
なかなか乳母や侍女が見つからずにわたしと一緒に赤ちゃんの面倒を見ていて、寝不足のはずのハロルド様が、今朝早くから家を出ている。
わたしと赤ちゃんだけ取り残された気分になって涙が出る。
寝不足の頭で考えると碌なことは思いつかない。
ようやく寝た赤ちゃんを眺めて、私も横になろうとした。
「ミザリーお義姉さま! やっと乳母が来ましたわよ!」
ネリーネちゃんが勢いよく扉をあける。その音に驚いて、赤ちゃんが泣き出した。
「あああっ! ミザリーお義姉様! どうしましょう! わたくしったら、赤ちゃんを泣かしてしまいましたわ!」
慌てて赤ちゃんに駆け寄ったネリーネちゃんが、いないいないばぁをするけれど、泣き止む気配はない。わたしが赤ちゃんを抱き上げようとすると、廊下から靴音と慌てたように何か伝えようとする声がした。
「お嬢様ー! 勘違いでございますよー! 私は乳母ではございませーん!」
ネリーネちゃんの勘違いを否定しながら追いかけていたその声の主が、ようやく部屋に到着する。
「……お母様!」
そこに立っていたのは、一年前よりも少し肉付きの良くなったお母様だった。
「ミザリー!」
「お母様、どうして」
「今朝、ハロルド様が我が家に来て、ミザリーの世話をしばらくしてもらえないかって言われてね。手紙に赤ちゃんが生まれたって書いてあったけど、本当にミザリーがお母さんになったんだね」
お母様はそう言って泣き続ける赤ちゃんを抱き上げてゆらゆらと揺らす。
大泣きしていた声が少しずつ小さくなり、いつのまにか寝てしまった。
「すごいですわ! ミザリーお義姉様のお母様は魔法が使えますの⁈」
泣かせてしまったことに泣きそうになっていたネリーネちゃんが、感嘆の声をあげた。
何をしても泣き止まない赤ちゃんを簡単に泣き止ませてしまったことに、わたしも驚く。
「お義母さん、荷物は客間でいいですか?」
バッグを持ったハロルド様が部屋に着く。
「ハロルド様! お母様を呼んできてくれたの?」
「子爵夫人に頼むことではないのはわかっているんだが、乳母や侍女が決まるまで我が家に滞在して世話をしてもらえないかお願いしたんだ」
「ありがとう!」
しばらくお母様がいてくれるなら心強い。
そう思って、ふと気がかりを思い出す。
「お父様に領地のこと任せて大丈夫?」
「大丈夫よ。ハロルド様がご紹介下さった方がお父様が騙されないように裏で監視してくれているわ」
「……お母様は知ってたの」
「我が家でわかってないのはお父様だけよ」
お母様は呆れたようにそう言うとハロルド様に向き合う。
「ファサン子爵領への出資だけじゃなく、息子達の
弟たちが
頭が疑問でいっぱいのわたしに、お母様は寝るように言って、赤ちゃんとネリーネちゃんを連れて部屋を出る。
久しぶりにハロルドと二人きりになった。
「……ハロルド様、弟たちの話なんて聞いてないわ。そんな、あの、うちの実家にそんなにお金を使ってもらうわけには……」
「そうはいかない。ミザリーが俺との契約結婚を続けないと返せないくらいのお金を使い続けないといかないからね」
「え?」
「まだまだ契約結婚は続くよ。一生ね」
そう言ってハロルド様は微笑む。顔立ちのはっきりしたハロルド様は片頬を上げただけで、なにか企んでいるように見える。
──まだまだわたしの
わたしは寝不足の頭でそんなことを考えながら、瞼を閉じた。
*********
クロスオーバーとか、ハイパーリンクとかスピンオフとかカメオ出演とか好きなので、同じ舞台設定を流用した作品ばかり書いています。
もしよければ他のお話も楽しんでくれると嬉しいです。
▶︎ミザリーの義妹ネリーネがヒロインのお話
ミザリーは出てきませんが、ミアやハロルドが脇役として出てきます。
『社交界の毒花』と呼ばれる悪役令嬢を婚約者に押し付けられちゃったから、ギャフンといわせたいのにズキュンしちゃう件
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