第11話
わたしがお姫様のようだと感じたドレスは、王都の城下町では育ちの良さそうな女の子達の街着を少し華やかにした程度で、そりゃもちろん、没落子爵家のうちでは買えないにせよ、街中で浮くほどの服装ではなかった。
だから、いま注目を浴びてるのはわたしのドレス姿のせいじゃない。
華やかな顔立ちのハロルド様が目を引くからだった。
キラキラと光る濃い金色の髪の毛に深みのある青い瞳は目が合うと吸い込まれてしまいそう。
街中を歩いていても洗練された立ち居振る舞いから育ちの良さがわかる。
注目を浴びるのに慣れきった様子のハロルド様は、堂々とした態度でわたしに城下町を案内してくれた。
城壁に囲まれた街は王都の中心部。行き交う人たちは、いろんな身分や立場の人が入り混じる。
繁華街は服飾店に宝飾店、お菓子を売る店に、お茶を売る店、それに日用品店、いろんな店が大小様々、所狭しと立ち並ぶ。ハロルド様のように貴公子然としている人や裕福そうな身なりの夫婦が使用人を連れて歩いていたり、あちらではお屋敷で働いているのかお仕着せ姿の男性が買い物をしている。
飲食店では労働者の男性達はまだ日が高いのに顔を赤くして上機嫌でお酒を飲んでいた。
広場では花や果物をカゴに入れて売り歩く小さな子供達が買うようにお願いしにきたり、露店を広げた大人たちがハロルド様に声をかけて店じまいの時間だから買っていくように勧める。
ハロルド様は笑顔で誘いを断ったり、買うとなれば駆け引きを楽しんで値切ったり、かと思えば子供からカゴごと花を買ったりと楽しそう。わたしまで自然と笑顔になる。
わたしに花いっぱいのカゴを渡すときに「男から花をもらったことはある? 俺が初めてだったら嬉しいな」なんて、はにかんだ様に言われて、舞い上がる気持ちを抑えるのは難しかった。
ひとしきり歩いた私たちは街中のカフェに入りお茶とケーキを頼む。
朝から大したものを食べていないわたしのお腹は、テーブルに置かれたケーキを見て、ぐぅと鳴いた。
「こちらも美味しいから味見しないか?」
そう言って、ハロルド様は自分が注文したケーキをまだ一口しか食べていないのにわたしの前に置く。
「昼前は野菜や果物を売る露店が多いけどもう店じまいして、このあとの時間は古着や小物なんかを売る店が多くなる。もっと早く来れば買い食いもできたな」
「えっ! 買い食いなんてハロルド様がするの?」
「もちろんするよ」
ハロルド様はおかしそうに笑う。けれど、わたしには想像つかない。
「今度のデートは王都で買い食いをしよう」
美味しいはずのケーキは「今度のデート」なんて言葉にドキドキしすぎて、味がわからなかった。
カフェを後に、私たちは貴族院に向かって歩き出す。
ハロルド様のいう通り、露店は古着や小物を売る店が多くなる。
骨董品とも言えないような古びた花瓶や食器が並んでいたり、洋服は古着なんて言いながらわたしが普段着ている服よりも綺麗な服ばかり並んでた。
興味深く露店を見ながらハロルド様と二人で歩く。
「ミザリーお嬢様!」
急に名前を呼ばれて振り返ると、アクセサリーを扱う露店からだった。
「誰?」
ハロルド様はわたしの腰を抱き寄せ耳打ちする。
わたしは露店の店先に立つ懐かしい顔に泣きそうになる。
「……親方」
そこにいたのは彫金工房をたたむ最後の日まで働いてくれた親方だった。
「ファサン子爵家は復興したんですか!」
わたしの身なりを見て、親方は嬉しそうにそう言って露店の前に置いた椅子にわたしとハロルド様を招き寄せる。
「親方……残念ながら違うのよ」
椅子に座って親方に向き合ったわたしは今日起こった出来事をかいつまんで説明した。
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