第14話
伝統的なドレスは、女性らしい身体つきに見せるために、コルセットで身体を変形するほど縛り上げる必要がある。通常着せつけには侍女やメイドが何人も集まって力の限り紐をぎゅうぎゅうに引っ張って締め上げるものだからと、使用人達が腕まくりをして気合を入れていた。
「お願いします」
わたしは覚悟してみんなに身を委ねる。
くっ……苦し……くない?
「縛り上げる必要ないのはいいけど、胸元がスカスカだわ」
ミアが悲しい事実を告げる。
慌てて詰め物が用意されて、ようやくドレス姿になり、わたしはハロルド様達が待つ家族用の応接室に連れて行かれた。
わたしの姿を見たハロルド様とデスティモナ伯爵が驚いて目を見開く。
「そのドレスは」
「すみません。着るべきではないと思ったのですけど、ネリーネお嬢様に勧められて……」
「そうだったんだね」
ハロルド様の様子から、似合うと思っていただいて驚いた訳じゃないのはわかる。あきらかに戸惑いだ。
お二人の後ろには家族の肖像画が沢山飾られている。
若かりしデスティモナ伯爵の隣には、わたしが着ているドレスを着こなす金髪の美しい女性。きっとハロルド様達のお母様ね。ほかの古い肖像画の女性達もこのドレスを着ている絵がいくつも並ぶ。みなそれぞれ似合っていた。
わたしとは大違いだ。
「ミザリー嬢に渡したいものがあるんだ」
気を取り直したように笑うハロルド様の目の前のテーブルには、美しく輝くアクセサリーが置かれていた。
繊細なアクセサリーの一揃いが目を引く。
「このアクセサリーは……もしかして……」
ハロルド様とデスティモナ伯爵が穏やかにわたしを見つめる。
「先日約束を果たしに、親方の工房に伺って、いろいろ聞いてね。こちらは君の社交界
ハロルド様はそう言いながら、わたしに隣へ座るように招く。
「みんな君につけて欲しがっていたよ。
そう言ってアクセサリーを手際よくわたしにつける。手慣れた行動に少しだけ胸が苦しい。
「似合うね」
わたしを見つめる二人の眼差しは優しい。契約の結婚でも優しく扱ってくださることにかしこまる。
「わたしなんかに、お心遣いいただきありがとうございます。それにデスティモナ伯爵夫人の思い出のドレスまで着させていただいて……わたしには似合わないと思ったのですが、今日は沢山のご来賓がいらっしゃるということなので、ドレスの威光をお借りして、できる限りハロルド様のお役に立てればと思います」
そう、今日のデスティモナ伯爵家の親族や取引のある家が集まるパーティーに、ハロルド様を陥れようとしていた家の令嬢も来る。
こんなに良くしていただいているんだから、少しでも役に立ちたい。
決意を固くしたわたしを連れてハロルド様は会場に向かった。
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