第17話
招待客達の視線は私たちに集まっていた。
「あ……」
気の強そうな娘は、自分のしてしまっまことに気がついたのか、ただでさえ白い顔を青白くしていた。
「……伯爵。今日は祝いの席だ。いくら近しい間柄の来賓ばかりとはいえ、これ以上は、騒ぎを大きくしたくない。伯爵も同じお考えでしょう?」
「そうだな……」
小声でそう伝えるて意味ありげに笑うハロルド様に気圧されたのかさっきまで激昂していた父親は頷くしかない様子だった。
ハロルド様は急に娘の肩に手を置く。
「大丈夫ですか! ふらついてワインをこぼして、妻の頬に手がぶつかってしまうほど酔っぱらわれてしまったんですね! 大変だ早く酔いを覚ました方がいい!」
急に始まった芝居小屋ばりの大げさな演技は、明らかに嘘くさくて周りの招待客は戸惑っている。
「さぁ、休憩室へお二人とも急いで! ほらすぐに案内するんだ!」
そう言って使用人に二人を押しつける。使用人は意気揚々と二人を連れて部屋を出ていった。
「申し訳ないが、妻にワインがかかってしまったので、一旦着替えのために退室させていただきたい」
広間の中央で高らかに宣言しまあと、私の身体はふわりと宙を浮く。
えっ⁈
目の前にハロルド様の顔が!
ふさふさの金色のまつ毛の下に濃い青の瞳が、わたしの視線に気がついて細くなる。
近い! 今まで以上に近い!
のぼせてしまいそうなくらい顔が熱い……
ハロルド様に抱き抱えられ、周りの注目を浴びながらわたしは部屋を後にする。
「自分で歩けます! 重いですから降ろしてください!」
「重くなんてないさ。君に嫌な思いをさせたんだ。これくらいさせてくれ」
廊下に出てすぐ降ろすように頼んでも、そう言って家族用の応接室までハロルド様は運んでくれた。
「ミザリー嬢。大丈夫か?」
部屋に戻ると、ハロルド様はわたしをソファに座らせて、頬に手のひらを当てる。
益々顔が熱くなるのがわかる。
「熱い……」
「そんな頬が熱くなるほどの力で叩かれたのかい? 目を離したすきに申し訳ない。跡が残らなければいいが……」
「ダメです。顔が近くて……その……」
「あ、すまない!」
ぶたれた跡を覗き込んでいたハロルド様は慌てて体を離す。
変に意識してしまって、重たい沈黙が訪れた。
ドン! ドン! ドン!
扉を叩く音に身体が跳ねる。
「若様! 若奥様! 旦那様がいらっしゃいました!」
私たちが急きょ退席することになった後処理を終え、デスティモナ伯爵が部屋にいらした。ようやく沈黙が終わった。
「あの、せっかくお貸しいただいたドレス、汚してしまって申し訳ないです……」
部屋に入ってきたデスティモナ伯爵に、わたしはまず頭を下げる。
よりによって赤ワインの染みなんて……
これってわたしが弁償しないといけないのかな。あの親娘に弁償してもらえないかしら。
「いやいや。気にしなくていいよ。それよりミザリー嬢は大丈夫かい?」
ハロルド様だけでなく、デスティモナ伯爵までがドレスよりもわたしの心配をしてくださる。
家宝のドレスを汚してしまったのに。
役に立つどころか迷惑をおかけしてしまったわたしは情けなくて涙が自然と溢れる。
「すみません。すみません。家宝のドレスなのに……」
泣いてしまったわたしをハロルド様とデスティモナ伯爵は驚いた顔をした後、顔を見合わせていた。
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