第二話「神は渡り歩く」 - 05
――その話は荒唐無稽だ、と、私は正直に思った。
「誰が、どうしてユートピアを封じてるわけ?」
「各国家、それから多くの世界的な機関が特に実権を持っています。
「秩序が崩れる……ってのは」
「
抑えるべき何か、が先。神が後。
「抑えるべき何か……つまり天地がひっくり返って理想郷が現れる、みたいなことを考えてるわけね」
「そうです。理想郷の出現を抑えるためにあるのが、
「……んー。ん? じゃあンミユがいう『理想郷』を探すってのはつまり……世界中の大事な史跡をぶっ壊して、天地が返ってもいいからその理想郷を出現させる旅、ってこと?」
「
「クソヤバいじゃん! ……あ、だから私の力が必要なのか! 世界遺産をぶっ壊さないといけないから!」
「そういうことです! これまでの旅は世界中を渡り伝承や史料を集め、
「いやそれはいいんだけど……え、なんで私が生贄だって分かったわけ?」
「はい、まずですね、ナホとナホの家のことをたくさん調べました。探偵です。高千穂神宮で生贄としてあてがわれそうな人は複数いましたが、ナホは最もみなさんから距離を置かれていたので怪しいと思いました。さらにナホには様々な破壊にまつわるエピソードがあったようなので。……それから生贄が必要ということは、これまでにも生贄にされている人たちがいて、その
「……それで?」
「神社のみなさんがはがれに気付いたのは少し時間が経ってからでした。これは警戒していなかったからでしょう。はがれの状況を確認するための儀式が、おそらく数日に一度くらいだったのではないでしょうか。はがれそのものがどうなっているかはあたしにもわかりませんでしたが、もしナホが生贄にされる神の化身であれば、ナホの
「…………」
「なので、マスカルをお守りとして渡しました。あたしはエチオピア正教会とは真逆を行く異教徒中の異教徒ですが、使えるものはなんでも使えと思ったのです。――本当はあたしが儀式の途中で乱入して助けだそうとも思っていたのですが、マスカルが仕事をしてくれましたね。いやー、本当にすみませんでした。お話できてスッキリしました」
「……………………」
こ、こわい! なんだこの女! 全部ンミユの掌の上じゃん!
そして私はあることに気付く。
「……ちょっと待ってンミユ。あんた富士山を目指してるのよね?」
「そうです」
「それは……なんで?」
「もちろん、
「えーっと、つまり」
「はい! 富士山を、破壊しましょう!」
「………………………………」
ンミユがあまりにも躊躇なくそう言うので、さすがにドン引きして顔に出してしまったが、ンミユはどこ吹く風でそのデカい図体を布団の中ですり寄せてくる。
「んもー。ナホ、ナホ。仲良くしましょ」
「お、おっかねえ……」
――しかしまあ、ンミユが私に謝りたかったことというのはそれなのだろう。
いやでも、全部白状するということはつまりこの女、マジで悪意のない打算と好意で私のことを助けてくれてるってこと……?
やっぱこわいけど!
私は恐る恐る、ンミユに訊ねてみる。
「……ンミユ、あんた私に他に隠してることない?」
ンミユはいつもの屈託の無い笑顔で、それに答える。
「んー、どうでしょう……ないと思いますが、話したいことはまだまだたくさんありますし、これから話をする時間もたくさんありますね。いっぱいおしゃべりしましょうね、ナホ」
「……おうよ」
いやー、思ったよりとんでもない目的を持ってたな、このひと。
それでも膝にかかる布団は暖かく、ミルクティーは甘く、ンミユの体温は心地良い。
だから結局、私はやはり、この中から逃げ出そうとは思わないのである。
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少女破壊紀行 立談百景 @Tachibanashi_100
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