第二話「神は渡り歩く」 - 05

 ――その話は荒唐無稽だ、と、私は正直に思った。

「誰が、どうしてユートピアを封じてるわけ?」

「各国家、それから多くの世界的な機関が特に実権を持っています。大足跡グレート・スタンプの管理そのものは、各国家に任されている状況です。どうして理想郷ユートピアを封じる必要があるか、ですが……これは恐らく、その理想郷が現れるとき、世界の秩序が崩れるからです」

「秩序が崩れる……ってのは」

理想郷ユートピアがどのような形かは分からないので、なんとも言えません。ですがナホのおとうさんも言っていたでしょう? ナホを生贄にしなければ日本に災禍がふりかかると。……これはあの日、盗み聞きしていたのですがすみません本当に。ですが、おそらく元々この高千穂には、それが天孫降臨を初めとした様々な伝承の意味になっている可能性がある、ということです。

 抑えるべき何か、が先。神が後。大足跡グレート・スタンプは更にその後ということですね。大足跡グレート・スタンプを創るために神は降り立った、と言っても良いでしょう」

「抑えるべき何か……つまり天地がひっくり返って理想郷が現れる、みたいなことを考えてるわけね」

「そうです。理想郷の出現を抑えるためにあるのが、大足跡グレート・スタンプというわけですね。だから私は、その大足跡グレート・スタンプ、言い換えるなら――即ち、が必要だと考えています。そして八十禍津日神と瀬織津姫がその力たり得るか、それを見極める必要がありました。そして宮崎、鹿児島の地を巡り、おそらく私の見立ては合っているだろう、というところまできたのです」

「……んー。ん? じゃあンミユがいう『理想郷』を探すってのはつまり……世界中の大事な史跡をぶっ壊して、天地が返ってもいいからその理想郷を出現させる旅、ってこと?」

በትክክልベ・ティキクル! 理解していただけましたか?」

「クソヤバいじゃん! ……あ、だから私の力が必要なのか! 世界遺産をぶっ壊さないといけないから!」

「そういうことです! これまでの旅は世界中を渡り伝承や史料を集め、大足跡グレート・スタンプを絞り込むためのものでした。しかしから高千穂神宮の神を降ろす生贄の伝承の情報を得て、その生贄の方を探しにきたのです。――ナホがそうだと分かったとき、運命を感じました! でもいきなり『あなた生贄の神ですね』なんて言うわけにもいかず……隠していてすみませんでした」

「いやそれはいいんだけど……え、なんで私が生贄だって分かったわけ?」

「はい、まずですね、ナホとナホの家のことをたくさん調べました。探偵です。高千穂神宮で生贄としてあてがわれそうな人は複数いましたが、ナホは最もみなさんから距離を置かれていたので怪しいと思いました。さらにナホには様々な破壊にまつわるエピソードがあったようなので。……それから生贄が必要ということは、これまでにも生贄にされている人たちがいて、その霊魂スピリッツがこの地を抑えていると思いました。なので、ぱぱっと呪術でそれを祓ったのです。これはみなさんが言っていたを促したわけですね」

「……それで?」

「神社のみなさんがに気付いたのは少し時間が経ってからでした。これは警戒していなかったからでしょう。の状況を確認するための儀式が、おそらく数日に一度くらいだったのではないでしょうか。そのものがどうなっているかはあたしにもわかりませんでしたが、もしナホが生贄にされる神の化身であれば、ナホの霊魂スピリッツに何か影響があると考えました。そしてそれは大正解、ナホの霊魂スピリッツに、大きなのようなものを感じ、それで確信したのです」

「…………」

「なので、マスカルをお守りとして渡しました。あたしはエチオピア正教会とは真逆を行く異教徒中の異教徒ですが、使えるものはなんでも使えと思ったのです。――本当はあたしが儀式の途中で乱入して助けだそうとも思っていたのですが、マスカルが仕事をしてくれましたね。いやー、本当にすみませんでした。お話できてスッキリしました」

「……………………」

 こ、こわい! なんだこの女! 全部ンミユの掌の上じゃん!

 そして私はあることに気付く。

「……ちょっと待ってンミユ。あんた富士山を目指してるのよね?」

「そうです」

「それは……なんで?」

「もちろん、大足跡グレート・スタンプを壊すためですよ」

「えーっと、つまり」

「はい! 富士山を、破壊しましょう!」

「………………………………」

 ンミユがあまりにも躊躇なくそう言うので、さすがにドン引きして顔に出してしまったが、ンミユはどこ吹く風でそのデカい図体を布団の中ですり寄せてくる。

「んもー。ナホ、ナホ。仲良くしましょ」

「お、おっかねえ……」

 ――しかしまあ、ンミユが私に謝りたかったことというのはそれなのだろう。

 いやでも、全部白状するということはつまりこの女、マジで悪意のない打算と好意で私のことを助けてくれてるってこと……?

 やっぱこわいけど!

 私は恐る恐る、ンミユに訊ねてみる。

「……ンミユ、あんた私に他に隠してることない?」

 ンミユはいつもの屈託の無い笑顔で、それに答える。

「んー、どうでしょう……ないと思いますが、話したいことはまだまだたくさんありますし、これから話をする時間もたくさんありますね。いっぱいおしゃべりしましょうね、ナホ」

「……おうよ」

 いやー、思ったよりとんでもない目的を持ってたな、このひと。

 それでも膝にかかる布団は暖かく、ミルクティーは甘く、ンミユの体温は心地良い。

 だから結局、私はやはり、この中から逃げ出そうとは思わないのである。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

次の更新予定

毎日 07:00 予定は変更される可能性があります

少女破壊紀行 立談百景 @Tachibanashi_100

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画