第二話「神は渡り歩く」 - 04

「どこから話しましょうか。――まず、どうしてあたしが高千穂神宮にいたのか、そこを話しましょう。

 ……そもそも私は、ナホがを知っていたんです。正確に言うと、高千穂神宮に神を降ろす伝承があることを知っていました。ナホと出会ったこと自体は偶然だとおもいますし、ナホがその存在だと確信したのも、会ってしばらくしてからです。

 伝承の内容は『高千穂神宮は巨大な柱の大足跡グレート・スタンプがあり、神を降ろした人間を捧げることで力を保持している』というものでした。説明しないといけないことが多いですね。順番に話していきますので、まずは聞いてください。

 大足跡グレート・スタンプ。これは地球の歴史において、重要な史跡や名勝、天然記念物のことです。大足跡グレート・スタンプを壊すことが、理想郷を見つけ出す鍵だと考えているからです。

 さて、あなたがどのような神なのか。あたしは見定める必要がありました。だったからです」

「私の神の力……父さんたちは『八十禍津日神やそまがつひのかみ』って言ってたな。いや、どっちかと言えば『瀬織津姫せおりつひめ』という名の方を重く見ていたか……」

「はい。その二柱は同じ神を指していると言われていますね」

「八十禍津日神は災厄をもたらす神、瀬織津姫は穢れを洗い流す神。その力は真逆のようだけど、同じ神と言われてるのはなんだか不思議な感じね」

「――力の振る舞いを見れば、そうですね。けれどあたしは、案外自然なことだとおもっています」

「へえ、なんで?」

です」

「…………」

「ナホは、案外神話や伝承に詳しそうですね。だったら、こう思ったことはありませんか? 『全く違う神同士が、違う伝承の中で、同じような振る舞いをしている』と」

「――比較神話学ってやつ?」

ድንቅドゥンク! そうです、それに近いものです。ただし、私が言っているのはもっとなニュアンスがあります。例えば神というのは、実在や非実在がよく議論になります。まあその議論のというのは、全くどうでもいいのです。これは私たち部族の……いえ、の考え方です。

「どういう意味?」

「難しくありません、柔軟に考えろということです。仮に神が実在していても、実在していなくても、私たち人間には何ら関係がなく、ただ起こったことだけを観測すれば良いのです。そうしたとき、では神の振る舞いとはどう解釈できるか。それは、神を表すのは人間だけということです。そしてものの見方は、人間によって違う」

「つまり……言葉や文化の中で記録されている神の姿は、同じ神をただ違うものとして表しているだけかもしれない、と」

「そうです。ተዘዋዋሪ አማልክትテゼワワリ アマルクト。人々のあいだをとは、そういうことです。そしてこれは。つまり全く違う振る舞いの神でも、場合によっては同一の神だと見なすこともできる」

「なるほど、だから八十禍津日神と瀬織津姫が同一と言われるのも、自然だと」

「そうです。そもそも神なんてものは、存在していたとして人間の理解を超えたものなのです。ですからみんな、理解しやすい形にしてそこに残すのです。だから差異がある」

「はいはい、なるほど。理屈はわかった。そんでこの話は、ンミユが私の力が必要って話と、どう関わってくるわけ?」

「……あたしは『理想郷』を探しています。その理想郷が見つけることこそが、あたしの悲願なのです。――高千穂は天孫降臨の地。これは日本の神話で、天照大御神あまてらすおおみかみの孫である、邇邇芸命ににぎのみことを日本を治めさせるために筑紫洲つくしのしまに天降りさせたというものですね。なぜ高千穂に降りたのか様々な説はありますが、それは不明とされています。

 ではなぜ高千穂だったのか。私はここに降り立つ意味があったと考えています。それが高千穂神宮です。正確には、高千穂神宮のある高千穂峰。あるいはその周辺の地の全て。また、宮崎には高千穂の名を冠す地が二つありますね。高千穂峡を擁する高千穂町です。天孫降臨は高千穂峰とされていますが、高千穂峡にもその説は残る。

 これはどちらが正しいのではなく、私はどちらも正しいのではないかと考えます。または。その地に伝わり、うけつがれてさえいれば良いのです。

 そしてそれこそが、あたしが探していたもの……大足跡グレート・スタンプなのです」

「……いや、ちょっと待って。そのグレート・スタンプってのは、うちの神社の柱だったわけでしょ? 歴史が逆転してない?」

「いいえ、それが間違っていないのです。そもそも大足跡グレート・スタンプというのは、後から付けられた名前にすぎません。では大足跡とはなんなのか。先ほども言いましたがこれは簡単に言うと、人類にとって重要な史跡、あるいは遺産のことです。遺産……分かりやすく言うと世界遺産ですね。有形、無形、文化、自然を問わず、重要な世界遺産のことを指しています。

 この大足跡グレート・スタンプというのは、世界からを封じるために据え置かれ、保護しているものに与えられている呼び名なのです」

「あるもの……って?」

「『理想郷ユートピア』です」

「…………」

「かつて多くの人が、様々な理想郷を求めて世界を巡りました。それは架空のものから、実在を示唆されたものまで様々です。エルドラド、アルカディア、シャンバラ、ティル・ナ・ノーグ、アガルタ、タモアンチャン、マグ・メル、アヴァロンにニライカナイ。あるいはこの国、日本だってかつては『黄金の国』と呼ばれていたこともある。しかしそれらはこの世には存在しないものとされています。

 これは何らかの意図で、封じられているというのが私の見立てです。

 、ではないのです。おそらく、

 、です」

 ンミユは静かに、しかししっかりと熱を持って語る。

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