第4話
「最近の居酒屋はタブレット注文になってるの便利だよね」
「チェーン店ならではですね。」
とりあえずでビールを2つ入れる。
食べ物は何となくつまめるものでいいだろう。
「沢城食べたいものある?」
「あ、ビールならタコワサ欲しいです。」
「それ日本酒欲しくならん?」
「いや、ビールですね。」
不思議に思いながらもタコワサを選択する。
まぁ、タコワサは美味しいからいいのだが。
「それにしても珍しいですね」
「何が?」
「先輩が実家に帰るなんて」
「まぁ、仕事も落ち着いてきたしそろそろ親孝行するべきだと思ったんだよ。」
偉いですね、なんて言いながら沢城はお通しのごぼうサラダをつまみながら先に届いていたビールを飲んでいる。
「僕はもう親孝行したくても出来ないのでちょっと羨ましいです」
「あー、交通事故だったっけか」
「はい。中学の頃。それからは親戚の家を転々としていたので何とかこの歳まで生きてこれましたけど」
沢城は今ではこんな朗らかな性格をしているが学生時代はかなり荒んでいた。
と言っても流石にガラスを割ったり喧嘩をしたりといった非行に走らなかっただけマシだとは思う。
基本的に友人というものを作らず、どこに属すでもなく独りでいた所をメンバー不足で解散寸前のオカ研に無理やりに近い形で引き入れたのが出会いだった。
「最初はサークルなんて入る予定無かったんですけどね」
「私が聞くのもおかしいけど、なんで入ってくれたの」
「まぁ、先輩の自由さに憧れたというか、救われたと言いますか」
「先輩は親のいない僕にも普通の人と同じように接してくれた初めての人だったんですよ」
そういえば沢城は学生時代周りの人からは親のいない可哀想な人と腫れ物のように扱われていた気がする。
まぁ、親がいようがいなかろうが私には関係ないし、何よりそれを諦めて独りになろうとしてるのが無性に許せなくてオカ研にしつこく誘ったんだよな...。
「しかもなんだかんだオカルトについて調べるの楽しかったので入って正解でした」
「それは良かった」
「今日だってこうして人魚について先輩とも話せましたから」
「いつもありがとうね、沢城といると退屈しないからつい誘っちゃうけどあんま無理すんなよ」
「無理なんてしてませんよ。むしろ嬉しいです」
柔らかく微笑む沢城になんだか親のように嬉しく思った。
あんな尖っていた沢城がこんな素直に笑えるようになったんだな...。
「そういえば人魚と言えばその肉を食べると不老不死になるとかあったよね」
「あれって本当なんですかね?」
「人魚のサイズを考えると長生きする種族だとは思うけど、その肉を食べて不老不死ってのは信じられないよなぁ」
「でもちょっと夢がありますよね、別に不老不死に憧れてるわけではないですけど」
「永遠に生き続けるのは大変そうだしね」
あ、やばい。
息苦しくなってきた。
「先輩?」
「あ、ごめん、酔ってきたかも。ちょっとトイレ行ってくる」
それだけ言ってトイレに駆け込む。
喉からヒューヒューと音がする。
呼吸が浅くなっている。
「いたっ...」
太ももの辺りに痛みが走る。
何かと思いスカートをたくしあげると太ももにも脇腹にあったような鱗が現れていた。
「なんで、海水に触れてないのに...」
そろそろ時間切れってことなのだろうか。
この場で人魚になってしまったら私はどうなってしまうのだろう。
果たして人魚はエラ呼吸なのか、肺呼吸なのか。
今息苦しく感じるということはエラ呼吸なのかもしれない。
沢城には申し訳ないが先に店を出よう。
最後に挨拶くらいはしたかったがそうも言ってられない。
トイレにカバンを持ってきていて良かった。
そのまま会計へ進み支払いだけ済ませる。
海の近くに来ていたことが幸いして店を出て5分もせずに海に出てこられた。
そのままゆっくりと海に身を預けてる。
足元から徐々に青い鱗に覆われていく。
酷く重たい痛みを下半身に感じる。
ジリジリと焼け付くような、皮膚がめくれるような痛みだ。
「っ...はぁっ...あ"ぁ...!」
どうやら脚がくっついていくようだ。
結合部分が先程の比にならないくらい痛い。
来ていた服も鱗の所為か、下半身部分だけビリビリに破け消え去っていた。
ヒレが完全に出来上がった頃痛みは徐々に引いていった。
水の中なのに呼吸が出来る。
目を開けていても痛みがない。
不思議な感覚だ。
優雅に泳ぐには少し練習が必要そうだ。
モタモタと慣れない体で海を泳ぐ。
すると人影(魚影?)が近づいてくるのがわかった。
羇愁 @toudoumoshiko
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