少年とカラス

るいすきぃ

第1話

少年は独りぼっちだった。

友達は一人もいない。毎日一人で学校から帰った。

少年の住むマンションのゴミ置き場に一羽のカラスがいた。

少年がカラスを見たその時、カラスも少年を見た。

このカラスと友達になりたい。

少年はそう思った。

少年はランドセルの中から食べ残しの給食のパンを取り出し、カラスに差し出した。

「おいで」

カラスは疑わし気に少年を見て、それから、その手の中のパンを見た。

「あげるから、そばにおいで」

からすは、「人間なんか信用できるか」と思った。

少年は「警戒してるの?僕は何もしないよ」と言って、パンを少しちぎって道の上に置いた。

カラスはトントンとはねてパンをくちばしにくわえ、あわてて、飛んで後ろに下がった。

そして少年から十分逃げられるだけの距離をあけて、パンをゆっくり食べた。

その間少年はただじっとカラスを見つめるだけだった。

カラスは、この少年は危険ではないかもしれない、と思い始めていた。

少年はもう一度手のひらに残りのパンをのせ、

「ほら、おいでよ。ぼく、何もしないよ」と言った。

カラスはトンと一歩近づき、その手からパンを食べた。

少年はにっこり笑って

「僕たち友達だね」と言った。

それから毎日少年は給食のパンを持って帰って、カラスにあげるようになった。

少年はカラスに「ルシファー」という名前をつけた。

「お前の羽根は真っ黒だろ?悪魔っぽいからルシファーってどう?かっこいいだろ?」

悪魔の名前がかっこいいのか悪いのか、カラスにはわからなかったが、人間の世界には興味がないので、何と呼ばれようと気にしなかった。

少年に「ルシファーおいで」と呼ばれると、飛んでいくようになった。

少年の言葉に甘く美しい響きがあり、心地よかったからだ。

カラスは人間が嫌いだったが、少年のことは好きになっていたのだ。

カラスは飼いならされるのは好きではなかった。自由が好きだった。

でも少年と仲良くなることは、飼いならされることとは違うと思った。

カラスは、毎日学校から独りぼっちで帰ってくる少年が、背中をまるめ、うつむいている様子を見て、

「君はいいやつだ。もっと自信持てよ」と話しかけた。

しかし少年にはカラスの言葉は理解できなかった。

「人間の友達なんていらないんだ。僕には君がいればいいんだ。君は僕のたった一人の友達だよ、ルシファー」

カラスは、少年には人間の友達が必要かもしれないと思った。

少年は人間の世界で生きていかなくてはいけないのだ。

ある日、カラスは少年が知らない少年と一緒に学校から帰ってくるのを見た。

二人は笑いながら歩いていた。

カラスの心をチクリと何かが刺した。

「よかったじゃないか。友達ができたんだな…」

少年はカラスを見つけ、駆け寄ってきた。

一緒に来た少年を振り返り、

「ほらね、僕を待っているだろう?」と言った。

「ホントだ。お前の言うことをなんでもきくの?」

「そうさ、なんでも言うことを聞くんだ」

カラスは、少年がいつもと違うように感じた。

「へーえ、なんでも?じゃあ、来いって言ってみて」

「いいよ」と言って少年はカラスに向かって手を伸ばした。

「ルシファーおいで」

カラスは少しためらったが、少年のために言うことを聞くことにした。

トントンとはねて、少年のそばに行った。

「へーえ、じゃあさ、あいつの羽根、一枚抜いてみてよ。俺、カラスの羽根、欲しいな」

少年は目を見張って、慌てて言った。

「ぼくらは友達なんだ。羽根を抜くなんて…」

「なんだよ。友達って飼ってるってことだろう?羽根の一枚くらいいいじゃないか。え?やってくれないの?」

「いや、やらないとは言ってないけど…」

カラスはしばらく少年たちを見つめ、自分からくちばしで羽根を一枚抜いて、少年の手の平に乗せた。

そして、少年には伝わらない言葉だとわかっていたが、こう言った。

「君には人間の友達がいたほうがいい。君には君の世界があるんだから」

「さよなら」と少年の目を見てから、カラスは羽ばたいた。

「ルシファー、待ってよ。行かないで!」と少年が叫んだが、カラスはもう後を振り返らなかった。

「すげー、自分から羽根を抜いて渡したよな。よくしつけてるじゃん。」

「うん...」

少年はぼんやりと、カラスはもう帰ってこないのだろうと思った。

その後、少年は徐々に学校で友達が増えていった。

独りぼっちだったころのことは少しずつ記憶から消えていき、すっかり忘れてしまった。

しかしふとある瞬間に、以前何かを持っていたのにそれをなくしてしまった、という気がするのだった。

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少年とカラス るいすきぃ @lewisky

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