亜未田久志の世界事情

亜未田久志

enjoy life


 ノリノリのJ-popで目が覚める。

「分かったよDJ……今起きる」

 DJとは市販のAIアシスタントだ。

 予定を組んで好きなタイミングで好きな音楽をかけてくれる。

「さてと……今日もダイブしますか」

 私はパソコンの前に座るとVR装置を使って「カクヨム」にダイブする。

「しっかし自作品を『能力』化ねぇ、好きなジャンルではあるけど、バトル物書きにとっちゃ生きづらい気もするなぁ」

 かといって日常もの系が羨ましいとかそういう話でもないが。

 私が主に使っているのは「変幻自在のファントムナイフ」という作品。

 それに出て来る移動技が文字通り移動に便利なので重宝している。

 投げナイフで移動する「虚空跳躍ファントムジャンプ」というものだが。

 若干、物騒なので移動の際は人に当たらないように気をつけないといけない。

 ――これは私がまだ「ノラ」だとかに所属する前で、エディターという敵性因子が現れる前のお話。

「KAC以外パッとしないなぁ」

 自作品のPVを見て一人ごちる。

 カクヨムアニバーサリーチャンピオンシップ。

 略してKAC、いわゆる周年企画だ。

 ほぼ毎回、皆勤賞を取っている。

 そんな人、珍しくもないので自慢にもならないが。

 しかしこういう事を言うと何故か叩かれたりするのだ。

 なお自慢しても叩かれる。

 まあ私はそんな経験ないので実際はもっと平和な世界なのかもしれないが。

 閑話休題。

 私は主に短編を書く。

 ポンポンと適当に放り投げては次に行く。

 それもまた珍しくない事だろうが、いわゆる長編書きの方からはたまに「そんな短くまとめられない」とのお言葉を受ける時がある。

 そういうものだろうか、長く書くモチベを保てている方がすごいと思うのは私だけだろうか。

 千文字、千文字とポコポコ生み出しては。

 自分の作家性を問う日々。

 いっぱつドカンと長編を仕上げてみたいものだが、なんともなんとも。

 そんな日々を過ごしていたらある日。

 カクヨムに能力機能が追加された。

 こうして仮想現実を生きる事になった物書きたちは。

 能力チャンバラやら、能力マーケットやらで各々楽しみ方を開発しており。

 星の数やPVの数で能力の範囲が決まるので、いわゆる「上位勢」は相も変わらずしのぎを削っていた。

 自分はあくせく底辺をのそのそ生きていたが、一応、それなりの活動もしていた。

『カクヨムレジスタンス』(ノーコピーライト)

 だとか。

『カタリとバーグさんファンクラブ』(ノーコピーライト)

 だとか。

 若干、反運営的アナーキーな思想の持ち主だったが、まあ所詮、アマチュアのやることだ。

 本格的に運営をハッキングするとかそういう事はしない。

 してないよ?

 というかそれをする前に「エディター」による「異変」が起こるのだがそれは先のお話。

 短編物書き兼アナーキストな亜未田久志という物書きの「カクヨム」での在り方はだいたいこんな感じだ。

 性別不詳、異能バトル好き、現ファン好き、SF復興を目指し、伝奇の在り方を取り戻すなどなど、物書きとしての姿勢は定まらず。

 ただ飄々と生きていた。

 これはそんな物書き亜未田久志のとある一篇。


 バックグラウンドと呼ばれる地域が「カクヨム」内にあった。

 少し治安が悪い地帯で、異能チャンバラが激化し、カラーギャングのような集団が闊歩する異能バトル物書きのメッカだ。

 そこに私はとある物を探しに来た。

 バックグラウンドに星百超えの大物は来ない。

 そもそも用が無いからだ。

 私、亜未田久志は、此処に「ゴースト」を探しに来た。

 それは都市伝説というか「カクヨム」に伝わる裏情報だった。

 とある作家の没原稿がそこに残留している。

 その作家は死亡している。

 故に「ゴースト」と呼ばれていた。

 正直、墓荒らしのような真似はしたくなかった、が。

 その作家の残した作風に惹かれ、噂を頼りに「ゴースト」探しに乗り込んでしまった。

 目が血走った物書きの巣窟。

 それがバックグラウンド。

「来るんじゃなかった……」

 今日で五度目の襲撃を受け、疲弊した私は帰りたくなっていた。

 しかし、今、此処でログアウトするとリポップするのもまたバックグラウンドになってしまう、ので。

 最後まで探し回り「ゴースト」を見つけるか。

 いそいそとホームへ帰るか。

 選択を迫られようとしていた。

 その時だった。

 青い青い半透明のアバターを見つける。

「ん?」

 私は思わず声を出す。

 あれこそ「ゴースト」ではないか?

 死後、カクヨムに残留したとある作家の没原稿。

 それが能力機能の搭載と共にアバターを伴って実体化した。

 考えた末、仮定「ゴースト」を追って路地裏に入る。

 そこには破壊された物書き達のアバターデータが大量に残されていた。

「しまっ――」

 虚空跳躍ファントムジャンプで一気に「ゴースト」から距離を取る。

『キヒッ』

「単なるウィルスデータかよ!」

 思い切り騙された。

 そもそもそんな作家のデータが治安の悪いバックグラウンドにあるという時点で気づくべきだった。

『シね!』

 大量のバグデータが襲いかかる。

 しかし変幻自在のファントムナイフは砕けない。

「ちょっと相手が悪かったな、戦闘特化を相手にした事は?」

 ゴーストもといウィルスデータに向かって大量の刃が射出される。

 スペツナズナイフと呼ばれる代物だった。

 リーチが短いほど威力が増す世界観に置いて、リーチと威力を両立する唯一無二の武器、それがこのファントムナイフ。

 ウィルスデータを一刀両断すると「カクヨム」運営に「通報」した。

「バックグラウンド内で起きた事にどれだけ対応してくれるのやら……もう二度と来ないだろうし、期待はしないでおこう」

 後日、ワクチンプログラムの推奨が「カクヨム」全体に促された。

「プログラム代は自己負担とか舐めてんのかっ!」

 いつものようにアナーキーな叫びをあげるのだった。

 これが亜未田久志の電脳空間「カクヨム」においての一篇。

 そしてエディター騒動のすぐ後「ノラ」ギルドに合流する事になる。

 まさかウィルスデータよりも厄介な戦いに巻き込まれるとは夢にも思っていなかったんだ――


                         「僕まだ」本編へ続く

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