第5話

現場捜査をしている間と同時に、ソフィアは音楽雑誌のリストを持ってきて、ノアの描いたギターに近しいものを探していた。

「さて、作品を飾るには心もあわせないといけない」

カタログを見ながら、ソフィアは静かに語り出した。

「たしかあの作品は、経済的困窮と親友の死の悲しみを負って作った作品」

「僕には親友と呼べる相手がいなくてね。しかし、今から親友を作るとなると新たな作品が生まれるのが遅くなる」

ノアには親友どころか友人と呼べるものすらいなかった。

ノアは元貴族の一員で、幼い頃から英才教育を受けていた。

語学・数学・音楽・作法……しかし中でも心惹かれていたのは"芸術"だった。

それはまず、デッサンから始まり、水彩画、油絵……そして彫刻。

芸術の全てにおいて、彼は天才と呼ばれていた。賞も幾つも取得しており、友人はいないものの、彼の芸術品を愛するものは数多くいた。

だが、両親はそれを善しとしなかった。男貴族であるもの、身につけるべきは商才や作法、戦法などだと思っていたからだ。

そこに窮屈さを感じたノアは家を飛び出し、この小さなアパートに身を置いている。ソフィアと出会ったのは、近くのスーパーで偶然であった。彼女も彼の芸術のファンであったのだ。

「それは、ノア様のファンにとっては精神的苦痛と言えるでしょう。ファンは、私も含め、あなたの作品を待ちわびているのですから」

「では、どうすればいい」

「作品の"元"は私の方で手配しましょう。その方と親友になればよいのです」

「だからどうやって――」

「さあ、ノア様。この宝石をよぉくご覧なさいませ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

これぞ素敵なリメインズ 花月-KaGeTsu- @kokone_aira

作家にギフトを贈る

カクヨムサポーターズパスポートに登録すると、作家にギフトを贈れるようになります。

ギフトを贈って最初のサポーターになりませんか?

ギフトを贈ると限定コンテンツを閲覧できます。作家の創作活動を支援しましょう。

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ