第2話
長い金髪を後ろでとめ、黒縁メガネをかけ、冷静沈着にオリビアは淡々と資料を読み上げる。
「被害者は近所の花屋に勤めるドラ・マール。23歳。
聞き込みからすると、笑顔が可愛くて近所でも人気な女性だったようです」
「かわいそうに。……見る影もない」
男性は手袋越しに真っ赤に染まった女性の顔に触れる。
「確かにそうですね」
オリビアは遺体を一瞥し、目を逸らす。
「顔の皮膚は焼け爛れ、本人かどうか判別するのは所持品にあった免許のみ。そして、下半身は切断され、行方不明」
そして、変死体と言われるが所以は
「身体はトルソーに見立てたかのように、棒に突き刺さっている」
という点だ。
突き刺さって宙に浮いている遺体。
横に切断された身体から血とともに心臓や肝臓といったような臓物がぶら下がっている。
その周りには、蠅が集り、ドブネズミなども群がっている。
「死亡推定時刻は」
男性は集っている蝿を払いながら、アメリアへ尋ねる。
「具体的な時間は不明ですが、まだ血が滴っているのを見ると昨晩から今朝にかけてかと」
男性は、俯きながらアメリアへ身体を向ける。
「彼女の昨晩の行動パターンは」
「それが、3日前から仕事を無断欠勤しており連絡が付かなかったと花屋の店主から聞いております」
「ふむ」
つまり、3日以上前から犯人と一緒にいた可能性がある。
殺されたのが昨晩だとしたら、2日間は酷い目に遭わされていた可能性がある。
アメリアは続ける。
「最後に目撃情報があったのは、4日前の仕事終わり。服装はピンクのアウター、白のTシャツに黒パンツだったと」
男性は、ドラ・マールだったものを見る。
「では、一度着替えには帰っているのかもしれないね」
「ええ、その可能性もあります」
違和感はやはりアメリアも感じていたようだ。
今彼女が着せられているのは黒のロングコートに黒シャツ。
それに、青い花がついている赤いハットだからだ。
「しかし違和感を感じないかい。アメリアくん」
そう聞かれて、アメリアは今一度ドラ・マールだったものを見る。
そして、男性の顔も見る。それは、憎しみにも悲しみにもとれるような表情であった。
彼が感じる異変がわからないオリビアは「なにがでしょうか」と尋ねる。
彼は、答えた。
「このコートにもハットにも、血が一切ついていないのだよ」
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