自分たちの希望と冒険者ギルドの要望
冬に備える買い物をする傍らでユウとトリスタンは仕事探しもしていた。大陸を北回りで西へと向かうと決めた2人だが、カウンの町からだと主に3つの経路がある。
1つ目は、一旦船で南に引き返してビウィーンの町かスチュアの町から大陸北部を目指す経路だ。しかし、仕事をしながら旅をすることが難しくなる。路銀についての問題をどう解決するのかが鍵だ。
2つ目は、東端地方のウェスニンの町へと海路で向かってそのまま大陸北部を目指す経路だ。海が荒れるこれからの時期は往来する船舶も減少するので、この中にどうやって潜り混むかが問題である。
3つ目は、東端の街道をたどってウェスニンの町へとたどり着き、そこから海路北に目指す方法だ。こちらはまだ見ぬ蛮族の脅威をしのげるのかという点が問題である。
これら3つのうち、1つ目は道中の仕事の獲得に悲観して2人は早々に諦めた。なので、残るは2つ目と3日目である。
これに関してユウたちはカウンの町の冒険者ギルド城外支所で尋ねることにした。石造りのしっかりとした建物に入ると、ユウはまっすぐに受付係へと向かって話しかける。
「ここからウェスニンの町へ向かう船の仕事はありますか?」
「ありません。そもそもカウンの町からウェスニンの町までの船の仕事はあまり依頼されませんから、期待されない方が無難です」
「どうしてですか?」
「東端地方ですと海賊はほとんどいないので冒険者を雇う必要がないからです」
「この辺りってそんなに海賊が少ないんですか?」
「元々往来する船の数が少ないのと、この辺りには海賊の拠点になるような島もないからです。しかも冬の海は荒れますし」
「海賊にとって仕事がやりづらい上にうまみが少ないわけですか」
「そうです。もっと南に行けば東部辺境やモーテリア大陸東部みたいに豊かな場所があるんですから、わざわざこちらにやってくる理由もありませんしね」
無表情の受付係の説明を聞いたユウとトリスタンは何も言えなかった。まさか田舎過ぎて儲けが少ないために海賊も襲いに来ないなんていう理由だとは予想外である。
これで残るは3つ目のみとなるが、こうなると東端の街道の仕事もあるかどうか怪しくなってきた。もし陸路も仕事がないと返答されると1つ目の案が復活だ。
まさかの展開を予期しながらユウは受付係へと更に尋ねる。
「でしたら、ウェスニンの町へ向かう荷馬車の仕事はありますか?」
「それでしたら1件ありますね」
「どんな仕事があるのか教えてください」
陸路の仕事はあるという返事を聞いたユウは安心した。さすがに八方塞がりではないようだ。受付係の言葉をそのまま待つ。
「ヴィリアンの村行きの隊商の護衛です。臨時便で蛮族に襲撃された村の支援物資を運ぶのが目的ですね。報酬は1日銅貨6枚で、護衛の冒険者の都合が付けばすぐに出発する予定です」
無表情の受付係の言葉を聞いたユウとトリスタンは顔を見合わせた。臨時便はすぐにでも出発するようだが隣村までしか進めないらしい。
今度はトリスタンが受付係に尋ねる。
「ヴィリアンの村まで行ったとして、そこから先は現地でまた仕事を探すことになるんだよな?」
「そうですね」
「そのヴィリアンの村にはウェスニンの町方面へ向かう荷馬車の仕事ってどのくらいあるんだ?」
「それは現地の冒険者ギルドで確かめてもらうしかありません。ただ、村から出発する隊商の仕事は、村に在住する冒険者か警備隊の仕事をした冒険者が優先されます。その点を考慮してください」
「村の警備隊の仕事?」
「はい。ヴィリアンの村での警備および巡回任務です。村を蛮族から守るための仕事ですね。報酬は警備および巡回任務がある日は1日銅貨2枚です。ただし、就業期間中の3度の食事と1日分の水は雇い主が提供し、寝床の宿舎も任務がない日も利用できます」
聞き慣れない仕事を耳にしたユウとトリスタンは再び顔を見合わせた。蛮族の襲撃があるのなら警備隊の存在はおかしくないが、冒険者にその仕事が依頼されるのは珍しい。
再びトリスタンが疑問を口にする。
「そういう仕事は傭兵の仕事じゃないのか? 特に蛮族相手なら」
「この地方ですと人手は常に足りていないので、冒険者にも門戸が開かれているのです」
「それにしたって、1日銅貨2枚って安すぎないか? しかも任務がある日だけにしか支給されないなんて。この地方は町の中並の銅貨単位で生活しなきゃいけないんだぞ」
「ですから、任務のない日であっても食事と寝床を提供するようになっているのです。村の財政も苦しいので、そこは理解していただくしかありません。ただし、食事は3度とも温かい物が用意されます」
「宿舎は?」
「私たちが知る範囲では、安宿の大部屋だと聞いています」
「その宿舎って、酒場が併設されているとかないのか?」
「ないですね。酒場は村のものを利用してもらうことになります」
「つまり自腹か。討伐報酬はどうなっているんだ?」
「討伐報酬は、魔物が1体銅貨2枚、蛮族が1人銅貨4枚です。また、倒した魔物や蛮族からの戦利品は当人の物となります。これらは隊商護衛のときと同じですね。尚、短期間や期間限定での応募でも可能です」
「らしいぞ、ユウ」
相棒から話を振られたユウは微妙な表情を浮かべていた。貧しい地方での仕事となるとこんなものと言えばこんなものだ。恐らく、食えない冒険者に仕事を与えるという意味もあるではと推測できる。
東端地方を通過したいだけのユウからすると受けたい仕事ではない。しかし、荷馬車の護衛の仕事を待っている間にも生活費はかかるので何かしらをして稼ぐ必要はあった。
物は試しとユウは無表情の受付係に質問してみる。
「例えば、ヴィリアンの村で荷馬車の護衛の仕事を引き受けるまでの間だけ、警備隊で仕事をするということは可能ですか?」
「あらかじめ期間を明示するのでしたら不可能ではありません。例えば2週間だけなど」
「ということは、荷馬車の仕事があったから数日後に辞めますってのはさすがに」
「できないですね」
そこまで都合が良いわけではないことを知ったユウは苦笑いした。さすがにある日突然当てにしていた冒険者に辞められるとあっては何も計画が立てられない。
再び黙ったユウに無表情の受付係が話しかける。
「ヴィリアンの村は先月末に蛮族に襲撃されて損害を受けたので周辺の町が支援している状態です。それは物資はもちろん、警備隊の戦力の補填もです。冬の間は蛮族の活動も低調になりますが、その直前である今の時期は逆に毎年蛮族の襲撃が増える傾向にあります」
「先日襲われたんですか」
「はい。そのため、村の再建は急務です。この警備隊の任務を引き受けてもらえた場合、東端連合への貢献が高くなるので冒険者ギルドの覚えも良くなります。それに、ウェスニンの町まで行くのなら、今よりも蛮族の襲撃が低調になる冬の方が安全です」
「雪が降ると厄介だと聞きましたが」
「冷え込みの厳しさはどうにもなりませんが、隊商の護衛をしながらでしたらその隊商の世話を受けられるので大した問題にはなりません。蛮族の襲撃よりかははるかにましです」
雪の脅威に直面したことのないユウはそんなものかと思うしかなかった。ただ、荷馬車の護衛をしながら進むのならば隊商の庇護を受けられるのは確かだ。ならば、現地の人間の知恵を借りることもできるだろう。
問題なのは、冬になるまで警備隊の任務に就く危険性だ。先月襲われた上にこれから蛮族の活動が活発になるのならば、任務中に襲撃される可能性は高いだろう。そうなると、あの安めの報酬では仕事は引き受けたくはない。本来ならば。
ユウはトリスタンに顔を向ける。
「たぶん、この警備隊の任務を断って村まで行ったら、そこから先の護衛の仕事がいつ僕たちに回ってくるかわからないよね」
「俺もそう思った。村に在住する冒険者か警備隊の仕事をした冒険者が優先ってことは、普段は村の冒険者で回していて、たまに警備隊から抜けた連中を挟み込んでいるんだろう」
「だよね。ということは、東端の街道を進む場合は警備隊の仕事は避けられないってことかな」
「いい商売してやがるぜ」
「頭数がそれだけ足りないんだろうね。あの、11月の末までなら警備隊の任務っていうのを引き受けても良いですけど」
「ありがとうございます」
「その後は荷馬車の護衛の仕事を優先して回してもらえるんですよね、ウェスニンの町まで」
「証明書を発行しますのでその点はご心配なく」
初めて笑顔を見せる受付係にユウとトリスタンは渋い表情を浮かべた。毎回町や村で何日も待つのは懐に厳しいし、2人で歩いて街道を進むのは更に避けたい。
その後、手続きは速やかに進んだ。
次の更新予定
冒険者の万華鏡 佐々木尽左 @j_sasaki
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