現実世界が一番だけど、お兄ちゃんと一緒なら異世界でも最高です!
折原さゆみ
第1話 異世界って憧れるよな
「ああ、やっぱり異世界って、はたから見たらいいよなあ」
私の兄はことあるごとにそんなことを言っている。兄は最近はやりの主人公が異世界転生したり、異世界に突然転移してしまったりする物語にはまっている。兄は今日も一冊の漫画を読み終わって、リビングのソフでとても満足そうにつぶやいている。
中学一年生の私と兄は年が四つ離れている。兄は高校二年生だが、部活もバイトもしていない。暇を持て余しているのか、家に帰るとリビングのソファで最近はまっている異世界系のライトノベルを読み漁っているのだ。
「そんなに異世界ってよいものかな?」
「夢叶(ゆめか)はロマンがないなあ。ありえないことが起こる世界だからいいんだよ。魔法が使えて、ドラゴンやエルフや妖精がいる世界なんて、憧れるしかないだろう?」
とはいえ、実際に住みたいとは思わないが。
兄はぼそりなにか言っているがよくわからない。とりあえず、私の異世界に対する意見を述べておく。
「私は異世界に別にロマンも感じないし、憧れないよ。私だって、お兄ちゃんがはまってる異世界系の話読んだことあるよ。でもさ、そこではスマホは使えないし、家にはエアコンもストーブもないでしょ。今の便利な生活に慣れているのに、わざわざそんな不便な生活したくない」
「それは一理ある。でもまあ、たまにはいいと思うけど」
ソファから立ち上がった兄は大きく伸びをする。そして、私の感想に不満を漏らしたが、それ以上、異世界の話をすることは無く、リビングから出ていった。
「あら、夢叶(ゆめか)、お兄ちゃんは?ソファに座っていなかった?」
「漫画を読み終わって自分の部屋に戻っていったよ」
兄が出ていったのと入れ替わりに母がリビングにやってきた。兄とは廊下で鉢合わせることは無かったようだ。
「あらそう、お兄ちゃんに電球を変えてもらおうと思ったんだけど。来夢(らいむ)は背が大きいからね」
「お父さんに頼めば?」
「そうするしかないわね」
「部屋に戻ったのなら、当分部屋から出てこないよ」
兄は自分の部屋にこもると、私たちが部屋の外から声をかけても無視されてしまう。扉は鍵がかかって開けられないので困ってしまう。しかし、数時間もすれば部屋から出てくるので家族は特に気にしていない。
(いったい、自分の部屋でなにをしているのやら)
自分の部屋で本を読まずにリビングで読んでいるのだ。もしかしたら、学校の宿題をやっているのかもしれない。漫画を読みふけっている割に兄の成績は良いことを私は知っている。
私が必死に勉強してもあまり良い点が取れないのに、兄はさらっと私よりよい点数を取ってしまう。まったく嫌みな兄である。
ちなみに頭の出来だけでなく、兄と私はあまり似てない。兄は元の髪色が茶色っぽく二重のぱっちりした瞳で色は白い。身長はすらりと高くいわゆるイケメンである。対して私は髪も瞳も真っ黒で奥二重で浅黒い肌をしている。身長は高めだが似ているのはそれくらいだ。兄は母親に似て、私は父親に似てしまった。
だから、二人で並んで歩いていても兄妹だと言われることがない。
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