第2話 謎の扉

「これっていったい……」


 私は自分の部屋に突然現れた大きな扉に戸惑っていた。兄が自分の部屋にこもっているので、私も自分の部屋で宿題をすることにしたのに、これでは宿題どころではない。大きな扉は部屋の中央にそびえたち、部屋に似合わない豪華なつくりをしていた。部屋のドアの数倍はある、重厚な木の作りの扉は部屋に入ってすぐ目に入った。不思議な現象が起きているが、もしかしたらこれは。


「異世界につながる扉だったりして」


 言葉にしてみると、ばかばかしいがそれ以外に考えられない。兄の部屋に謎の扉が現れたなら、神様とかが異世界好きの兄を招待したのだと納得できる。しかし、私は異世界に否定的な人間だ。そんな人間の前に扉が現れる理由がわからない。


 とはいえ、扉を開けてそこから異世界にいけるのだとしたら。


(せっかくだし、扉の先につながっている世界に行くのもアリかも)


 あまりに非現実的な出来事が目の前で起こっているせいで、思考がおかしくなっていた。私は恐る恐る扉に手を伸ばしてみることにした。


 物語の中では、一度扉を抜けると一生元の世界に戻れないことも多いが、その辺のことは私の頭からすっかり抜け落ちていた。



 扉は私が手を触れる前に勝手に開いた。慌てて扉の中を覗いてみるが、真っ暗で何も見ることが出来ない。


(もしかしたら、お兄ちゃんが望むような異世界ではないかもしれない)


 扉の向こう側で何が待ち受けているかわからない。異世界なのか、地球上にある場所なのか、天国か地獄なのか。しかし、なんとなく今この扉をくぐらなければいけない気がした。危険を覚悟で私は扉をくぐることに決めた。



(覚悟は決まったけど、足が進まないんだよなあ)


 決意したのは良いものの、私はしばらくの間、扉の前でたたずんでいた。


「ゆめかあ。そろそろお風呂に入りなさいねえ」


 一階から母親の声が聞こえてくる。慌てて部屋の壁時計を確認すると、確かにそんな時間だ。


(こういうのって、扉の先と今の時間の流れが違っていて、扉の先の世界で過ごした時間と戻ってきたときの時間が違うのがお約束だよね)


 小さいころ読んだ物語でそういう展開の話があった。自分が住んでいる場所とは別の場所で過ごした時間と、現実の世界に戻ってきたときで時間のずれがあったのだ。私の場合もそうなるだろうか。


 母親の声を聞いて、私は思い切って扉に足を踏み入れた。扉は私を中へ引きこみ、そのまま閉じてしまった。そしてそのまま扉は部屋から消滅した。


 私の部屋は部屋の主がいない以外、元の部屋の状態となった。




 扉の中は真っ暗で、下に落ちているという感覚しかわからない。下へ下へ落ちながらも意識はしっかりと保たれていた。真っ暗闇で何も見えない状態が一分ほど続いたが、唐突に明るくなる。


「まぶし!」


 急に明るくなったと思ったら、私は扉を抜けてどこかの森の中に放り出された。後ろを振り返ると、扉がたたずんでいたが、すぐに扉は消滅した。扉がなくなったということは、しばらくの間、扉が案内したこの場所で過ごせということだろうか。


 辺りを見わたすと、日本の森とは違うことに気づく。日本の森よりも木がうっそうとしていて、薄暗かった。森の真ん中の開けた場所に放り出されたが、これからどうしようか。


(もしかしたら、魔物とかやばい生き物がいたりして……)


 だとしたら、今のままだとすぐにやられてしまう。武器になるようなものはもっていない。部屋着のTシャツにジャージという格好の私に何ができるというのか。ジャージのポケットを探ってみるが、そこには何も入っていない。スマホは部屋の机の上に置きっぱなしで連絡を取ることも出来ない。いや、持っていたとしてもこんな場所でスマホが使えるとは思えない。


 いきなり、絶体絶命のピンチに立たされてしまった。



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