第5話 異世界特有の服装

「あれ、私って名前を教えた?それに」


 男は一緒に帰ると言っていた。それはいったいどういう意味か。魔法の件もあるので、これは確実に。ひとり部屋に残された私は、先ほどの男の言葉を思い出し考える。


(だとしたら、めちゃくちゃ恥ずかしい……)


 兄に似た男が本当に兄だったとして、今は女性たちと外に出ていった。今考えなければならないことは、自分自身の状態を確認することだ。ベッドから下りて大きく伸びをするが、痛いところはないし、特に目立った外傷はない。身体に異常はないようだ。


 私は男の言いつけを破り、兄たちの元に向かうことにした。


 外に出ると、空は青く雲一つない晴天だった。この世界の空も、元居た世界と同じ空の色だ。まだそれほど時間が経っていないはずなのに、家が恋しくなってしまう。家に帰るための方法は男が知っているのだろう。何とかして男に会うため、私は歩きだした。




(いざ、外に出てみたはいいけど、どっちに行けばいいのだろうか)


 男の家から出たはいいが、既に男と女性二人の姿はどこにも見当たらない。改めてこの街の様子を確認すると、兄が話している異世界の世界にそっくりだった。家が道の両側に並び、道の前では露店が立ち並んでいる。


(今はまだ昼間のはずなのに、どうして誰もいないの?)


 きっと、何時もなら露店はたいそうにぎわっているのだろう。そう思ったのに、今は露店には人っ子一人見当たらない。道を歩いている人もいなかった。


(そういえば、ドラゴン?が来ているとか何とか言っていたな)


 深紅の髪の女性が言っていた気がする。ドラゴンなんて、異世界の定番の生き物だ。村に危険を及ぼす危険があるのだろう。それを男と女性二人が退治しに行ったのだ。


(とはいえ、あの女性二人がドラゴン退治か)


『異世界でいいところは、女性の露出が高いところだよな。現実でそんな恰好で歩いていたら、普通に捕まるレベルだろ。しかも、そいつらを見ているだけで俺たちはセクハラで捕まりそうだ』


 兄が家でよくつぶやいていた。異世界というのは女性の露出度が高いらしい。兄を探しながら町を歩きながら、先ほど兄を迎えに来た女性の服装を思い出す。


 赤髪の女性は騎士みたいだった。鎧を身に着けてはいたが、胸周りだけぽっかりと空洞になっていた。あれでは胸を剣で刺されたら致命傷を受けてしまう。下半身は膝上までの皮のロングブーツを履いていたが、お尻の付け根当たりまでしかない下着のようなショートパンツを合わせていたので、太ももの絶対領域が丸見えだ。これもまた太ももに剣を突き立てられたら致命傷だ。


(女騎士には見えるけど、あの服は戦には向かないと思う)


 もう一人の女性は聖職者のようにも見えた。長いローブを羽織っているのは漫画で聖職者が多い。しかし、聖職者というには余りに幼い容姿だった。銀髪を背中に伸ばした可愛らしい少女だった。しかし、可愛らしいのは容姿だけで服装は決してかわいいものではなかった。ローブの裾から見えるスカートはひざ下まであったが、かなりのスリットが入っていて、お尻が見えるくらいのものだった。どんな下着を身に着けているのか知らないが、あれでは歩くたびに下着が見えそうだ。


『ユメはコスプレでもあんな破廉恥な服は着るなよ』


 兄に絶対に着ないのに念押しされていたことを思い出す。コスプレはみるのは楽しいが、自分が着たいとは思わないので、ただ適当に返答した気がする。


 そんなことを考えながら歩いていると、町のはずれまで来てしまった。町自体はあまり大きくないようだ。


 私が迷っていた森だと思われる場所に到着した。金髪の男と深紅の髪色をした女性、銀髪の女性の姿が確認できた。

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